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「小説現代」編集長・河北壮平が語る、小説の未来 「外に開いていく革命へと意識を転換するようになった」

2021年09月10日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

「小説現代」編集長が語る、小説の未来

 エンターテインメント系の小説雑誌をめぐっては、刊行ペースの変更、紙版から電子版への移行など各社が試行錯誤している。それに対し、2018年10月号でいったん休刊し、2020年3月号でリニューアル創刊した「小説現代」(講談社)は、長編連載中心の従来のスタイルを見直し、毎号読み切り中心にすることで新たな方向性を打ち出した。2015年にスタートしたレーベル、講談社タイガの編集長などを経て、2021年2月より「小説現代」の新編集長になった河北壮平氏は、メディアミックスの経験も多い。小説の面白さをどう伝えるかについて同氏に聞いた。(8月24日取材/円堂都司昭)


0.99が1ではない世界で仕事をしたい

――プロフィールでは、大阪大学大学院工学研究科中退後、2003年講談社入社となっていますから、大学院では理系の研究室に在籍していた。それがなぜ文芸の世界へ転身したんですか。


河北:大学では生産システムのシミュレーションの研究をしていて、直球の理系でした。でも、大学院にまで進んだのですがどうにも違和感が拭えず、遅ればせながら自分が本当にやりたいことは理系ではないんじゃないかと気づいたんです。0か1かの世界ではなく、0.99が1ではない世界で仕事をしたい、ずっと好きだった小説、文芸をやりたいと思って講談社に就職することに決めました。


――入社前、特にこのジャンルをやりたいということはあったんですか。


河北:文庫出版部志望でしたが、当時は知識がなく、自分が好きなものを読んでいるだけで単行本が文庫化される流れもよくわかっていませんでした。入社して同僚の話を聞くと、まるで読書量も足りなかったので、無知は恐ろしいですよね。よく入社させてくれたな、と。


――1990年代後半から2000年代はじめが学生時代にあたりますよね。その頃は講談社ノベルスに勢いがありました。1980年代末から綾辻行人、法月綸太郎、麻耶雄嵩などがデビューする新本格ミステリのムーブメントがあり、1990年代には京極夏彦、森博嗣、清涼院流水、2000年代には西尾維新や舞城王太郎など、講談社で河北さんが後に配属される文芸第三出版部は注目作家を多く輩出していましたが……。


河北:ノベルスに関してはもっと前の小学生の頃、読み終わらないものが読みたくて赤川次郎先生、西村京太郎先生、山村美紗先生を図書館で端から全部読んでいったんです。


――ああ、終わりそうにないシリーズばかり(笑)。


河北:でも、当時刊行されていた作品は全部読み終わりました。なにがしたかったんでしょうか。とにかく刊数があるものを求めていて、田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』とか藤川桂介さんの『宇宙皇子』とか。読書歴も偏っていて、エンタメと純文学の違いもあまり認識しないまま学生時代は、村上春樹さん、江國香織さん、山田詠美さんなども読んでいました。入社して最初に配属されたのは、「コミックボンボン」という小学生向けのマンガ雑誌の部署です。マンガも好きだし編集者として頑張ろうと思ったんですが、同誌は2007年に休刊してしまい、入社時の志望だった文芸へ異動になりました。


小説ってこんなに新しいエンタメ性があるんだ

――入社5年目で移った文芸第三出版部(当時は文芸図書第三出版部)、通称・文三は、ノベルスのほか小説誌「メフィスト」(1996年創刊。2016年に電子版に移行。2021年10月から会員限定小説誌「メフィストリーダーズクラブ」へリニューアル)を発行し、編集者が選者となって新人を発掘するメフィスト賞を主催してきた部署で、ミステリが軸になってきた伝統があります。


河北:異動した当初、「本格ミステリ」が何たるかを正確に理解してなかった気もしますが、10年以上ノベルスやメフィスト賞に携わるうちに、ミステリ編集者だ、みたいな偉そうな顔をし始めて(笑)。


