2021年09月15日 10:21 弁護士ドットコム
「非接触でも事故と判断されるのでしょうか」。このような相談が弁護士ドットコムに寄せられています。
【関連記事:駐車場の車の中で寝ていただけなのに「酒気帯び運転」といわれた!どうすればいい?】
人通りの少ない道で車で徐行していた相談者の元にロードバイクに乗った人がかなりスピードが出ている状態で左折してきました。急ブレーキをかけたその人は転倒しましたが、相談者の車とは接触していなかったようです。
相談者はそのままその場を立ち去ってしまいましたが、後になって救護義務違反なのではないかと考え始めました。相手側が警察に届けたらどのような罪になるのでしょうか。坂口香澄弁護士に聞きました。
ーー非接触でも「事故」と判断されるのはどのような場合ですか
自分の運転が影響して被害者の受傷につながった場合には、接触をしていなくても交通事故の当事者とされる可能性が高いです。
自動車が急に車線変更を行ったために後方を走っていたバイクが急ハンドルをきって転倒した場合や、交差点の出会い頭事故で双方急ブレーキをかけたので衝突は免れたもののバイクがバランスを崩して転倒したような場合などが典型です。相談者のケースでも、相談者が交通事故の当事者とされる可能性があります。
非接触事故でも人が怪我をした場合には、その原因となった人も交通事故の当事者として、自動車運転過失致死傷の罪(自動車運転死傷処罰法5条・7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金)に問われることになります。
ただ、実際に刑事処罰がなされるかどうか、つまり、起訴されるかどうか・起訴された場合の量刑がどれくらいになるかは、当事者双方の不注意の程度や被害者の怪我の程度なども考慮して決められます。
ーー事故と判断されたらひき逃げとして処分されるのでしょうか
交通事故の当事者となった自動車等の運転者には、負傷者を救護する義務(救護義務)があります(道路交通法72条1項前段、同法117条2項・1-年以下の懲役又は100万円以下の罰金)。自動車等の運転者がこの救護義務を果たさないのがいわゆる「ひき逃げ」です。
非接触の事故であっても、その原因となった運転者には救護義務がありますので、救護せずにその場を立ち去ったときには、救護義務違反(ひき逃げ)として処分される可能性が高いです。
裁判例のなかには、接触していないために事故の当事者であるという認識を持ちにくかったという点を量刑の重さを決める際に考慮したものもありますが、その裁判例も「非接触事故だからひき逃げではない」と判断しているわけではありません。
相談者のケースでも、相談者が自動車運転過失致死傷の罪に加えて、救護義務違反の罪に問われる可能性があります。
ーーこの他、気をつけるべき点があればご指摘ください
救護義務とあわせて、交通事故の当事者には警察に通報する義務(報告義務)もあるのであわせて注意しましょう。
交通事故では、人が亡くなる、後遺症が残るほどの重傷を負うといった凄惨な被害が生じることも少なくありません。そのため、事故直後に少しでも早く救急救命につなげることが非常に重要です。迅速な救急要請が被害の拡大を食い止めると言っても過言ではありません。
法定刑の上限をみても、自動車運転過失致死傷が最大7年以下の懲役であるのに対し、救護義務違反(ひき逃げ)は最大10年以下の懲役となっています。運転免許の違反点数も、人身事故だけなら4点~(過失の有無や被害の程度により決まります)ですが、救護義務違反はそれだけで35点の違反点数が付きます。
違反点数35点ということは、免許は取消しのうえ、過去に1回も違反歴がなくても最低3年間は再取得することができません。それだけ、事故直後の救命措置を取ったかどうかは重視されているということです。
「あのとき通報していれば」とあとから悔やんでも取り返しがつかないこともあります。また、交通事故の被害者やご家族にとって「もっと早く通報してもらえていれば」という悔しさは、心にも深い傷を残します。事故が起こったときには、その責任が自分にあるかどうかすぐに判断ができなくても、まずは119番、それから110番に通報することが大切です。
【取材協力弁護士】
坂口 香澄(さかぐち・かすみ)弁護士
交通事故・債務整理・相続・企業の法律問題、不動産に関わる問題に特化した法律事務所
事務所名:よつば総合法律事務所
事務所URL:https://yotsubalegal.com/