2021年09月21日 21:41 弁護士ドットコム
モラハラ被害を受け続けると、心身ともに疲れ果ててしまい、今後どうすれば良いのか分からなくなってしまった人もいるのではないかと思います。
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とはいえ、今の生活を続けるのか、はたまた別居や離婚をするのか、決断するのは自分しかいません。こんな風に迷ったときにどうすれば良いのか、離婚問題を多く取り扱う大貫弁護士からのアドバイスをお届けします。
「はいはい、全てお前が正しく、全て俺が悪いんだな。もう謝ったからな」
モラ夫から、このような「謝罪」を受ける妻は、少なくない。このような不真面目な「謝罪」に誠意はないと言ってよいだろう。しかも、モラ夫の「謝罪」対象は、「謝罪により解決済み」とされてしまう。
モラ夫は、さらに、「夫を謝罪に追い込む過酷な妻」のイメージ作りに励んだりする。つまり、モラ夫は、自らの落ち度であっても、「謝罪」の形をとりつつマウントをとろうとするのである。
他方、妻の謝罪についてはどうか。多くのモラ夫は、「謝れば済むと思っているのか」「ごめんで済むなら警察はいらない」などと述べて、謝罪を受け付けず、さらに執拗な説教に及ぶことまである。妻の「落ち度」は、徹底追及して、自らの優位を確立しようとする。
このように、モラ夫は、どんなことでもモラハラに利用してしまうのである。そこで、私は、モラハラを「モラ夫が妻に対する優位・支配を確立、維持、拡大するための一切の言動・動作等」と定義している。
モラハラの中心は、もちろん言葉であるが、実際のモラハラに言葉はいらない。実例はいくらでもある。
(1)ため息モラ 夕食の鍋の蓋をあけてため息。部屋の隅の埃をみてため息。妻の顔をまじまじ見てため息
(2)ガン無視モラ 妻をガン無視し、数時間、口を利かない。モラの程度が高いと、ガン無視が1、2ヶ月に及ぶこともある
(3)不機嫌モラ 不機嫌の塊になって、居間のソファでムスっと座り、不機嫌オーラを撒き散らす
(4)暴れモラ/反抗期モラ ドアをバタンと閉める、壁パンチ、壁キック、ティッシュボックス等を投げつけるなど暴れる
(5)にやけモラ 「馬鹿なやつ」と言いたげな表情で見下し、ニヤニヤしながら妻の顔を見て、まともに反応しない
ところで、モラスイッチ(モラ夫がその本性を現すこと)が入り、モラが進行すると、モラ夫は、あらゆる機会を捉えて、モラハラをおこなうようになる。妻の不足を指摘し、非難するだけでなく、以上のような言葉を使わないモラハラも駆使する。
その結果、妻は、常にモラハラに晒されることになり、妻の心身はむしばまれていく。心身症やさまざまな疾病、若年性更年期障害等、妻には、様々な不調、症状が出現する。
被害を受けた妻は、自らの限界を感じると、離婚を考え、悩み始める。しかし、多くの被害妻は、なかなか決断できない。モラが治り、昔の優しかった彼に戻ることを期待する。そして、別居、離婚するべきか否か、子どもに父親が必要などと悩み、決断できない。
さて、モラは治るだろうか。結論からいえば、治ることはほぼ期待できない。しかし、理論的には治療も可能であり、私自身、モラを治療した経験もある。
ただし、モラを治療するには、治療する強い意思が本人にあり、専門家の指導の下、少なくとも2~3年にわたり、本人が努力する必要がある。多くのモラ夫は、自らを治療対象とは認めないだろうし、そのような努力に取り組んだりはしない。
モラが治らないことがわかっても、被害を受けた妻の悩みは尽きない。しかし、現にモラ被害を受け続けており、既に限界でもある。さて、どうしたらよいか。
あまりにも当然ではあるが、結婚や離婚についての決断は、本人自らが行うしかない。これらの決断は、人生観や基本的価値観に直結するので、自らの心に決めさせるしかないのである。その際、周りの意見やアドバイスは、あくまで参考に過ぎない。問われているのは、自らと子どもの幸福とは何かという、根源的な問題である。
離婚弁護士のアドバイスとして、自らの表層の意識だけで考えてはいけない。表層の意識は、まわりの意見に流されやすく、結論を誤る可能性がある。自分の心全体で、問題を受け止めて、慎重に検討しよう。
そのためには、まず、基本的な情報を用意する。離婚を継続する場合と別居/離婚に進む場合のメリット、デメリットをリスト化しよう。そして、経験者や離婚弁護士などに相談して、メリット、デメリットをより実際的、具体的に考えてみよう。それぞれの場合の生活を具体的にシミュレーションしてみよう。時間をかけて慎重に検討しよう。あなたの心は、十分な情報を与えられれば、いずれ決断する。
なお、モラハラにより、自尊心が深く傷ついている場合、恐怖心が強くて、検討すらできないこともある。その場合は、心療内科、カウンセラーや妻側に立つ離婚弁護士などに相談して、自尊心を回復してから、今後の人生を検討しよう。
最後に、夫たち、特に「モラ夫」へのアドバイスを書いておく。モラハラと言われた場合に湧き上がってくる思考に自らを委ねてしまうと、円満な夫婦関係は得られない。
例えば、「モラハラって何だよ」「モラモラ言うお前こそモラ妻だ」「変なものにかぶれやがって」などのモラ夫特有の思考が湧き上がってきたら、あなたのモラ度は相当に高い。
このようなモラ思考に委ねず、妻の指摘を謙虚に聞き、自らの価値観を見直そう。妻がモラハラを指摘してくれているうちであれば、夫婦関係を修復し、家庭に幸福を呼び込むことも可能なはずである。
(大貫弁護士による連載は今回が最終回です。これまでご愛読いただき、ありがとうございました)。