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体育で肩車→落ちて骨折、落とした生徒の親は「大変ですね」だけ…慰謝料はもらえる?

2021年09月12日 09:51  弁護士ドットコム

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学校で起きたケガの治療費は誰が支払うのか——。中学3年の息子のケガを心配する女性が弁護士ドットコムに相談を寄せました。


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女性の息子は体育の授業中、肩車の上に乗っていましたが、友人が急に降ろす姿勢をとったことでバランスを崩し落下しました。すぐに病院でレントゲン検査したところ、右手首骨折と左手の痛みで全治1カ月と診断されました。



友人の両親からは謝罪の言葉はなく「大変ですね」と言われただけで、日本スポーツ振興センターから通院費用の一部として1万円程度が支払われただけでした。



両手が使えず文字も書けなかったため、女性は「息子は成績もガタ落ちしてしまい私も含め精神的にもかなり疲労しました」と振り返ります。はたして、加害者や学校側に慰謝料や通院費などを払ってもらえないのでしょうか。高橋知典弁護士に聞きました。



●学業への影響が甚大

——親子ともに今回のトラブルでとても疲弊しているようです。



中学3年時といった学校生活の節目でする大きなけがは、最悪のけがです。というのも、受験に向けての最後の頑張り時ですし、一般受験の場合も推薦の場合も、高校受験では平常点を重視する高校が多いために、学業への影響が甚大です。



さらには、部活動をやっている子ならば、最後の大会に出られなかったといった精神的な負担さえあります。



さらに、こうしたけがをすると、痛みや今後の学校生活といった将来への不安から、お子さんが学校では元気に振舞っていても、家では不眠症になったり、「このけがさえなければ」と悔やみながら日々泣いてしまうことさえあります。



多少のけがならば大目に見る気持ちのある保護者でも、加害者や学校への損害賠償請求を行いたいという気持ちになるのは当然のことかと思います。



●治療費は請求できる?

——加害者に対して治療費を請求できるのでしょうか。



今回のケースでは加害者がいますので、加害者への治療費等の請求は当然考えられます。



また、安全な授業を実施することは学校の義務でもありますので、授業時の見守りやルールの説明、実施方法等の安全管理に問題があれば、学校に対しても、治療費や通院交通費、慰謝料などを請求できる可能性があります。



スポーツ振興センターからも治療費の支払いは行われますので、しっかりと領収書等を取っておいて、事後的にも請求できるようにしておきましょう。



もっとも、治療費は中学3年生の年齢ですと無料になっている自治体も多く、そうした地域では、自治体から補填されているということで、治療費として請求できる金額はないことがあります。通院交通費も、実質的に実費精算ですので、今回の事例のように大きくても数万円でしょう。



●慰謝料は請求できる?

——それ以外に、慰謝料請求は可能ですか。



これほど大きなけがをしている以上、慰謝料請求も可能でしょう。細かな金額についてはぜひ弁護士に相談をいただきたいのですが、実際に生活で感じる負担感を解消できるほどの大きな金額の請求は難しいことが多いです。



注意が必要なのは後遺症がある・予想される場合です。後遺症がある場合には請求できる金額も一気に大きくなる可能性があります。



後遺症があることは悲しいことでもありますが、適切な通院や対処をしなければ実際に後遺症があるのに請求もできないという危険がありますので、医師と相談しながら、必要に応じて継続的に治療を受けるべきです。



●学校側にサポートを求められる?

——学校でのケガはお金だけでは解決しないことも多々ありそうです。



基本的にお子さんの事件での金銭賠償は、ご家族が感じている負担感を解消するのには向かないことが多い制度です。



一方で学校は、学校内の不慮の事故で、生活に支障を抱えている生徒に対し、勉強など多岐にわたるサポートを行うことがあります。



例えば、学校の先生や友人に授業内容の板書の写真を撮って送ってもらう、提出物も作れないので平常点から提出物を削減してもらったり、試験に関しては受験時間を長くして口述筆記にしたり、参加困難な実技科目についてはレポート等の代替措置を用意し、成績への悪影響を下げることが考えられます。



生活の負担を軽減するべく、クラス内で他の生徒からサポートをもらえるように協力してもらうこともあります。受験では、事故の影響を加味した評価をいただくよう、中学校から高校へ申し送り、配慮を要請することもあります。



このように、学校で起きてしまった事故について、金銭的なサポートだけでなく、そのお子さんのために必要な支援は何かを検討し、柔軟に対応することで、けがの悪影響を最小限にすることが考えられます。



こうした配慮も、学校によっては何も言わずともやってくれるところもあれば、言っても言ってもやってくれない学校もあります。場合によっては弁護士へのご相談もご検討いただければと存じます。




【取材協力弁護士】
高橋 知典(たかはし・とものり)弁護士
第二東京弁護士会所属。学校・子どものトラブルについて多くの相談、解決実績を有する。TBS『グッとラック!』元レギュラーコメンテーター。教育シンポジウム、テレビ・ラジオ等の出演。Yahoo!公式コメンテーター。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/