――本格ミステリとは、不可解な謎を探偵役が合理的に推理して意外な真相を解き明かす、そういう物語を基本とするジャンルですね。講談社を起点に若手作家によるそのリバイバルが1980年代末に起きて、新本格ミステリと称された。そのムーブメントについては……。


河北:なんとなくは知っていましたけど、横目でみていたところがあって。それが文三に配属され本格ミステリに間近で触れると、とにかく面白い。綾辻行人さん、有栖川有栖さんをはじめ新本格全盛の頃から「メフィスト」へという流れにあったキャラクターノベルの趣や、最近ミステリ界で話題の特殊設定の先駆け的な発想、ある種のマンガ的な要素など、同時代の若者をひきつけるいろいろなものが膨れ上がっている時代だった。小説ってこんなに新しいエンタメ性があるんだ、超面白いじゃんメフィスト賞、と、その魅力にどっぷり浸かりましたね。


――「メフィスト」は、さかのぼれば「小説現代」(1963年創刊)の増刊として始まっています。講談社で「小説現代」を編集している文芸第二出版部は、日本推理作家協会主催の新人賞である江戸川乱歩賞(初回は1955年。新人賞になったのは1957年の第3回から)の受賞作を書籍化する部署でもあります。年月を経て文二が大人向けのエンタメになったのに対し、文三はそのオルタナティブとしてもっと若年層に向けて展開していたようにみえました、2000年代くらいまでは。近年はそれが変化しているようですが。


河北:かつての文学、文芸、特に文三が持っていた志は、スクラップ&ビルドでなにか強大なものに立ちむかう、いわばロックのような感じがあった。でも、僕が文芸の部署に移った10数年前からは少しずつ変わり出している時期でした。文芸を変えるといっても会社や業界の内部の革命だったものを、外部の革命へ、外に開いていく革命へと意識を転換するようになったと思うんです。こんなものは文学ではない、大人の読む小説ではない、ミステリではない、みたいな内ゲバの論争ではなく、もっとポジティブに「小説って面白いよね」というムーブメントに変わりつつある10年だったと思います。その志は2015年にスタートした講談社タイガというレーベルや、リニューアル後の「小説現代」も引き継いでいる。今では、エンタメの文三、文二、純文学の文一といった区分けの話ではなくなり、各部署の横のつながりは以前より増えていますし、それぞれの役割でこれからの小説がどうあるべきかを試しているし考えています。


ウイスキーで例えると「タイガ」はロックかストレートの世界

――河北さんは講談社タイガの創刊に携わり、2017年にレーベルの2代目編集長になるとともに講談社ノベルス、文三単行本、「メフィスト」などの長を兼任しました。講談社タイガは講談社文庫とサイズは同等ですが、位置づけの違いは。ライトノベルと一般文芸の中間でキャラクターを重視した、いわゆるライト文芸とみられることが多いようですが。


河北: 20~30代のエンタメ感度の高い人たちを中心としたレーベルなので作家性が強いし、尖った作品が多い。でも、そういったオリジナリティの強い新しい作品が集まることで結果的に映像化などメディアミックスが増え、創刊から6年ほどで10作品ほどがアニメやドラマになり、この期間に一番映像化割合が多いレーベルだと思います。タイガをライト文芸の一種とみる方もいます。でも、ライト文芸で少し前まで多かったお店×妖怪、アヤカシ、今なら後宮など、流行りのラインをテーマにした小説は、タイガに少ないんです。うちがお店×妖怪をやるのだったら京極夏彦さんがマイルストーンになってしまいますよ?という発想なので。


――京極さんは、妖怪のガチの権威ですからね。次元が違う。


河北:アヤカシとは本来、海坊主のことだから、妖怪の総称とするのは間違っているって京極さんに注意されますね(笑)。流行っているからそのジャンルの小説を世に出そうではなく、本当に面白いものを追求した結果、映像化したいと思われるような尖ったものになると思うんです。


