2021年09月20日 09:41 弁護士ドットコム
就職活動やインターンシップで学生がセクハラ被害にあう「就活セクハラ」が問題となっている。日本労働弁護団が9月に企画したLINE相談会には、「就活アプリで知り合った男性からお尻を触られた」「面接で結婚しているかどうか聞かれた」といった事例が寄せられた。
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厚労省の調査では、就活生の4人に1人が被害にあったという結果も出ているが、会社側の対策は進んでいない。
9月1日午前、日本労働弁護団に所属する弁護士が、全国各地の弁護士とZoomでつなぎながら、LINEに届いたメッセージへの返信内容を話し合っていた。
日本労働弁護団では労働問題に関するホットラインを常時設置しているが、これまで就活セクハラについての相談が寄せられたことはなく、特化した相談会をおこなうのは初の試みだという。
2日間で寄せられた相談の中から、情報提供の許可が得られたケースについて紹介する。
<就活マッチングアプリで自分が目指す業界に昔いた男性と知り合い、エントリーシートや面接対策をしてもらった。カラオケ店で「お辞儀の仕方を教えてあげる」とお尻や太ももを触られた。内定後にお祝いとして食事に行った際、「彼氏とはどう」「性行為はしたの」などと質問され、帰り道で手を握られた。その後、もう連絡を取らないようにしているが、しばらくの間、不在着信が止まらなかった。>(女性)
<中途採用の履歴書に配偶者の有無を尋ねる項目があった。面接でも結婚しているかどうか聞かれ、「結婚の予定はないの?」「相手はいそうなのにね」と言われて不快だった。>(女性)
<新卒の就活時にキャリアコンサルタントに相談した。入社後に食事の誘いを受け、その後自宅についてこられて性被害にあった。終電がないから泊めてくれないと困る、泊めないならタクシー代を出して」と言われ、お金を渡した。>(女性)
<面接時に彼氏の有無や結婚の可能性の有無を聞かれた。>(女性)
<プレゼン課題の終了後「君のプレゼンはマスターベーションみたいなものだよね」と言われた。ショックで動揺してしまい、その後記憶にない。>(男性)
採用面接で、女性だけに交際の有無や結婚の予定について尋ねることは、男女雇用機会均等法に抵触する不適切な質問だ。
今回、電話や面談での相談に移行した相談者はいなかったが、担当した長谷川悠美弁護士は、「採用面接での被害などは証拠も残りづらい。責任追及することが難しい事案が多いと感じた」と話す。
厚労省が2020年10月、就活やインターンシップを経験した2017~2019年度卒業の男女1千人に調査した結果でも、就活セクハラを受けた後の行動として「何もしなかった」(24.7%)と答えた人が最も多かった。
その理由としては、「何をしても解決にならないと思ったから」(47.6%)が最も多く、「何らかの行動をするほどのことではなかったから」(34.9%)が続いた。
会社側も「就活セクハラ」の対策に取り組んでいるところは少ない。
セクハラについては2020年6月に「パワハラ防止法」(改正労働施策総合推進法)が施行され、大企業については事業主側に防止措置をとることが義務付けられた。
ただ、就活生への対応は、法律上、義務化されておらず、同様の方針を示すことが「望ましい」とだけされている。
こうしたことも影響してか、調査でも就活等セクハラに関する取組として実施しているものを尋ねたところ、「特にない」(71.9%)との回答が最も多かった。
会社でのハラスメント被害で訴える場合、加害者個人を相手にするほか、合わせて会社側の安全配慮義務違反を問うことも多い。
しかし、アプリなどを通じて就活生と知り合うといったケースの場合、従業員の私生活上での違法な行為について、会社側の責任を追及するのは難しい可能性もある。
中村優介弁護士は「事業主としては、従業員が就活生と二人で会ったり飲みに行ったりしないといった方針を立てて、違反した場合には厳しく処分する旨を周知するといった方法が考えられる。同時に就活生専用の窓口をもうけて、相談しやすい状況を作る必要がある」と話した。
相談会を企画した日本労働弁護団は、「今後どのような法整備や企業による対策が必要か、年内いっぱい情報提供を呼びかけて、提言につなげたい」としている。