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『りゅうおうのおしごと!』は藤井三冠に追いつけるのか? ミステリアクションも充実のラノベランキング

2021年09月21日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ラノベランキング……期待のミステリとは?

 将棋の神様はライトノベルの破天荒さがお嫌いらしい。9月13日に開かれた将棋の叡王戦五番勝負最終局でタイトルが移動し、藤井聡太三冠が誕生した。19歳1カ月での三冠達成は、羽生善治九段の最年少記録より3年以上早く、10代では初となる。白鳥士郎のライトノベル「りゅうおうのおしごと!」シリーズで、ようやく二冠となった主人公の九頭竜八一を、現実の藤井三冠が突き放した形だ。


 Rakutenブックスの週間ライトノベルランキング(9月6日~12日/https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#! )で特装版が6位、通常版が17位となった最新刊『りゅうおうのおしごと!15』(GA文庫)が発売となる直前の藤井三冠の快挙。作者も「まさか新刊15巻の配信6時間前に史上最年少三冠になって、フィクションを殺しにかかるとか…なぜいつもこんなにタイミングが神がかっているの…」とツイート。破天荒だからこそ面白い設定が、現実によって次々と塗り替えられていくことに驚いてみせた。



『りゅうおうのおしごと!』14巻でようやく主人公が二冠になって、これで現実に追いついたと安心したのに…


まさか新刊15巻の配信6時間前に史上最年少三冠になって、フィクションを殺しにかかるとか…


なぜいつもこんなにタイミングが神がかっているの…🥺https://t.co/ecQz4VU8D8 pic.twitter.com/m0YzU5OiTK


— 白鳥士郎 (@nankagun) September 13, 2021



 もっとも、藤井三冠の活躍で将棋への関心が深まることは、『りゅうおうのおしごと!』シリーズにとって悪い話ではない。フィクションとはいえ藤井三冠に匹敵する強さを持ち、将棋界で最高位の竜王位に16歳で就いた八一に興味を持って、シリーズを手に取る人もいるだろう。読めば、天才でもスランプに苦しむこと、プロ棋士になりたくてもなれない若者が大勢いること、「女流棋士」がプロ棋士とは違う存在であることなど、将棋の世界の奥深さに触れられる。


 フィクションならではの楽しみもある。八一は2人も弟子をとっていたり、こちらは現実では未だに誕生していない女性のプロ棋士四段と恋愛関係にあったりする。最新刊では、幼い頃から知っている女流棋士の供御飯万智と2人きりで旅館に泊まって共同作業に精を出している(何をしているからはぜひ読んで確認しよう)。


 ランキングでは、伏瀬『転生したらスライムだった件』、川原礫『ソードアート・オンライン』、伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』、支倉凍砂『狼と香辛料』、佐島勤『魔法科高校の劣等生』といった超人気シリーズの最新刊が、予約や新刊発売のタイミングで上位を占めた。『転スラ』シリーズはノベルズ、コミカライズに続いて児童書版となる『転生したらスライムだった件 最強のスライム誕生!?』が上中下巻で出て、読者層をさらに下の年齢層へと広げそうだ。


 常連が強いランキングにあって気になる新シリーズが、てにをはによる作品で、26位に入った『また殺されてしまったのですね、探偵様(1)』(MF文庫J)だ。


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 タイトルから思い浮かぶのは、同じMF文庫Jで刊行中の二語十『探偵はもう、死んでいる。』シリーズ。ミステリに見せかけてラブコメになりアクションになってSFにもなる『たんもし』と同様に、本作もジャンルを絞り切れない”なんでもあり”の面白さにあふれている。


 世界中で暴れていた《最後の七人(セブン・オールドメン)》と呼ばれるヴィランたちを捕らえ、刑務所に放り込んだ名探偵を父に持つ追月朔也。彼もまた、少年探偵として知られる存在だった。ある映画プロデューサーの浮気調査を依頼されて豪華客船に乗り込むが、そこで首を吊った状態の死体を発見。その直後、自身も何者かに襲われて死んでしまう……。


 そして、助手のリリテアに「また殺されてしまったのですね」と言われながら膝枕の上で目を覚ます。朔也は死んでも生き返るという父親と同じ体質の持ち主で、その後も高い場所から落下したり、首を切断されたりしながらも生き返って、起こる事件を解決していく。


 殺される際に犯人の顔を見ているだろうから解決できて当然かというと、いつも不意に襲われていて顔は確認できていないから間が抜けている。それでも、生き返ったことで犯人を焦らせ、再度の犯行に踏み切らせることができるから、事件も解決につなげられる。完売が話題になった「小説現代」2021年9月号でも特集されていた、現実離れした設定が持ち込まれた“特殊設定ミステリ”の一種としても楽しめそう。続々と朔夜の前に姿を現す《最後の七人》たちとの派手なアクションも期待できる新シリーズだ。