「大阪府が萌え絵を禁止した」という、思わず頭にハテナマークが点灯するニュースが飛び込んできた。話の発端は大阪府が今年3月に発表した「男女共同参画社会の実現をめざす表現ガイドライン」である。さっそく見てみると、その6ページに萌え絵っぽいイラストにバツをつけたものが……。いったい、大阪府でなにが起こっているのか?(取材・文:昼間たかし)
電話口で困った声を漏らす大阪府
これは、あくまで大阪府が情報発信するときのガイドラインだが、府のサイトには「府民、事業者の方々にもご参考にしていただければ幸いです」という記載もある。どんな内容なのか。
ネットで話題の中心になっているのは、6ページ。そこにはこんな一文があった。
「女性を描くときは外見(若さや性的側面など)のみを切り離さずに、人格を持った多様な姿で描くようにしましょう」
これに対して、ネットでは描き手から「そんな描き方は無理」という批判的な意見が。一方で「それができないのは創作者として問題」とガイドラインの批判に対する批判の声も見られる。
意見は様々だが、やはり気になるのはどういった描き方なら「人格を持った多様な姿」になるかということ。考えてもわからないので、ガイドラインを作成した大阪府の府民文化部男女参画・府民協働課に聞いてみることにした。
電話して、取材趣旨を伝えると電話口の向こうからは「あ、ああ……」と困った声が。電話を替わった担当者もやっぱり困った声である。まだ集計していないが、既にメールなどで「ガイドラインに対するお問い合わせ」が、けっこう来ているという。
さて、本題の「人格を持った多様な姿」の描き方について担当者の回答はこうだ。
「多様な姿というのが抽象的だとは思いますが、表現の自由がある中で、大阪府がNGとOKの線引きや描き方を示すことはできません。なにより、ここで示したかったのは、文章の中段部分だったのですが……」
改めて文章を見てみると、続く中段部分にはこう書かれている。
「安易に女性をアイキャッチャーとして起用するのではなく、『伝えたい内容が何か』を考え、広報内容にあった表現方法を心がけましょう。これらのことは、男性の起用に関しても同じことが言えます」
ここから図解を挟んで、囲みで「PR動画やポスターの『炎上』」というタイトルで「萌えキャラ」を利用した広報の炎上への注意喚起が綴られている。
「市民の声」に右往左往する関西の特性
この件で思い出すのは、2008年に大阪府堺市の図書館で起こった「ボーイズラブ(BL)」書籍の貸し出し制限をめぐる騒動だ。
これは堺市に「セクハラではないか」「子ども悪影響を与える」という市民からの意見が相次いだことによるものだが、この事が明らかになると、今度は「図書の排除や検閲は許されない」という意見が殺到。一転、貸し出し制限の撤廃へと到った。
これに限らず「市民の声」に過敏で、様々な意見に自治体が右往左往するのは、大阪府をはじめとする関西の自治体の特性といえる。
図書の規制をめぐる問題に詳しい元日本図書館協会図書館の自由委員会委員長の西河内靖泰さんは語る。
「こんなガイドライン、炎上するに決まってまうよ。本来ガイドラインというのは、もっと淡々と記すものでしょう。まさに、大衆にわかってもらおうとサービス精神旺盛なお笑い文化に裏打ちされたガイドラインだと思います。もともと、関西の自治体はどこも大きい声に弱く、中身の精査は二の次です。これも作成時に大きかった声に配慮した結果でしょう。悪気なんてないんでしょうね」
今や自治体や企業などあらゆるところで「萌えキャラ」の利用は珍しくなくなった。ただ、何にでも「萌えキャラ」を使っておけばいいというのが安易な発想であるのは事実である。「萌えキャラ」の起用で盛り上がっている地域に出かけてみると必ずしも絶賛の声ばかりではなく、批判的な声もよく聞くものだ。
ただ、大阪府の意図が「安易なイラスト使用や表現で炎上しないように気をつけましょう」ということならば、「人格を持った多様な姿」という一文や、「萌系イラストにバツ印」のイラストも、サービスというよりは、ちょっと考えの足りない表現だったと思うのだが……。
ともあれ、このガイドラインに対して、怒りを呼びかける動きが増加中。対する大阪府の担当者は「現状、様々なご意見を頂いているわけですので、これを踏まえて検討はしなければならないと思っています。まずは頂いたご意見をもとに論点をまとめる予定です」と話していた。