――その場合、尖っているとは、どういう部分ですか。キャラクターは前提ですよね。


河北:ライト文芸とタイガが一緒にされるのは、キャラクター小説だからでしょう。でも今売れているエンタメ小説は、基本的にキャラクターに魅力のある小説です。


――河北さんが、担当したメディアミックス作品でいうと野﨑まど『バビロン』、城平京『虚構推理』、相沢沙呼『小説の神様』、井上真偽『探偵が早すぎる』、藤石波矢『今からあなたを脅迫します』、複数作家執筆の『ネメシス』など、設定や登場人物の思考とか、どこかに極端さを含んだものが多い印象です。


河北:個性が強い作家さんが多いですから。企画の切り口としてなるほどこの手があったかというオリジナリティ、新しさ、味の濃さがある。僕は時々小説をお酒で喩えるんですが、ライトという意味で言うと、小説というウイスキーをソーダ水で割ってレモンを入れハイボールにして飲みやすくしたもの。何杯でも飲めて二日酔いにならない。タイガは、ウイスキーはロックかストレートでどうぞの世界。二日酔いになるけど、クセになる。『バビロン』なんてピーキーでスモーキーなウイスキーだと思いますし、『小説の神様』もある意味では読んでいられないくらい、つらい話です。かつての講談社ノベルスの持ち味といってもいいですが、どこか普通ではないものを出している。面白いのは前提ですが、飲みやすさ、読みやすさを過度に意識しなくてもいいレーベルです。僕がタイガ編集長をやっている時は、部員から上がってきた企画を通さないことはまずなくて、面白さをきちんと担当編集者が説明できて、その面白さを信じているのであればいい。でも、流行りの設定だけ揃えて、面白さの肝が「今売れているから」という理由なら通せません。そうしていました。


 映画やドラマは、ヒット作に似たものを追う傾向があります。彼らはかかるお金が莫大だから当たっているものに近いものを作る必要がある。でも、小説はそれらに比べて、フットワークが軽いし、制作原価は映画の何百分の一かもしれない。それなら小説という媒体だからこそできるものを作ったほうがいいですよね。


「小説現代」は攻めるべき時、新しい時代の小説の届けかたを模索している

――「小説現代」編集長に着任されることになった時は、どう思いましたか。


河北:びっくりしました、僕でいいんですかと(笑)。やはり講談社の金看板の1つでもある雑誌ですから。ただ実は「小説」を外に開いていこう、変えていこうというコンセプトはタイガと変わらない。「小説現代」は攻めるべき時だと思ったんです。小説誌は単行本を作るための原稿を集めるだけではもうもたない。各社の小説誌が休刊や電子化され、媒体としてのありかたを考えないといけない時期です。みんな小説が好きだから、変化することは怖いですよね。僕も小説への愛情は負けていませんが、「小説現代」をプラットフォームにして、これまでの読者だけでなく、本ではなく小説というコンテンツから生まれたエンタメを楽しんでいる人にも開かれるべきではないか。そこから小説に戻ってきてくれればいい。小説はドラマや映画、音楽になってもいいし、朗読してもいいし舞台になってもいい。その根幹にあるのがテキスト・エンタテインメントであり、その結晶である小説の面白さを広めるためにできることを考えたい。ただ、結晶を壊さないことばかり考えていると、たとえば、こんなのはミステリではない、人間が描けていない、SFではないという内輪の議論になってしまう。僕は究極的には、小説原作の舞台化も映画化もなにもかも、これも小説ですといいたいんです。そういう新しい時代の小説の届けかたを模索しています。


――市場規模は違いますが、純文学だと芥川賞が短編対象の賞だから雑誌掲載の候補作や受賞作は注目されるし、雑誌掲載作を論じる文芸時評の慣習があってたまに論争が起きて話題になります。そうした純文学界隈での雑誌の存在感に比べると、エンタメ小説では雑誌が注目されにくい。人気作家の新作長編が一挙掲載されてもさほど話題にならないですし。


