2021年09月27日 10:11 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの感染拡大の「第5波」により、身近に感染者が出たという人も多いようです。
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弁護士ドットコムニュースのLINE登録者約1万5千人に「感染拡大で生じたトラブル」について呼びかけたところ、「感染者が出たのに作業場にアルコールも何もない」「感染者が出ても在宅勤務を認めない」など職場の感染対策に疑問を持つ人が多数見られました。
栃木県に住む50代の会社員は、勤務先で感染者が出たものの、何も対策が取られないことに疑問を感じています。
「私の作業場は、外部と1番接触する仕事。しかし、外部の方が入門する際熱も測らなければ、作業場にアルコールも何もない。全く以前と変わらない。アルコールや隣の人との壁があるのは、いわゆる事務所。これってどうなんでしょうね」
都内の百貨店で働く警備員の50代男性は、職場で感染者が相次いでいるものの、感染対策がまともに取られていないと嘆きます。
「やってる感の演出だけで、休憩所や食堂、喫煙所は三密状態。地下食料品売り場で感染者が毎日のように出ていますが、行列ができるようなイベントをしています」
関西の温浴施設でマッサージの仕事をしていた女性は、職場の対応に「お客様とスタッフを守るという概念はない」と感じ、退職を決意しました。
「お客様もマスクを着用されていないことがあり、エリアマネージャーに相談したんですが、『マスクをしてない人でも、やらなければなりません!』と耳を疑う返答でした。
必要換気量を満たさない小さな換気扇が天井に2つ、空気清浄機の設置もない空間で、電気代がかかるから窓を開けてはいけず店舗内の消毒もしない、タオルも使いまわすなど、私には耐え難い状況でした」
このような職場の対応について、労働問題に詳しい大木怜於奈弁護士は「安全配慮義務に違反すると判断される可能性が高い」と指摘します。コロナ禍における職場環境の安全性について法律はどう定めているのでしょうか。詳しく聞きました。
ポイント1:厚労省による「職場における対応」指針
職場内での感染防止対策を放置することは、公衆衛生の観点からも問題があることから、厚生労働省は、対応指針を示しています(令和2年3月31日付「新型コロナウイルス感染症の大規模な感染拡大防止に向けた職場における対応」)。
これによれば、
(1)職場内の換気の徹底(1時間に2回程度の換気など)、
(2)接触感染の防止(物品・機器等の複数人での共有の回避、消毒、こまめな手洗い、アルコール消毒等)、
(3)飛沫感染の防止(咳エチケットの徹底、換気の徹底、ソーシャルディスタンス等)、
(4)一般的な健康確保措置の徹底(従業員各自の健康管理等)、
(5)通勤・外勤に関する感染防止行動の徹底、
(6)在宅勤務・テレワークの活用 などを要請しています。
しかし、上記要請は、あくまでも法令ではなく、また、労働安全衛生法等に基づく法的規制と位置付けられるものでもないので、強制力はありません。したがって、これらの要請に違反したからといって労働安全衛生法違反にはなりません。
ポイント2:使用者の安全配慮義務違反
労働契約法、労働基準法、労働安全衛生法その他の様々な労働法令は、本来、労働者の生命・安全の保障に本源的な存在意義があり、労働時間の規制等の労働条件の規制もまた労働者の生命・安全の保障に由来するものです。
使用者である企業としては、感染症の発症という健康や安全に対する具体的危険が人の組織的活動である企業活動に対する現実の脅威になっている場面においては、労働者の健康保護こそが第一義的な課題となります。
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定し、使用者の安全配慮義務を規定しています。
そうすると、使用者としては、先の厚労省の指針(「新型コロナウイルス感染症の大規模な感染拡大防止に向けた職場における対応」)の(2)接触感染の防止(物品・機器等の複数人での共有の回避、消毒、こまめな手洗い、アルコール消毒等)の要請に従い、労働者の生命・安全の保障を確保することも使用者の安全配慮義務の内容となると考えられます。
したがって、上記要請に違反し、労働者の生命・安全の保障を漫然と怠っていると、使用者の安全配慮義務違反があるとして、安全配慮義務履行請求や損害賠償請求を受けることとなります。
いずれものケースも(2)接触感染の防止や(3)飛沫感染の防止の不徹底が明らかです。
使用者が、そのような状況で、労働者に対して就労を強要することは、労働契約法第5条に規定する安全配慮義務に違反すると判断される可能性が高く、労働者から、安全配慮義務履行請求や損害賠償請求を受けるリスクがあります。
これらのケースの使用者としては、適切な安全配慮義務の履行にあたり、適切な措置を取るようにすべきです。
もっとも、使用者として、どの程度まで現実に対応できるか、その対応で安全配慮義務違反とならないかという点については、弁護士へのご相談を活用いただきたいところです。
労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます)第22条第1号及びこれを受けた安衛法規則(以下「安衛則」といいます)第576条、第581条や第585条が、有害物である病原体を直接取り扱う医療・研究職等を対象として、事業者に対して、病原体による感染等の防止措置を義務づけていますが、業務上、感染症の原因である病原体を取り扱うことのない一般企業の従業員には、この規定が適用されることはありません。
また、安衛法第23条には、事業者に対して、換気などの職場環境の維持保全等に関する規制の規定がありますが、同規定は、感染症防止対策から設けられた規定ではありません。
このように現行安衛法では、病原体を直接取り扱うことがない一般従業員に対する感染症防止対策は、法規制として設けられていません
【取材協力弁護士】
大木 怜於奈(おおき・れおな)弁護士
弁護士登録前の会社員としての勤務経験も活かし、ビジネス実態に即したリーガルサポートの提供を心掛け、企業法務においては、「管理法務」を取扱業務の柱として、多様な経営者のパートナーとして、人事労務、営業秘密管理、風評管理など、様々なサービスの拡充に努めております。
また、労働問題にも重点的に取り組み、「企業の人事労務クオリティ向上による従業員に対する真の福利厚生の実現」を目指しています。
事務所名:レオユナイテッド銀座法律事務所
事務所URL:https://leona-ohki-law.jp/