2021年09月25日 09:51 弁護士ドットコム
「親ガチャ」という言葉が話題になっています。子どもは親を選ぶことはできず、生まれてくる境遇は運任せという意味なのですが、この言葉を使うことについて、賛否さまざまな意見があります。
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元大阪府知事の橋下徹さんは、9月21日に出演したTBS系情報番組「ゴゴスマ」で「親ガチャ失敗って言いたくなるような子どもがいるのは確かなので、やっぱり社会で支える仕組みが必要です」と語っています。
一方、ダウンタウンの松本人志さんは、19日放送のフジテレビ系「ワイドナショー」で、「親ガチャという言葉は大人がシリアスに取り上げて面白くなくなった」と背景を説明しています。
他にも、ヒロミさん、ひろゆきさん、茂木健一郎さんなど、多数の著名人がテレビやSNSなどで言及しています。
「親ガチャ」については、親の経済的状況の視点で捉えて、「結局は自己責任」という意見が出てくることもありますが、法律相談をみると、自己責任とは言い難いケースも散見されます。
弁護士ドットコムに相談を寄せた社会人2年目の女性は、働き始めてから通帳や給料を全て母親に預けさせられ、「今までかけてきたお金を払うまでは給料は渡せない」「生活が苦しい」などと言われたそうです。
「家を出ようにもお金がないし、遊びに行きたくても、母から千円すら渡してもらえません」と打ち明けます。通帳が隠されたため、勤務先から給料を現金支給してもらった際には、母は怒って暴れ出し、弟たちにまで手を挙げたそうです。
過度に干渉してくる親に悩まされる女性からも相談がありました。
この女性は、交際相手と同棲していましたが、「相手が気に食わない」と言われて、実家に戻されて、結婚相談所に勝手に登録させられました。結局、家出をする形で結婚したそうです。
すると、「遺産の話があるので家に一度来てください」などのメールが毎月届くようになりましたが、夫について、「あの人は調子のいいことを言ってお前を騙している」などと言われる状況だそうです。「もう限界です」と打ち明け、法的に何かできることはないか、相談しています。
これらのケースで、法的に親子の縁を切ることは可能なのでしょうか。
実際のところ、親子の「縁」を法的に断ち切ってしまう制度は存在しません。分籍や婚姻などで戸籍を分けること自体は可能ですが、それによって法的な親子関係が解消されるわけではありません。
現実として問題になる可能性が高いのは、相続と扶養義務です。
相続についてですが、親の死後、生前親が持っていた借金を相続したくない場合は、相続放棄という手段を取ることができます。
一方、自身が死亡した後に所有していた財産等を親に相続させたくない場合は、特定の人物に相続させる旨の遺言を残しておいたり、遺留分を有する推定相続人の廃除という制度を利用したりすることは可能です。
遺言を残す場合、「遺留分」と呼ばれる最低限の遺産の取り分というのは存在するということに留意する必要があります。
扶養義務については、民法877条1項で「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定されており、放棄することは難しいです。しかし、子の負う親の扶養義務は、余力の範囲内でいい(生活扶助義務)とされています。当事者間で話がまとまらない場合、家庭裁判所の審判に委ねられます。
「親ガチャ」にハズれたとしても、残念ながら法的な親子関係を切ることはできません。親子関係というのはどうにもならないから難しい。だからこそ「親ガチャ」という言葉が社会的にも注目されている面もあるのではないでしょうか。
【監修弁護士】
濵門 俊也(はまかど・としや)弁護士
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えている。依頼者の「義」にお応えしたい。
事務所名:東京新生法律事務所
事務所URL:http://www.hamakado-law.jp/