2021年09月13日 09:51 弁護士ドットコム
「高3の娘を非常勤役員にしても大丈夫でしょうか?」。経営者の夫をもつ女性から弁護士ドットコムにこんな相談が寄せられました。
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女性によると、現在は夫が代表取締役で女性が監査役、義姉が取締役に就いていますが、義姉が辞任することから「高3の(相談者の)娘を就かせたい」という話が浮上したそうです。
女性は「万が一の時に高3の娘に重責を負わせるのも心配ですし、バイト禁止の私学に通っておりますので校則違反になるのでは」と反対していますが、当の娘はというと役員報酬が出ると聞かされ「満更でもなさそう」とのことです。
娘はこれから大学進学することから実際に勤務することは考えづらく、夫も「名義貸しだから」と言っていますが、法的には問題ないのでしょうか。半田望弁護士に聞きました。
——そもそも未成年でも取締役に就任できるのでしょうか。
会社法は取締役の欠格事由に未成年者であることを定めていませんので、未成年者であっても取締役になることはできます。
ただ、取締役として登記するためには印鑑登録された実印が必要ですので、実際には印鑑登録ができない年齢(14歳以下)の未成年者は取締役としての登記ができず、いろいろと問題が生じます。
現実問題としてもあまりにも幼い場合には後述する取締役としての責任を果たせないでしょう。
——未成年者を取締役に選任する場合、どのような手続きが必要でしょうか。
株主総会で取締役として選任されたうえで、会社との間で委任契約を締結する必要があります(会社法330条)。未成年者が取締役に選任された場合には親権者が法定代理人として会社との契約を締結することになります。
親権者が経営している会社との間で委任契約を結ぶ場合に親権者の利害相反となるかが一応問題とはなりますが、この点について明確に述べた文献等は見つかりませんでした。
会社は親権者とは別法人ですので基本的には利害相反にはならないと考えますが、実質的に親権者と会社が同一人格であると評価される場合には利害相反の問題も生じる可能性は否定できません。
取締役は会社の意思決定に参画し、取締役会への参加などを通じて代表取締役の職務を監督する権限を有しています。
未成年者が取締役となった場合、法定代理人によらずに取締役としての権限を行使できるかという問題もあります。これについても明確に述べた文献等はありませんが、法定代理人が未成年者が取締役に就任することを同意している以上、その職務遂行についても包括的に同意していると考えられます。
もっとも、包括同意が及ばない法律行為については法定代理人の同意がない限り無効となる危険性は残ります。
——取締役としての責任はどのようなものがありますか。
取締役には会社法上一定の責任が規定されています。例えば、会社に対する善管注意義務(会社法330条)や忠実義務(同335条)、競業避止義務(同356条)を追うほか、他の取締役の職務執行が適正に行われているかを監視する義務や会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときには直ちに当該事実を株主または監査役に報告する義務(同357条)などがあります。
これらの義務に違反して会社に損害を及ぼした場合には会社に対する賠償責任を負います(同423条)。また、職務執行において故意又は重過失により第三者に損害を与えた場合にも賠償責任を負います(同429条)。
——「名義貸し」でも責任は問われますか。
名義貸しであろうとこれらの責任が免除されることはありません。むしろ不祥事が発生した場合には他の取締役の監視義務を怠ったとして責任が認められる可能性があります。
高校3年生の娘さんが相談者の夫が代表取締役を務める会社の取締役に就任することはできますが、万一不祥事などが起こった場合には相応の責任を負うことになります。責任を軽減する方法としては、会社との間で責任限定契約(同427条)を締結することになります。
「名義貸し」とありますから、いわゆる「業務執行取締役ではない取締役」として責任限定契約を締結することは可能です。ただし、責任が限定されるのは当該取締役が善意・無重過失である場合に限ります。
また、相談者の会社の株主が相談者の夫ひとり、または相談者夫婦のみなど、相談者の家族と独立の利害を有する株主がいない場合には総株主の同意による責任免除(同424条)の余地もあります。
もっとも、これらは会社に対する責任についてであり、第三者に対する責任は別問題です。そのため、第三者からの責任追及のリスクは残ります。
取締役の氏名は登記されるため、娘さんが取締役であることは第三者が知ることができます。未成年の子を取締役とすると、第三者から見て「会社にはよほど人材がいないのだろうか」とか「実質的に社長のワンマン経営だろうな」とかの先入観を持たせる可能性もあり、会社の信用にとってマイナスの効果が生じることも考えられるでしょう。
なお、学校の校則との関係ですが、「家業の手伝い」であれば禁止していない学校もあると思います。取締役への就任が「家業の手伝い」と言えるかどうかはわかりませんので、最終的には校則の具体的な内容による、としか言えません。
【取材協力弁護士】
半田 望(はんだ・のぞむ)弁護士
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。
事務所名:半田法律事務所
事務所URL:http://www.handa-law.jp/