河北:1,000円程度の雑誌に一挙掲載の小説に、他の小説やコラムも読めるわけですから、コスパはいいんですけどね。


――「小説現代」がリニューアル創刊された際、塩見篤史・前編集長が従来の連載中心のスタイルを見直し、毎号読み切れる読み物雑誌に生まれ変わると打ち出しました。基本的にそのコンセプトは受け継いでいるんですよね。


河北:8割くらいは受け継いで、毎号大部分が読み切りという方向性です。長編一挙掲載だけを中心にするわけではないですが、小説の連載を楽しみに読む小説雑誌が成立しづらくなっているのは確か。それを特集主義にして成功したのが河出書房新社のリニューアル後の「文藝」でしょう。「小説現代」も特集主義にみえるかもしれませんが、特集というより、小説雑誌の中だけで完結しない、繰り返しになりますが外に開く物語の出しかたを試しているんです。


 例えば、今年7月号で特集した官能小説は電子でも読みやすいジャンルなので、特集だけをまとめた電子書籍をトライしてみました。作家さんと新しい読者が出会ってほしいという狙いです。


 また、9月11日・12日に紅玉いづきさんの原作で人気声優さんたちが出演する朗読舞台「池袋裏百物語 明烏准教授の都市伝説ゼミ」(https://tree-novel.com/works/episode/c6d4eddad58aacf7e11dfa17ac47b554.html)が催されます。これは、8月号の怪談特集「百物語、あといくつ?」をもとにしたものです。音で聞く小説はいいですし、怪談とはとても相性がいい。昔の朗読は譜面台の前で重々しく読む感じだったでしょう。でも、最近の声優さんたちの朗読は、台本を持った舞台劇で、1人じゃなく群読だから見える世界はすごく広い。チケットはソールドアウトしましたが、配信もありますので是非ご覧いただきたいです。「小説現代」はそうやって新しい形で小説を楽しんでもらうためのハブ空港になりたいんですね。「小説現代」という飛行場から、今度は朗読舞台に飛んでもらおう、次は電子書籍に飛ばしてみようとか。「令和探偵小説の進化と深化」を特集した9月号では、読書家であるジャニーズWESTの中間淳太さんの力を借りて今売れているミステリの面白さを伝えてみようとしました。


――9月号のミステリ特集の「特殊設定ミステリ座談会」(相沢沙呼+青崎有吾+今村昌弘+斜線堂有紀+似鳥鶏+若林踏)は、もしミステリ専門誌なら小説における流れをふり返ることが中心でしょうけど、今それを書いている作家たちがゲームやマンガからの影響の大きさを語っているのが面白かったです。小説での流れについては書評家の若林さんとともに編集長が補足する発言をしている。ここには河北さんのキャリアが反映されていますね。


河北:ミステリが周回遅れかもしれないという話とか……。


――ハッとさせられました。ミステリ小説史の枠内で考えたら出てこない話でしょう。


河北:なぜならゲームやマンガなどで展開されてきた特殊設定がみんなの共通理解になってはじめて、ミステリのフィールドでも遊べるようになるんだからと。面白い話です。この座談会もそうですが、従来とは違う小説の楽しみかた、届けかたができるのが小説誌なので、既存のものを深く深く掘るだけではなく、広く広くみせていくことをやりたいですね。


編集者はプロデューサー的な働きも求められている

――広げる意味では、メディアミックスについて多くの経験をされてきたでしょうが、映像化に賛否両論があったり難しい面もあるのでは。


河北:僕らは小説というマスターピースを作っていますが、映像化に関してはその業界のプロたちがいいと思うようにやってくれればいい。難しいことはありますよ。文章で簡単に実現できることが、多くの人が携わっても実現できない場合とか。毎回、勉強になります。僕はこう思いますとは伝えはしますけど、テレビや映画は小説の何百倍、ひょっとしたら何万倍も興行収入が入る世界。もちろん小説に存在した面白さがきちんと伝わればいいですけど、メディアが変わると面白さが変わりもするでしょう。原作レイプという嫌な言葉がありますけど、本の形ですでに世に出ている原作を汚すことなんかできない。映画やドラマがもしも面白くなかったら小説を読んでください、小説は面白いですよと笑顔でいいたいです。


