2021年09月23日 07:41 弁護士ドットコム
上川陽子法相は9月16日、社会問題となっているネット上での誹謗中傷対策として、侮辱罪に懲役刑を導入する刑法改正を法制審議会に諮問した。
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現在の法定刑は、拘留(1日以上30日未満)または科料(1000円以上1万円未満)で、刑法では最も軽い罰則となっている。今回の諮問は、現行法に「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」を追加する内容だ。
侮辱罪は、事実を摘示せず、公然と人を侮辱した場合に成立する。不特定多数の人がいる場で面と向かって悪口を言うような場合だけでなく、SNSなど公開されているネット上の投稿も侮辱にあたり得る。
厳罰化によってネット上の誹謗中傷を減らす狙いで、ネットでは歓迎する意見が多数だが、その一方で「批判と中傷の線引きが曖昧で、言論が萎縮してしまわないか」「権力者が批判を封じ込めるためにも使えてしまわないか」など懸念する声もみられる。
今回の厳罰化をどう考えるべきか。ネット上の誹謗中傷に詳しい田中一哉弁護士に聞いた。
——政府は侮辱罪の厳罰化に動くようです。
中傷被害者救済という観点からは歓迎すべき事だと思います。
現状では、投稿者を特定するまで1年近くかかることが少なくありません。そのため、現在の侮辱罪の公訴時効期間(1年)では、特定前に時効が成立してしまうことが多いのです。
この点、今回の改正が実現すると、時効期間も「3年」に延長されますので、このような泣き寝入りのケースは格段に少なくなると思います。
——言論の自由への悪影響を懸念する声も少なからず見受けられます。
萎縮的効果という点では、たしかに懸念があります。
発言する際、常に処罰される可能性を考慮しなければならないとしたら、ネット上で自由な議論は成立しなくなるでしょう。
判例上も、侮辱の成否については、いまだ明確な線引きはされていない状況ですので、そのような懸念は杞憂でないと思います。
——誹謗中傷対策を推進する際、厳罰化のほか、どのような点に留意すべきでしょうか。 私のところに相談に来られる方の中には、「警察に相談したけれども、動いてもらえなかった」という方が少なくありません。
いくら法を変えても、それが適正に運用されなければ意味がありません。「厳罰化して終わり」ではなく、被害者と直接真摯に向き合うための仕組み作りにも配慮して欲しいと考えています。
【取材協力弁護士】
田中 一哉(たなか・かずや)弁護士
東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。
事務所名:サイバーアーツ法律事務所
事務所URL:http://cyberarts.tokyo/