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出そろった小型HV! 「アクア」「ノート」「フィット」を比較

2021年09月16日 11:02  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
トヨタ自動車のハイブリッド(HV)専用5ナンバー車「アクア」が、初のフルモデルチェンジで2代目となった。同じくHVの小型車として、新型アクアのライバルと考えられるのはホンダの「フィット」と日産自動車の「ノート」だ。この3台を比較し、激戦の小型HV市場について考えてみたい。


○メーカーによって違うHVシステム



小型HVとしてのアクアのライバルとしてフィットを挙げたが、フィットにはガソリンエンジン搭載車もある。しかし、二酸化炭素(CO2)排出量規制の厳しい欧州ではHVしか販売していないことを考えると、フィットの主力はHVだと考えていいのではないかと思う。



さて、まずは直近の販売状況だが、一般社団法人自動車販売協会連合会の乗用車ブランド通称名別順位を見ると、2021年8月はアクアが3位、ノートが4位、フィットが13位となっている。フィットが順位を下げているが、新車発売から1年半が経過していることを考えると、8月の4,000台強という数字は安定期に入ったと見ていいだろう。


試乗記で先に報告済みだが、新型アクアは新開発の「バイポーラ型ニッケル水素バッテリー」の搭載により、モーター走行領域が初代の時速15kmから時速40kmまで高まった。それによって、快適さや上質さが大きく前進し、乗り味もノートやフィットに近づいたといえる。



アクアがノートやフィットと大きく異なるのは、HVシステムの違いによる。トヨタのHVシステムは、1997年の初代「プリウス」から基本的に考え方が変わっていない。ガソリンエンジンを走行の動力とバッテリーへの充電の両方に利用し、ガソリンエンジンの燃費を大きく改善することを目的としている。したがって、同じシステムを使う「ヤリス」のHVは、従来のニッケル水素バッテリーを車載するので、走行感覚は新型アクアと大きく違う。ガソリンエンジンの存在感がより大きいのだ。


ノートが搭載しているのは、日産が「e-POWER」と名付けたHVシステムだ。「シリーズ式」という方式で、ガソリンエンジンは発電のみに利用する。走行(駆動)はモーターだけで行う。ノートでは、発電のためのガソリンエンジンの稼働を可能な限り乗員に気付かせないよう、車両全体の騒音が大きくなる加速時や高速走行時に始動するような制御としているので、市街地などでの走行中は静粛性に優れる。その様子は、あたかも電気自動車(EV)のようだ。


フィットが搭載する「e:HEV」というHVシステムも、日常走行の範囲ではモーター走行を行い、ガソリンエンジンはバッテリーへの発電に使う。したがって、HVシステムとしての基本は「シリーズ式」といっていい。ただし、高速走行で速度が一定の条件となるときには、ガソリンエンジンでの走行も行う。エンジン回転数をあまり高めず、加減速も少ない走行状況では、ガソリンエンジンで走っても燃費を悪化させにくいからだ。そのうえで、高速走行においても、加減速を生じる状況ではモーターを利用する。e:HEVでの走行も、e-POWERと同じく静粛性に優れている。


新型アクアは、HV方式こそ従来と同じだが、バッテリー出力を高め、モーター走行が可能な領域を拡大することにより、HVとしての上質さを高め、ノートやフィットに比べても遜色のない快適性を獲得した。

○上質なモーター走行が魅力の「ノート」



ノートは先ごろのフルモデルチェンジでHVのみの専用車となった。最近の動きとしては、3ナンバー車の「ノート オーラ」をラインアップに追加し、より上級なHVとしての価値を高めた。走行感覚だけでなく、外観の造形や室内装備の見栄えで、車格が上がった印象だ。

抑揚を抑えた外観は張りのある姿でありつつ、そのなかに上品さがあり、しゃれた5ナンバーHVに仕上がっている。室内は中央に液晶画面があり、運転席前の液晶画面とは造形的にも関連性を持たせてって、未来的な雰囲気だ。次世代の電動車に乗っているという満足感が得られるだろう。


座席は少し柔らかい座り心地でありながら、走行中はしっかりと体を支えてくれる確かさが感じられる。かつて「ティーダ」で味わわせたフランス車のような趣もないではない。もちろん、後席の座り心地も確保されていて、足元のゆとりもある。



ノートは新車を買う嬉しさが感じられて、先進的で上質なモーター走行ならではの魅力も存分に味わえる5ナンバーHVだ。

○安心感がうれしい「フィット」



フィットは世界で販売する小型ハッチバック車でありながら、ホンダは現行の4代目を「日本最適」を目標に開発した。初代から課題のあった前方視界を根本的に改め、驚くべき視界のよさを実現している。同時に、ダッシュボードの造形をほぼ水平にしてしまうという新しい発想により、車幅感覚もつかみやすく、道が狭くて見通しの悪くなりがちな国内の道路事情でも、安心して毎日運転できる小型車の価値を根本から改善した。



HVシステムは、前型の1モーター方式から2モーター方式とすることで、燃費はもちろん、走行中の快適さも向上させた。後席の乗降性や座り心地も十分に検討されていて、老若男女を問わないユニバーサルデザインとなっている。


快適さや上質さはもちろんだが、フィットを選ぶ最大の理由は、あらゆる面での安心感だろう。高速走行性能も優れていて、クルマで出かけることが苦にならないうれしさを備えたHVだ。パーソナルモビリティに徹するホンダらしい5ナンバーHVである。

○各社から魅力満載の選択肢が出そろった



これまで述べてきたように、ライバルたちは近年のモデルチェンジで実力を大幅に向上させているが、競合2車に対し、新型アクアはノートの車格上の上級さとフィットが持つ総合性能の高さを併せ持つHVに進化したといえる。



外観は前型と比べ明らかに上級さにあふれ、室内の仕立てもいい。また、注文装備となるが自動駐車システムは操作が容易であり動作は確実で、実用性も高い。運転が苦手だと思う消費者にとって、追加料金を支払うとしても、この自動駐車システムは何よりありがたい装備となるだろう。


新型アクアの登場により、各社の5ナンバーHVは出そろった。それぞれに捨てがたい魅力が満載で、選ぶのが難しいほどではないか。



初代アクアに触発され、ノートやフィットが一気に商品性を高め、それに対して新型アクアも負けまいとし、大きな進歩を遂げた。5ナンバーHVの購入を考えている人にしみれば、販売店へ試乗に出かけるのが楽しみな状況なのではないだろうか。



御堀直嗣 みほりなおつぐ 1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。 この著者の記事一覧はこちら(御堀直嗣)