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BTS JUNG KOOKとSUGA、ソロでも発揮する音楽的才能 それぞれのアプローチの違いに迫る

2021年09月05日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BTS「Butter」

 BTSのJUNG KOOKが9月1日に25歳(日本では24歳)の誕生日を迎え、世界中のARMY(ファン)から祝福の声が上がった。8月31日の夜にはV LIVEにてライブ配信を行ない、誕生日になる瞬間をARMYと過ごすという粋なはからいを見せ、その同時視聴者数は2000万とも。さらにはARMYから寄せられたメッセージをもとに即興ソング「Song for ARMY」を披露するなど、さすがの「黄金マンネ(末っ子)」っぷりを発揮してくれた。


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 また、8月30日にはBTSで多くの楽曲プロデュースを手掛けてきたSUGAが、Samsung「Galaxy」シリーズのプリセット楽曲「Over The Horizon」のアレンジを手掛け、フルバージョン音源をYouTubeにて公開したことも話題に。伸びやかな電子サウンドとダイナミックなストリングス。SUGAが持つクールかつ情熱的な才能を感じさせる仕上がりだ。


 そこで今回は、JUNG KOOKとSUGAのソロとしての音楽的魅力を見ていきたい。


■パーフェクトの先を楽しむJUNG KOOKの歌


 JUNG KOOKはライブ配信する当日の朝から、コミュニティアプリ Weverseでも「誕生日に関わらず言いたかったことを“歌詞“みたいな文章で書いてください」とメッセージを募集していた。そして、配信時には事前に歌詞に使用したいメッセージを厳選してきており、準備に抜かりがない。


 そんな慎重な姿勢からも伺える通り、JUNG KOOKの音楽に対するスタンスを「完璧主義者」と呼ぶ人も多い。「Song for ARMY」を作り上げるときにも「僕は作業するときすごく時間がかかるんです」と話していたように、フレーズを歌っては聴き返す作業を何度も何度も繰り返す。「半音下げた音のほうがキレイに出るときがあるんですよ」「手動で合わせるのが好きなんです」「設定を少しだけマイナス2くらい」と細かく調整していく。その微差によほど耳がいいのだと感心してしまう。


 そうこうしているうちに「楽しい。楽しくなってきた」と笑い、ふわりとハモリパートを歌ってみせるのだ。その軽やかに歌い上げた声に「もはや音源!」と言いたくなるのは筆者だけではないだろう。仮に私たちが脳内に「JUNG KOOKの歌声」というセンサーがあるとしたら、彼の歌声はしっかりど真ん中に当ててくる。その気持ちよさが、彼の歌にはある。


 「なんだか惜しいですよね」と再び調整を繰り返す姿に、きっと彼自身のイメージにもその完璧な「JUNG KOOKの歌声」というものがあるのだろうと予想する。それはラフに座っているときでも、激しくダンスを踊るシーンでも、正確さと妥協のなさは変わらないのだ。耳の良さはもちろんのこと、声量や音程のコントロール。その自己再現性の高さこそ彼の類まれなる才能であり、努力の賜物だ。


 「完璧主義者」という言葉の持つイメージそのままに、自分に厳しい部分を持ちながらも、JUNG KOOKの口からは「こういう感じで曲が作られるんです。遊びで!」という言葉と共に笑顔が溢れる。彼が完璧を目指すのはごく当然のことであり、さらにその先にある気持ちの良い音楽を目指す工程を「遊び」と表現するのは、本当に歌が好きなJUNG KOOKならではだろう。


 何をしてもパーフェクトなことから「黄金マンネ」との異名を持つJUNG KOOKが「歌うことしかできないので」と言っていたのも、単なる謙遜ではなく、それだけ歌=アイデンティティである表れ。パーフェクトな歌を届けることは、彼にとって生きることそのもの。そんな魂から響く歌声だからこそ、世界中を魅了して止まないのだろう。


■まだ見ぬ答えを発見していくSUGAの音楽


 BTSの楽曲プロデュースのみならず、ソロ名義のAgust D、そして他のアーティストのプロデューサーとしても活躍しているSUGA。Rolling Stone誌のインタビューでも「BTSのメンバーとしては調和に、Agust Dの場合は音楽の荒削りさに、他のアーティストの場合はプロデューサーとしてマス市場における人気にフォーカスしているよ」とアプローチの違いについて語っていたのが印象的だ(※1)。


 もともとSUGAは自らフロントに立つよりも、制作サイドを希望していた。それゆえに、メタ的に物事を見つめる能力が高い。BTSではアイドルとしての顔も持ちながらも、ラッパーとしての実力もしっかりと見せていく。Agust Dでは自分自身の内なる叫びを形にし、そのヒリヒリとする歌詞に驚かされることもしばしば。他のアーティストに向けた楽曲もそれぞれの“らしさ“を生かしたプロデュースで音楽ランキングの上位をさらっていく。何が今そのシチュエーションで求められているのか、それを見極めて作品にしていくバランス感覚が天才的なのだ。


 それは自分自身の歌声に対しても言えそうだ。2019年3月には、公式YouTubeチャンネルにてSUGAのレコーディング風景が公開された。そこでは担当するラップ部分を何度も録っては聴き返す姿が映し出されるのだが、テイクごとに異なる雰囲気を次々と出していく引き出しの多さに驚かされる。


 例えるなら、JUNG KOOKのレコーディングが極小のストライクゾーンど真ん中に向けて投げる度に速度を上げていくのに対して、SUGAのレコーディングは球速もボールの通るルートも異なる多彩な変化球。まだ誰も投げたことのない魔球を編み出そうとするかのようだ。それくらいの違いを、2人のレコーディング風景から感じることができる。


 持ち前の落ち着きのある声色を最大限に生かしたどっしりとした歌声から、少しかすれ気味に繊細さが伝わってくる歌声、ちょっぴりライトな弾むような歌声……たくさんある答えの中から、何が一番しっくりくるものなのか。やがて苦悶の表情を浮かべてソファに倒れ込むSUGA。


 その姿を見ていると、彼が目指している音楽は「発明」なのではないかと思えてくる。今回の多くの人が耳にしたことのあるプリセット楽曲を新たな形にアレンジするのもまたひとつの発明。常に、まだ見つけられていない最適解を導き出し、みんながやろうとしてできなかったことを音にしようとしている。まだまだ彼の中で発掘されていない音楽たちが、BTSとして、Agust Dとして、他のアーティストの楽曲として……あるいはさらなる新しい扉から飛び出してくるかもしれないと思うと、楽しみでならない。


※1:https://rollingstonejapan.com/articles/detail/34925/6/1/1(佐藤結衣)