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ハラスメント被害、事後でもできる「有力な証拠」の作り方

2021年09月15日 10:41  弁護士ドットコム

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職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。


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連載の第3回は「ハラスメントの立証方法」についてです。録音が有効な手段だと聞いたことはあっても、実際にいつ録れば良いのかなど、疑問はありませんか。また被害の性質上、「その瞬間」の証拠は、なかなかとれないものです。



しかし、笠置弁護士はそうしたケースでも「できることがある」と言います。一体、どんな方法がとれるのでしょうか。



●パワハラ加害者には「一定の共通する性格」がある

今回は、ハラスメント被害を受けた場合に、どのように立証をしていけばよいかについてお話ししたいと思います。



相談の多いハラスメント被害として、パワハラやセクハラ、マタハラがあります。マタハラで最も相談が寄せられるのは、妊娠や出産等をきっかけに解雇をしてくるという事件です。



このような事件では、従業員側は「解雇の理由はマタハラだ!」と主張し、会社側は「全く別の理由だ!」と反論してくるという展開になるので、リストラ事件と同じような立証活動を行っていくことになります。そのため、パワハラやセクハラの立証方法とはかなり異なってきます。



パワハラやセクハラの立証を考えるには、パワハラやセクハラの特性を知っておくべきです。最近の研究・調査では、パワハラの加害者には一定の共通する性格があること、パワハラやセクハラが起きやすい会社には共通する特徴があることが知られています。



このことから、ハラスメント加害者は、真剣に自分のふるまいを反省する機会がない限り、被害をまき散らし続ける可能性が高く、ひとたびハラスメント問題が起きている職場には、同様の被害を受けた経験のある被害者が多数存在する可能性が高いということが分かります。



●職場の被害者で証言し合うことが有効

このことを踏まえると、ハラスメントの立証を行うためには、同じ職場の中で同様の被害を受けている方たち同士で証言し合うことが最も有効であることが分かります。



裁判所や労働基準監督署等の第三者機関が判断する際にも、多人数が証言しあっているような事案では、本当に被害が生じていると信頼してもらいやすくなり、勝訴の可能性がかなり高まります。



そのため、私はハラスメントの相談を受けた際には、「同じような被害を受けている経験がある方は周りにいないか」「その方たちはハラスメント被害について問題にする意思がありそうか」といった点を必ず詳しくお聞きするようにしています。



●録音はどうやって取ればいい?

被害の様子を収めた録音も非常に重要な証拠です。とはいえ、ハラスメントは本人が予期せぬタイミングで起こることが多く、ピンポイントで録音が取れることはそう多くないでしょう。現在進行形でハラスメント被害を受けている方であれば、職場に入ってから出るまで、ボイスレコーダーをずっと起動しておくのも手でしょう。



最も深刻な被害を受けた場面の録音が取れなかったとしても、諦める必要はありません。後日、加害者と話をする機会があったときに、その時に受けた発言を再現し、「あなたはそう言いましたよね?」といった確認を求め、その様子を録音するなどといった工夫をする余地はあるでしょう。



その場にいなかったとしても、質問を重ねることでその場でのやり取りをリアルに再現するということは、まさに私たち弁護士が証人尋問の中で行っている作業と同じです。



●セクハラ被害の録音は?

中でも、セクハラ被害をとっさに録音することはとりわけ難しいと実感します。突然被害を受けることが多いと思われますし、性的な発言を受けているような場面で、平常心を保ちとっさにボイスレコーダーやボイスレコーダーアプリを起動することは難しいと思います。



そのようなときに使えるのが、スマートフォンのカメラ機能です。カメラのアプリに関しては、スマートフォンを起動して比較的分かりやすいところに配置している方が多いと思いますし、最近のアプリでは、片手だけの操作で簡単に動画を撮ることができる仕様にもなっています。動画モードさえ起動できれば、音声を録音することができます。



私が担当した事件では、レイプドラッグのようなものを飲まされ、意識がもうろうとした状態にさせられている中で、セクハラ被害の証拠を何とか撮ろうと、とっさにiPhoneの動画モードで音声を撮り、立証に結び付けたということがありました。



●社内調査文書も決め手になる

昨年の法改正で、パワハラ相談窓口を設置することが使用者に義務化されましたが、ハラスメント被害を会社に申告した後の調査が記された社内文書も、ハラスメント被害を立証する大きな武器となることがあります。



私の経験でも、会社が被害者に対してはハラスメントの事実はないと否認し続けていましたが、こちらが独自に入手した社内の調査文書ではハラスメント被害があったことを把握していることが明らかになっており、労働審判の当日にその文書を突きつけ、裁判所に被害を認めてもらえたということがありました。



●メモやLINEの記録、診療記録も証拠に

録音よりは信用性が落ちる証拠ではあるものの、複数の証拠を照合し、いずれにおいても同じ被害が語られているという場合には、それぞれの証拠が信用性を高め合っていると考えることができます。



例えば、ご自身のメモ等の記載やLINEで同僚や友人らに相談している記録、社内のハラスメント相談室での相談記録、心療内科でのカルテの記載などで、被害の事実が記載されていることがあります。これらを使って立証を考えるという場合には、証拠の種類や数があればあるだけよいでしょう。



真実を否定する加害者が述べるストーリーは、どこかに綻びがあるものです。弁護士・上級者向けにはなってしまいますが、裁判の証人尋問の中で、そのストーリーの矛盾点・不合理性を浮かび上がらせることによって、加害者が必死に隠そうとしているハラスメントの加害の事実を明らかにすることに成功したこともあります。



このように、労働時間の立証と同じく、ハラスメントの立証の仕方にも正解というものはなく、様々な資料が証拠になり得ます。ぜひ参考になさってください。



(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」がスタートしました。この連載では笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)




【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/