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競技場で着衣の女子高生アスリート「盗撮」は本当に条例違反?

2021年09月18日 10:11  弁護士ドットコム

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陸上競技場で、女子高生アスリートを盗撮したとして、京都市の男性会社員がこのほど、京都府迷惑防止条例違反の疑いで書類送検された。


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報道によると、男性は今年8月、京都市右京区の「たけびしスタジアム京都」で開かれた陸上競技大会に出場していた女子選手(高校2年)の下半身を強調する写真34枚を盗撮した疑いが持たれている。



警察の調べに、男性は「欲求を満たすためだった」と述べたという。



女子アスリートに対する「盗撮」をめぐっては、規制をもとめる声が高まっている。NHKによると、着衣の上からの撮影が罪にあたるかどうか、判断がむずかしいため、全国でも摘発されたケースはほとんどないという。



一方で、今回の事件については、法学者などから「判例違反ではないか」といった疑問の声もあがっている。条例による「盗撮規制」を研究している鐘ケ江啓司弁護士に聞いた。



●処罰に値するような「卑わいな言動」にあたるか

今回の事件は、公共の場所で、他人を著しく羞耻させる方法でみだりに「卑わいな言動」をすることを禁じた条文(京都府迷惑防止条例3条1項第9号)の適用と考えられるという。



どういう場合に「卑わいな言動」にあたるのだろうか。この論点については、最高裁判例(平成20年11月10日)がある。次のような事案だった。



(最高裁の事案)
ショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて、女性客(当時27歳)に対し、その後を少なくとも約5分間、40メートル余りにわたって付けねらい、背後の約1ないし3メートルの距離から、右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて、細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい、約11回これを撮影した。



「この事案で、最高裁は『卑わいな言動』として迷惑行為防止条例違反になるとしています。各地の警察が作成している迷惑行為防止条例の逐条解説でもだいたい引用されている最高裁判例で、京都府警の解説でも引用されています。



卑わいな言動にあたるかどうかは、撮影態様、対象、時間といった事情が考慮されて、判断されます。明確な基準がないので、立件できるかどうかは、個別判断になります。



そこには、無断撮影行為が『処罰に値するような卑わいな言動』といえるかという問題があります。無断撮影という意味では、マスコミやYouTuberが群衆を撮影することも無断撮影ですので、どこから処罰対象にするのかという問題があります。



ときおり逮捕されている事例がありますが、起訴まで至らずに終了している事件も多いと思います。逆にいえば、最終的に処罰されない事案でも、逮捕状がでることはあるということです」(鐘ケ江弁護士)



鐘ケ江弁護士によると、京都府警の解説では、次のように説明されている。



<例えば、卑わいな画像や性具等を執ように見せつける行為、卑わいな音声を執ように聞かせる行為、着衣の上から性的な部位を執ように撮影する行為などが本号に該当する>



●国会で十分に議論してほしい

鐘ケ江弁護士は「いずれにしても難しい判断が必要になりますので、この種事案が刑事事件として立件された場合には、弁護士に面談相談すべきでしょう」と話す。



「性的な盗撮に限らず、無断で撮影されるということは、被写体に対する不安感を与えるものです。一方で、私人や私的団体による監視カメラは都市部を中心に幅広く張り巡らされるようになり、警察も捜査でおおいに活用しています。いかなる無断撮影行為を処罰の対象にするのか、国会で十分に議論してほしいと思っています」(鐘ケ江弁護士)



最後に、鐘ケ江弁護士は「盗撮をして警察に立件された場合、犯人は悲惨なことになる」と付け加えた。



「(盗撮犯は)『良い夫』『良い父親』であることもしばしばありますが、家族(や周囲)からの信頼をいっぺんに失い、家族もおおいに傷つけることになります。失った信用はなかなか取り戻せません。



最近、大船榎本クリニックの斉藤章佳さん(精神保健福祉士・社会福祉士)が、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)という本を出されています。



もし、この記事を読まれた方で、心当たりのある方は、是非ご一読ください。悪癖から抜け出されることを強く願っています」(鐘ケ江弁護士)



●京都府迷惑行為防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第3条1項:何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる他人に対し、他人を著しく羞恥させ、又は他人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で、みだりに次に掲げる行為をしてはならない。



9号:前各号に掲げるもののほか、卑わいな言動(次項から第4項までに規定する行為を除く)をすること。




【取材協力弁護士】
鐘ケ江 啓司(かねがえ・けいじ)弁護士
刑事弁護、中小企業法務(労働問題、知的財産権問題、契約トラブル等)、交通事故、借地借家、相続・遺言、後見、離婚、犯罪被害者支援、等々幅広い事件を取り扱っている。執務のかたわら、条例による盗撮規制の研究をしており、全国47都道府県の警察本部が作成した迷惑行為防止条例の逐条解説を保有している。
事務所名:薬院法律事務所
事務所URL:http://yakuin-lawoffice.com/