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赤信号なのに(←↑→)、青信号とのビミョーすぎる違い ドライバーからは困惑の声

2021年09月20日 10:01  弁護士ドットコム

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街中で運転していて、こんな信号に遭遇した経験はないでしょうか。


【関連記事:「歩行者は右側通行でしょ」老婆が激怒、そんな法律あった? 「路上のルール」を確認してみた】



メインの信号は赤。しかしその下の矢印の信号は左・前方・右方向に青い矢印が出ています。この信号が示すのは果たして「止まれ」なのでしょうか、それとも「進め」なのでしょうか。



この「全方向に行ける赤信号」は8月下旬にSNSで話題になりました。4月には歌舞伎役者の市川海老蔵さんも言及しており、様々な意見や感想が飛び交っています。



「赤信号の意味ねぇーー!」



「一番前に停車したときにこれが出たら、動き出せずにめっちゃクラクション鳴らされる自信がある」



「これ、ずっと疑問に思っていました」











共通していたのは何となくは理解しているものの、正しい意味はよくわからない、とりあえず進んでもよさそう、という意見でした。



「赤+矢印三方向と通常の青信号は何が違うのか」を調べてみました。(ライター・谷トモヒコ)



●警察庁に聞いてみたけど…

最初に、交通ルールに関しては一番詳しそうな警察庁に聞いてみたところ、文書で次のような回答をもらいました。



まずは矢印の意味から。根拠法令が書かれているのでややこしく見えますが、要約すると矢印が出ていたら、車はその方向に進んで良いという内容です。



「青色の灯火の矢印の表示する意味は、道路交通法施行令(昭和35年 政令第270号)第2条第1項において、



車両(※1)は、黄色の灯火又は赤色の灯火の信号にかかわらず、矢印の方向に進行することができること。



この場合において、 交差点において右折する多通行帯道路等通行原動機付自転車(※ 2)及び軽車両は、直進する多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両とみなす。



と規定されています。



このため、御指摘の画像にある信号機に対面する車両は、青色の灯火の矢印が表示されている三方向に進行することができます。



【※1】自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいいます。



【※2】右折につき原動機付自転車が道路交通法(昭和35年法律第105号) 第34条第5項本文の規定によることとされる交差点を通行する原動 機付自転車をいいます。」



一方、通常の青信号は以下のような意味だとして、両者の違いを説明しています。



「他方、青色の灯火の表示する意味は、道路交通法施行令第2条第1項において、



一 、歩行者は、進行することができること。



二 、自動車、原動機付自転車(多通行帯道路等通行原動機付自転 車を除く。)、トロリーバス及び路面電車は、直進し、左折し、 又は右折することができること。



三 、多通行帯道路等通行原動機付自転車及び軽車両は、直進(右折しようとして右折する地点まで直進し、その地点において右折することを含む。)をし、又は左折することができること。



と規定されています。 このため、青色の灯火の表示する意味には、三方向の青色の灯火の矢印の表示する意味と異なり、



・ 歩行者は、進行することができること。(※3)
・ 路面電車は、直進し、左折し、又は右折することができること。



が含まれることとなりますが、車両に対する表示の意味としては、両者に違いはありません。



【※3】歩行者についてのみ表示される信号(人の形の記号を有する灯火) が、青色の灯火と同時に表示されている場合は、道路交通法施行令 第2条第5項の規定により、当該青色の灯火の意味は、歩行者について表示されないものとして扱われます。」



車両に対しての意味はどちらも同じだというのです。唯一違う点は歩行者などに対しても「進め」の意味を持つ点ですが、※3によると歩行者用信号がある場合は、歩行者に対しては表示していないことになるようです。



言い回しが少々わかりづらいですが、少々雑にまとめてしまうと、全方位の矢印と青信号は〝だいたい同じ〟というふうに聞こえてしまうのです。



●「右折車両」が詰まらないようにするため?

しかし、普通の信号機でもよさそうなものをわざわざ矢印にしているからには、本来は何らかの意図があったはず。あらゆる交通現象を解析しそのマネジメント手法を研究している東京大学生産技術研究所の大口敬教授に解説してもらいました。実はこの三方向矢印の信号はかなりややこしい問題を抱えていました。



大口教授によれば、このタイプの信号は右折レーンもない一車線の道路で、かつ右折する車が多い交差点で右折車が詰まることによる混雑を解消するために設けられているケースが多いのだそうです。



「例えば南側からやってくる交通を優先的に捌きたいとき、一つの方法として南側の青信号を少し延ばすやり方があります。この場合対向側は早切りします。





このとき、一車線しかない道路だと、右折車両が詰まって後続が効率的に進めないという現象が起こります。そのような問題を抱えているケースで苦肉の策としてかつて運用されてきたのが赤信号に三方向矢印という交差点だというのが私の理解です」



このとき、青矢印の信号が「優先的に進行できる」専用信号的な意味合いで運用されてきたことが問題だと大口教授は指摘します。



「車両信号が赤で三方向青矢印という信号は『あなたは進行方向へ進めます』そして間接的に『対向側は停まっていますよ』というメッセージとしてこれまで使われてきたことが多いと思います。しかし、本来の矢印信号は『赤信号でも矢印の方向へ例外的に進めますよ』という意味で、『優先的に進めますよ』という意味は法令には書いていないのです」



なるほど。だから警察庁が正式に回答すると「ほぼ同じ」になってしまうんですね。しかし実際には矢印信号は優先的に進めるという意味合いで運用されていることが多かったといいます。



それはそもそも矢印信号で多く使われている右折信号の場合、通常の青信号だけでは右折車が捌けないときに、右折の車だけが進行できる時間をつくるのが目的だったからです。当然、青い矢印が出ている間は対向車線の車は停まっていることになり、右折車は青矢印の方向へ優先的に進んでいることになります。



●「矢印」の法的問題 分かりづらさを解消するには

「最近では左折の青矢印を、優先的な意味合いでの運用している例も例外的な意味合いで運用している例もあり、青の矢印は二重の意味合いを持っているかたちになっています。これらのことをドライバーが実際に理解しながら運転するには相当考えなければなりません。また、通常の交通ルールは理解できている人でも、初めて遭遇したら正しく行動できるかは疑問です」



では、どうすればもっとわかりやすくなるのでしょうか。



「専用の通行権,すなわち優先的な意味でしか矢印を使わないように法律的な意味を整理し直せば、同時に赤を出し続けなければいけないという縛りはなくなり、わかりやすくなります。



また、直進、右折、左折という行動は、現在は交差点の通過とは別にとらえられていますが、安全を考えれば進行方向ごとに専用の信号で行かせたほうがいい。現在の信号機は必ずしも進行方向と一致した場所にあるとは限らないので見づらいこともあります。これを進行方向ごとに見えやすい位置にその方向ごとの専用信号があれば、自分の行きたい方向以外のものは見る必要がなくなります」



車の免許をとるときに交通ルールは勉強するけど、その後はつい忘れてしまいがちです。その一方で最近では自転車や歩行者も、より交通ルールを理解することの必要性が問われています。誰もが理解するために、ルールのほうにも分かりやすさが必要なのではないでしょうか。