2021年08月29日 10:01 弁護士ドットコム
国民生活センターはこのほど、2020年度に全国の消費生活センターなどに寄せられた相談件数が、前年度とほぼ同数の93万9343件だったと発表した。単純計算すると、1日当たり2600件ほどだ。
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これだけ多いと、暴言を吐いて職員を困らせるような相談者も出てくる。現場では今、「クレーマー(対応困難者)」対応によるスタッフの疲弊が問題視されている。中には休職や退職に追い込まれる事例もあるという。
消費者庁も看過できなくなり、今年度からはマニュアルをつくり、各センターなどで活用しているという。
消費者庁の担当者は、「相談者の怒りや憤りを受け止めることも相談員の役割だが、社会通念を逸脱した要求等には何らかの対処が必要となることも事実」と作成の意図を説明する。
消費者庁の委託を受けた「全国消費生活相談員協会」は作成に当たり、2020年7月から有識者による検討会を7回開催した。完成したマニュアルには、次のような記述がある。
≪どれ程説明しても平行線をたどり、暴言を吐く相談者(=対応困難者)がいます。公共財である消費生活センター(相談員)が、一人の対応困難者に独占され、相談員の疲弊により消費生活相談が機能不全に陥る可能性があります≫
当然だが、消費生活センターにも対応できること、できないことがある。にもかかわらず、自分の期待する答えが返ってこないと、怒りの矛先を相談員にも向けてしまうクレーマーがいる。特にコロナ禍でのストレスの高まりもあってか、こうした電話が増えたという。
マニュアルでは、「罵詈雑言が始まったら、『お前と呼ぶのはやめてください』等、相談者の言動を制止し、それでもやめなければ相談を終了します」など、具体的な対応や基準についても記載。メンタルヘルスへの配慮や組織としての対応法などについてもページを割いた。
「相談員ごとにバラバラに対応していた事案について、統一的に対応できるようになった、など好評の声をいただくことが多いです」(消費者庁)
近年、「カスタマーハラスメント(カスハラ )」という言葉がよく聞かれるようになった。客からの暴言や暴力などを指すものだが、背景には「顧客至上主義」があることも指摘されている。「自分のことを神様だと思っている勘違い客」が少なくないということだ。
この点は行政サービスにも共通点がある。対人の窓口は基本的に「住民ファースト」だ。民間にはできないことも求められるし、不親切であればメディアから批判される。一方、住民は「出資者」でもあるから、行政への期待は高く、言動がエスカレートしかねない。役所で住民が「お客様」と呼ばれることも珍しくなく、これもカスハラの一種と言えるだろう。
前述のマニュアルにも次のような記述がある。
≪消費者保護に係る法制度の整備等により消費者の権利意識が高まるなかで、顧客至上主義の考え方が一部に誤解をされて受け止められたことが背景にあると思われます。また、格差社会、ストレス社会といわれる社会状況は、不満が爆発しやすい環境ともいえます≫
カスハラへの対策は働く人を守る反面、客側を萎縮させたり、保護を弱めたりする方向に働く可能性もある。それゆえ、消費者庁もカスハラ対策にはこれまで積極的ではなかったとされる。その消費者庁が一部の相談について、もはや相談員への暴力であると明言したことが被害の深刻さを物語っている。