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河野大臣のブロック、国民の「知る権利」を侵害してないか? 京大・曽我部教授に聞く

2021年09月18日 10:01  弁護士ドットコム

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自民党総裁選に出馬した河野太郎行政改革大臣が、ツイッターで一部のユーザーをブロックしていた問題が注目を集めている。河野氏のフォロワーは240万を超える。憲法で保障されている「国民の知る権利」を侵害しているのではないかと指摘されているのだ。


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その中でよく比較されるのが、アメリカの前大統領、ドナルド・トランプ氏のブロックを違憲と判断した裁判だ。



報道によると、米連邦巡回控訴裁判所は2019年7月、地裁に引き続き、トランプ氏がユーザーをブロックしたことは、「表現の自由」を保障する合衆国憲法に違反すると結論づけた。



河野大臣はツイッターで政府の情報発信をする一方、自らに批判的なユーザーをブロックし、一時は「 #河野太郎にブロックされてます」というハッシュタグがトレンドにもなった。



トランプ氏の裁判と比べて、河野大臣がツイッターでユーザーをブロックする行為をどのように考えればよいのか。京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)にその問題点を聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)



●市民会館は「けしからん表現」を拒否できない

トランプ氏の裁判では、デジタル空間を議論の場として重視していたことが読み取れる。日本ではどこまで議論されているのだろうか。



「あの裁判はパブリックフォーラム論という考えを下敷きにしていて、それ自体は日本の憲法学説でも採用されています。



ただ、日本の場合は、たとえば地方自治体の市民会館はパブリックフォーラムにあたるので、その利用に対して内容を理由に拒否できないという文脈で使われてきました。



アメリカの裁判では、このパブリックフォーラム論をツイッターにも援用していて、恣意的にその場から排除することは許されないという判断をしています」



●パブリックフォーラム論のロジックとは

しかし、大統領であってもアカウントを開設し、好きなように運用する自由もあるはずでは?



「もちろん、アカウントを開設するかしないかは、その政治家の自由です。アカウント開設する義務はないのだから、誰をブロックしたとしても自由じゃないかという指摘もあります。しかし、パブリックフォーラム論では、そうした考え方をしません。



先ほどの市民会館の例で言うと、市民会館を設けるか設けないかは、自治体の自由です。市民会館を設置する義務はありません。



ただ、市民会館をパブリックフォーラムとして設けた以上は、利用の際に内容を選別して排除することはできません。表現の内容がおかしい、けしからんという理由では拒否できないということと、同じロジックです。



いったん一般に開放するものとしてアカウントを作った以上は、『国民の知る権利』として、大統領のアカウントも重要な『場』であるということです。



ですから、その場から恣意的に排除することは、まさにパブリックフォーラムから排除しているとされ、憲法違反であるということです。日本であっても、そのロジックは使えるものと思います」



●公人として、私人として問題

では、トランプ氏の裁判のように、日本でも違憲の可能性があるのだろうか。



「ただ一つ難しいのは、政治家でどんなポストについている人でも、私人としての側面があります。靖国神社に公人として参拝したのか、私人として参拝したのか、という話と同じなのですが、そのアカウントの性格づけは難しいです。



通常、憲法論の対象となるのは、国や地方公共団体など組織として決定したことになります。市民会館の利用拒否は、市町村が正式な処分としておこなっているものですので、当然のことながら憲法的な評価の対象となります。



しかし、公職にある個人の行為を、国家の行為として評価できるかどうかは微妙です。トランプ氏のケースは、個人だけでなく、補佐官もアカウントに関わっていましたので、国家の行為だと評価できました。



河野大臣のアカウント運用がどのようになっていたかはわかりませんが、おそらくそこまで公的ではない。



ただ、大臣として職務に関することもツイートしていた場合は、違憲とまでは判断できないまでも、国家の行為に準じるものとして、憲法的な観点から恣意的な排除は望ましくないという評価はできると思います」



●保存されない首相や大臣のツイート

ツイッターのブロック問題からは、日米のツイートに対する意識の違いも背景に透けて見える。



たとえばアメリカの国立公文書館は、トランプ政権のソーシャルメディアのコンテンツは、トランプ氏のツイートも含めすべて収集保存提供するとしている。



しかし、日本の国立公文書館に取材したところ、歴代首相や閣僚のツイートは一切、保存されていなかった。国立公文書館によると、公文書として受け入れるかどうかは、「公文書等の管理に関する法律」による規定がある。



「国の機関及び独立行政法人等が保有する歴史資料として重要な公文書等の保存期間が満了すると国立公文書館等に移管」されているが、「歴代首相や閣僚などのツイートが公文書に該当するかどうか、また、これが当館に歴史公文書等として移管されるかどうかについては、各行政機関の判断に委ねられています」という(国立公文書館担当者)。



曽我部教授は「日本では情報公開や公文書管理の対象となるのは『行政文書』であり、これは、職務上作成し組織的に用いているものなどと定義づけられています。これには、たとえば首相官邸の公式アカウントも含まれると思います」と説明する。



「ただ、政治家のカジュアルなツイートはこれにはあたりません。しかし、それとは別に法的に行政文書にはあたらないから保存しなくていいということは、別の問題としてあります。



たとえば、アメリカではヒラリー・クリントン氏が国務長官在任中、私的なメールアドレスを公務に使っていたことが問題になりました。これは、機密という観点だけでなく、今後、公職に関するメールは保存して公開していくことを念頭においているからです。



実質的に公務に関わる記録を広く保存していく制度は、日本ではまだ未整備であり、今後考えていかなければいけない大きな問題だと思います」