長く勤め、愛着のある会社でも「スっと心が冷める」瞬間はある。クリエイティブ職として働く30代女性が8月、キャリコネニュース編集部にこんな声を寄せた。
女性は「パワハラであることがわからない上司と社長の思慮の浅さ、将来性のなさにドン引きしたため」、11年勤めた会社を辞めようと思ったのだという。
具体的なきっかけは、「日報に書いた内容が気に入らない、として部下にパワハラをかまして退職を迫る上司(社長の娘)と、その上司の肩をもつ社長の、部下への土下座強要事件があった」ことだったそうだ。
自分の職場でこんな事件があったら、たしかにドン引きするのも当然だ。
「社労士も社長の都合のよいようにしか動かずあてにならない。雇われなので仕方ないですが…」と、女性は諦めたように語る。
「もともと残業代は出ない、裁量労働制なのに定時はある、など不満は多かったけれど、好きな仕事であるしスタッフや取引先もいい人ばかりなので我慢していたが、この一件で『この仕事はしたいが、この会社でなくてもいいな』とスっと心が冷めた」(女性)
女性は「11年働いてたんですけどね…」と、寂しげに締めくくっていた。
「働く人を大切にしない会社はすぐにでも辞めるべきです」
しかし、いくら仕事上不適切なことがあっても、土下座強要はまずいのではないだろうか? ブラック企業アナリストで、厚生労働省のハラスメント対策企画委員も務める新田龍さんはこう語る。
「土下座強要は、パワハラにあたります。実際、上司が朝礼の場で部下に土下座させた事案が裁判でパワハラと認定されたケースも存在します。
パワハラが成立する3つの要件があります。
1.業務上の優越的な関係にもとづいて
2.業務の適正な範囲を超えて
3.身体的もしくは精神的な苦痛を与える、または就業環境を害することをおこなう
土下座強要はこの3点を全て満たします」
やはり、土下座強要はダメなようだ。こうしたケースでは、女性のように辞めるのが正解なのだろうか?
「パワハラに加え、残業代も払わない、働く人を大切にしない会社はすぐにでも辞めるべきです」
新田さんは、こう断言した上で次のようにアドバイスを送っていた。
「その際は、未払いの残業代請求も忘れずにやっておきましょう。辞めると言いづらい、いろんな交渉をするのが億劫だ、という場合、最近は、退職『交渉』代行サービスも存在します」
「また、もし自分が土下座を強要され、精神的苦痛を受けたような場合は、法的手段に訴える手もあります。パワハラ行為は民事上の『債務不履行責任』(職場環境配慮義務違反、使用者責任)となり、被害者は損害賠償を請求できます。またパワハラの程度によっては、「強要罪」などの刑事事件になる場合もあります。土下座強要までしていたら、とても『指導の一環』などと言い逃れはできないでしょう」
「ただし、こうした訴えを起こす場合は、パワハラを受けたことや、残業代の未払いがあることを示す、確実な証拠(録音・録画やメール、文書のコピーなど)が必要です。客観的な証拠がないと、訴えを聞いてもらえる可能性がガクッと下がってしまいます」