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【レースフォーカス】アプリリアに最高峰クラス21年ぶりの表彰台をもたらしたA.エスパルガロと、その進化/MotoGP第12戦イギリスGP

2021年08月31日 09:11  AUTOSPORT web

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【レースフォーカス】アプリリアに21年ぶりの表彰台をもたらしたA.エスパルガロと、その進化/MotoGP第12戦イギリスGP
MotoGP第12戦イギリスGPで、大きなトピックスのひとつとなったのはアレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)の3位表彰台獲得だろう。アプリリアのライダーが最高峰クラスで最後に表彰台を獲得したのは、2000年第9戦イギリスGP(当時はシルバーストン・サーキットではなく、ドニントン・パーク・サーキットでの開催) 500ccクラスでのジェレミー・マクウィリアムスの3位で、実に21年ぶりの快挙である。むろん、アレイシ・エスパルガロとしてもアプリリアでは初めてポディウムに立った。

 2021年シーズン、アプリリアを駆るアレイシ・エスパルガロの成績は確かに上向いていた。第8戦ドイツGPでは予選で3番グリッドを獲得。そのドイツGPの決勝レースでは、序盤2番手を走行していた。

 序盤に上位を争うポジションを走っていても、これまではレース中盤に入ると次第にトップグループから離されてしまう展開が多く、その差がアプリリアとほかのメーカーとの差を物語っていた。しかし、イギリスGPの決勝レースは違った。

 2列目6番グリッドからスタートすると、1周目で2番手に浮上。序盤に一時、4番手に後退するも、そこから再び追い上げたのである。5周目にはレプソル・ホンダ・チームのライダーであり、弟でもあるポル・エスパルガロの背中に迫り、翌周には切り返しの8、9コーナーでポル・エスパルガロを交わした。2番手に浮上したアレイシ・エスパルガロは、トップを走るファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)を追いかけようとした。

「ペッコ(フランセスコ・バニャイア)とポルをオーバーテイクしたとき、すでにファビオとの差は1秒以上になっていて、ファビオに追いつくことはできなかった。だから、アレックス(・リンス)との2番手争いに集中することにしたんだ」

 その後、アレイシ・エスパルガロは後方からやってきたアレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)に交わされるも、3番手を維持していた。そして最終ラップでは、やはりハイペースで追い上げてきたジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)との接戦を演じる。

 最終ラップに入ったとき、3番手のアレイシ・エスパルガロと4番手のミラーとの差はほとんどなかった。ミラーが高速コーナーである12コーナーでアレイシ・エスパルガロの横に並び、13コーナーでインに飛び込み、パス。アレイシ・エスパルガロはすかさずクロスラインでイン側に位置取ると、ミラーに離されまいとした。続く14コーナーの立ち上がりでミラーの前に出ると、やはり左コーナーである15コーナーを先行して立ち上がった。

「誰が後ろから来ているのかはわからなかったよ。これは大きなミスだったな。最終シケインで、(ジャック・ミラーに)オーバーテイクさせるすきを与えてしまったんだからね。でも今日はとてもスムーズに走っていたし、冷静だった。それに、リヤタイヤをセーブできていた。だから、ジャックよりもトラクションがあったんだ。それで僕は3位を取り戻すことができたんだと思うよ」

 3位でフィニッシュラインを通過したアレイシ・エスパルガロが、タンクの上で感情を耐えるようにうつむく。仲がいいことでも知られるエスパルガロ兄弟。弟であるポル・エスパルガロが兄のアレイシ・エスパルガロの元にやって来て、健闘を称えるようにその頭を何度か叩いた。

 アレイシ・エスパルガロは決勝レース後の会見で、2017年から乗り替えたアプリリアでのバイクへの適応、バイクの進化についてこう語っている。

「ひとつはっきりしているのは、僕はバイクを自分に合わせようとはしなかったということだ。この5年間、僕はバイクをライバルと競い合えるものにしようと尽力していた。もちろん、エンジニアにはどうしたいのかを伝えたよ。僕はバイクを開発しないといけない立場にあったからね」

「でも僕は常に、バイクに自分自身を合わせようとした。いつも、バイクのいいところを伸ばし、バイクの弱点をよくしていこうとした。これが5年間、僕がやってきたことだ。(元フェラーリのスポーティング・ディレクター)マッシモ・リボラが(2019年から)やってきてからは、いろいろなやり方が変わった。多くのエンジニアがやってきた」

「アプリリアのバイクは、高い安定性を備えて、ダウンフォースが効く。エンジンの位置を変えることで、バイクのバランスも少しずつ変えている。この2年間で様々なことが行われ、その成果が出てきているんだ」

 また、アプリリアはリヤ側のライド・ハイ・デバイスについて、自動で作動するものを開発したのだという。アレイシ・エスパルガロが予選後の取材のなかで明かした。オーストリアですでに実戦使用されたということだ。ただ、イギリスGPではサーキットのレイアウトを考え、手動のものを使用していたという。

 ちなみに、アプリリアは今季、唯一、シーズン中の開発やテストなどの条件面で優遇されるコンセッション(優遇措置)が適用されるメーカーである。コンセッションだけではないのだろうが、これまで重ねてきた進化は、イギリスGPの3位という形で現れた、と言ったところだろか。

 アプリリアは2022年シーズン、これまでチームを運営していたグレシーニ・レーシングと袂と分かち、ファクトリー体制での参戦となる。そしてアレイシ・エスパルガロのチームメイトには、マーベリック・ビニャーレスが加入する。その成長、そして体制としても、目が離せないメーカーとなるだろう。

■クアルタラロが得た65ポイントのアドバンテージ
 イギリスGPで今季5勝目を挙げたのがクアルタラロだ。アレイシ・エスパルガロの言葉にもあるように、6周目にアレイシ・エスパルガロが2番手に浮上したとき、その差は1秒以上に開いており、独走で優勝を飾った。

 しかし、クアルタラロはこれまでにもしばしば述べているように、チャンピオンシップについては考えていない。そう、イギリスGPの決勝レース後の会見でも述べていた。

「僕はチャンピオンシップに集中しているわけではないんだ。47ポイント差が65ポイント差になったのだから、それは大事なことだけれど、でも、レース前にはチャンピオンシップを考えないと自分に言い聞かせていた。少なくとも、ミサノ(第14戦サンマリノGP)後まではね。楽しんでいるし、気持ちよく走れている。だから、次のレースでもまた楽しんで走りたいと思うんだ」

 昨年、混戦のシーズンで3勝を挙げ、チャンピオン争いを繰り広げながらもチャンピオンシップでランキング8位にとどまったのは、シーズンをとおした安定感が欠けていたからだった。今季は違う。5度の優勝のみならず、3度の3位を獲得しており、転倒リタイアのレースもない。

 この安定感という点では、今季、クアルタラロが頭一つ抜けていると言えるだろう。ランキング2番手のライダーは何度か入れ替わっているが、第5戦フランスGP以降、トップはクアルタラロが守り続けている。

 第12戦イギリスGPを終えて、ランキング2番手のジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)との差は65ポイント。残りのレース数は確定していないが、おそらく6、7戦であることを考えれば、このポイント差は決して小さくはない。

 クアルタラロは何度も「チャンピオンシップについては考えない」と繰り返している。この言葉が、クアルタラロのメンタル面での戦略なのかもしれない。クアルタラロがタイトルを意識したとき、どんなチャンピオンシップ争いを繰り広げるのか、シーズン終盤には明らかになっていくだろう。