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繰り返される「入管」死亡事件、「本来の収容のあり方」を問うシンポ開催 日弁連

2021年09月22日 11:41  弁護士ドットコム

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入管での「死亡事件」はなぜ繰り返されるのか――。日本弁護士連合会(日弁連)は9月15日、あいつぐ法務省・入管の施設での死亡・傷害事件を検証するシンポジウムをオンラインで開催した。(ライター・碓氷連太郎)


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●「違法な収容が、ウィシュマさんの死に結びついた」

このシンポには、名古屋入管の施設で亡くなったスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんの遺族も参加した。これまでに入管施設内で起きた複数の死亡・傷害事件について、映像や資料を交えての報告があった。



冒頭の基調講演では、ウィシュマさんの遺族代理人である駒井知会弁護士が、ウィシュマさんが進学率15%のスリランカで大学を卒業したのち、子どもたちに英語を教えていたこと、2017年に日本に留学したことなどに触れた。



ウィシュマさんは、日本に来てから同居した男性からDVを受けていた。



その際に「私彼氏から長い時間殴るもらって犬みたいでうちの中で怖くて待っていました」「彼氏に家賃とお金の半分あげるできなかったからもういらない言われた」(原文はローマ字)と書き残した。駒井弁護士は、このメモを取り上げて次のように述べた。



「そもそも(ウィシュマさんは)DVの被害者として、扱われるべきではなかったか。入管庁の内部通達に付属するDV事案に関する措置要領には、退去強制の手続きを続けるには原則として仮放免、身体を拘束しないかたちで進めるとある。



一緒に住んでいる彼から追い出されて、行く先がなかったとしても、シェルターや一時保護先に協力を求めて、収容するのではなく、保護して必要な手続きをとるべきだったのではないか。



しかし、名古屋入管の職員はそもそも、この措置要領を把握していなかった。名古屋入管の職員が内規を理解していたら、収容されなかったのではないか」(駒井弁護士)



さらに、駒井弁護士は、ウィシュマさんが入管施設内で体調不良となり、仮放免を申請したものの不許可となり、その後、命を落としたことについて、遺族とともに「収容には必要性、相当性がなかったのではないか」と違法な収容が死に結びついたと批判した。





●ウィシュマさん以外にも亡くなった人たちがいる

ウィシュマさんの死をきっかけに、その真相解明や入管庁の在り方をめぐるデモや抗議が国会前で続いていたが、入管で亡くなったのはウィシュマさんが初めてではない。



1997年から2021年までに、全国の入管施設内で21人もの収容者が、命を落としていることがわかっている。



浦城知子弁護士は、あるカメルーン国籍の40代男性の事件を挙げた。彼は2014年3月、茨城県牛久市の東日本管理入国センター内で病死している。シンポで、亡くなる直前に施設内で撮影されていた映像が公開された。



「I’m dying!」



床に転がりながら、うめくような声で「死にそうだ」と訴える。一度は車いすに座るものの、再び床に横たわった男性は、さらに苦しそうな声をあげる。しかし徐々に静かになり、微動だにしなくなった――。



映像は約5分に短縮されたものであるが、苦しそうな様子が伝わってくる。



男性は2013年10月5日に成田空港に到着したものの上陸不許可になり、11月6日に東日本入国管理センターに収容された。10月16日に難民申請をしたが認定されず、以降は同センターに留め置かれていた。



もともと持病のあった彼は、3カ月後の2014年2月下旬、胸痛や息苦しさを訴え、医師によって頻脈を確認されている。3月中旬には何かにつかまらないと歩けない状態に陥ったが、入管職員は医師の診断を受けさせなかった。



そして2週間後、彼は「死にそうだ」とベッドの上で繰り返し叫び、翌朝、心肺停止状態になってから、救急搬送された。彼は日本に到着してから、1度も入管施設から出ることなく亡くなってしまったのだ。



●餓死で亡くなった男性の体重は46キロだった

ナイジェリア国籍の男性も2019年6月、長崎県の大村入国管理センター内で亡くなっている。死因は、餓死だった。身長約171センチに対して、亡くなったときの体重は46キロ程度しかなかったことが調査報告書でわかっている。



調査報告書には、男性は2019年5月から食事をしておらず、職員が説得しても拒否し続けたとある。



しかし、牧師の柚之原寛史氏は、大阪入管で抗議のハンストが起きた際に彼が否定的であったこと、「身体が受け付けないから水を飲むことができない」と調査報告書にあったことを取り上げ、ハンストではなく摂食障害に陥っていたのではないかと語った。



さらに、外部の病院では点滴を受けられたのに、大村入国管理センターには常勤医師がおらず職員が介護していたとして、次のように入管施設の医療体制のあり方を厳しく批判した。



「患者と医師の信頼関係ができていなかった。水を飲みこむことができなかった時に救急搬送するべきだったのに、センター内の医師の指示が明暗を分けたと思っている」(柚之原氏)



ほかにも、2017年3月に東日本入国管理センター内で亡くなったベトナム人の40代男性や、死亡には至らなかったものの、2017年に大阪入国管理局(現大阪出入国在留管理局、)で職員から暴行されて骨折したトルコ人男性のケースなどが紹介された。なお、トルコ人男性には国側が謝罪し、和解が成立している。



●「収容は必要最低限にし、司法審査が必要ではないか」

入管での死亡・傷害事件をこれ以上起こさせないためにはどうしたらいいのか。日弁連人権擁護委員会特別委嘱委員の児玉晃一弁護士は「人を人としてきちんと捉える。そのためには法律の改正が必要だ」と話す。



「入管施設への収容は強制送還を確保するためのものであるのに、ウィシュマさんの場合は、本人に立場をわからせるために仮放免を不許可にし、ナイジェリア人男性は窃盗の前科があることを強調し、治安目的のために閉じ込めている。しかしそれは、本来の収容のあり方ではない。収容は必要最低限にし、司法審査が必要ではないか」(児玉弁護士)