――かつてマンガの部署にいたことは今に生きていますか。


河北:生きています。編集テクニックとしては漫画編集者としての編集論を今も大切にしていますし、文芸にきてからも実は少しはマンガを作っていて、高田崇史さんのミステリ小説『QED』シリーズをもっと知られるようにとコミカライズしましたし、「メフィスト」連載だった石黒正数さんの『外天楼』は名作で電子版でも売れ続けています。


――編集者と作者のかかわりかたについてはどうとらえていますか。


河北:僕は、編集者の働きをプロデューサー、ディレクター、マネージャー、タレントに分けるんですが、かつてのマンガ編集者はディレクターでとにかくいいコンテンツを作る、かつての文芸編集者はマネージャー的要素が強くスケジュール管理をしたりしていた。でも、今はみんなプロデューサー的部分を求められている。ごく一部ですが、タレントとして、こうやって前に出て喋ることも必要かもしれない。小説家と編集者のかかわりもこの10年で変わってきて、作品の内容にかかわる部分はもちろん、作品の届け方まで一緒に考えさせてもらうことが増えました。関係性は日々変わっていくし、作家さんによってまったく違う関係が求められることがある。担当作品には思い入れが強く、のめりこみすぎることは善し悪しありますが、そのくらい届けたい思いがないと今は届かなくなってもいますから。編集者像もアップデートしないといけない時期なんでしょう。


常に新しいことが起きていると思われる雑誌にしたい

――文三時代はメフィスト賞、今は小説現代長編新人賞、江戸川乱歩賞にかかわっているわけですが、新しい作家を見出す新人賞についての考えは。


河北:選考方式の違いもあって世に出る才能の傾向は異なりますが、どの新人賞も才能の原石を探すのは面白いです。今年の小説現代長編新人賞を『檸檬先生』で受賞された珠川こおりさんは受賞時18歳でした。前年に『晴れ、時々くらげを呼ぶ』で受賞した鯨井あめさんも含め、青春小説に新しい風が吹いているのを感じます。


――『檸檬先生』の受賞もそうですが、「小説現代」は全体的に若返った印象です。


河北:小説を若い人にも読んで欲しい思いはあるので、新人賞も含め、若返らせたいんです。これまで「小説現代」を一度も読んだことがない人に手にとってもらいたい。狙っているわけではないんですが、この半年くらい、たまたまジャニーズの方の表紙登場率が多くて……。


――ネットではそれへの反応がけっこうありますね。


河北:今月号に対してはファンの手紙が編集部宛てにかなりの数、届きました。「中間君を表紙にしてくれてありがとうございます」「小説はめったに読まないですけど、方丈貴恵さんの短編がすごく面白かったです」「ミステリ小説って面白いんですね」なんて。新しい読者が生まれたのかもしれないし、無茶苦茶嬉しいですね。


――小説雑誌とウェブの連動について考えていることは。


河北:SNSやtree(https://tree-novel.com/author/shousetsugendai/works_new.html)は、伝えるためのツールです。「小説現代」で、今月こんなものがあったよと発信できる、気になる存在の雑誌になりたいですよね。10月号は、また面白いですよ。次号の特集は「五分後にホロりと江戸人情」。最初は「5分」でなく「一寸」(=約12分)にしようとしたんですけど、時間が少し長いしわかりづらいですね(笑)。朝の読書運動もあって講談社文庫で『5分後に意外な結末』というショートショート集が、子どもたちに売れているんです。一方、年齢層の高い人たちでも、長編を読むのに疲れている人もいるのではないか。高年齢層も気軽に読めてホロリとくるものを求めているのではと考えて、思いきってショートショート時代小説特集を企画しました。


――読み切りが基本なら毎号がらっと色が変わってもいいですものね。


河北:「小説現代」で常に新しいことが起きていると思われる雑誌にしたいんです。変わらないことに価値がある伝統工芸品を作っているわけではないので、今を生きている読者に支持される小説雑誌でありたいと思っています。