トップへ

Official髭男dism、アルバム『Editorial』がチャート首位に 広がるクリエイティビティを1作品として成立させる手腕

2021年08月28日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

Official髭男dism『Editorial』

参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2021-08-30/


 2021年08月30日付のオリコン週間アルバムランキングで首位を獲得したのはOfficial髭男dism『Editorial』で、推定売上枚数は108,076枚だった。前作『Traveler』の初週売上も84,992枚と堂々たるものだったが、躍進を重ねた2年間を反映した数字だ。2位にはTOMORROW X TOGETHER『The Chaos Chapter』がリパッケージアルバム(既存のアルバムに新曲を追加して再リリースしたもの)のリリースに伴って再浮上し総売上は65,422枚。3位には山下達郎の『ARTISAN(30th Anniversary Edition)』が24,034枚でランクインしている。


(関連:Official髭男dism、ライブパフォーマンスの凄み 「Cry Baby」が開いたバンドの新しい表現の扉


 ほか、トップ10の初登場としては、4位『竜とそばかすの姫 オリジナル・サウンドトラック』(15,393枚)、5位 私立恵比寿中学『FAMIEN’21 L.P.』(14,887枚)、6位 ユニコーン『ツイス島&シャウ島』(14,025枚)、7位 夏組『MANKAI STAGE『A3!』Summer Troupe ひまわりと太陽』(13,959枚)、8位 FANTASTICS from EXILE TRIBE 『FANTASTIC VOYAGE』(12,894枚)、10位 Poppin’Party『Live Beyond!!』(6,925枚)がある。


 今回取り上げたいのは1位のOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)『Editorial』だ。前述したように、初週で10万枚を超える売上を記録した本作。「I LOVE…」、「HELLO」、「Universe」、「Cry Baby」といった強力なシングル曲や既発曲を収録した充実の内容で、ファンの期待にしっかりと答える一作と言えよう。


 しかし一番驚いたのはアルバムのリリース直前に配信された「アポトーシス」だった。日々過ごしていくなかで感じられる老いや衰え、あるいはその向こう側に待つ死をテーマに据えた、一種奇妙なラブソングとでも言おうか。もともとヒゲダンの曲には今と地続きの未来、そしてそこで待つ老いが顔を出すことがたまにあったように思う。「最後の恋煩い」の〈生存贈与の冊子の表紙を飾るような年頃になっても〉なんてフレーズはその最たるものだ(同じ『Traveler』収録の「ビンテージ」もそうか)。それが「アポトーシス」では真正面から取り上げられている。


 しかも、この曲はアルバムの2曲目だ。1曲目に配された「Editorial」がアルバム全体のステートメントのような役割を果たしたかと思うと、いきなり「アポトーシス」。ねじれ、歪み、グリッチするテクスチャーのサウンドを背景に、いずれ訪れるはずの別れに向き合うこころの機微が巧みな比喩の連鎖で描かれていく。〈いつの間にやらどこかが~〉から〈~泣き縋りそうになるけど〉までの流れがかきたてる感情にはぞっとするようなところがあって、レトリカルなようでいて具体的な手触りも同時にある、藤原聡の作詞が光っている。


 もう一曲、アルバムのなかで気になったのは「Shower」だ。印象的なディテールを伴った、生活感のにじむ情景の描写(〈夕飯のおかずウォーズ〉ってすごいフレーズじゃないですか?)には、「アポトーシス」と通じる藤原の作詞の特徴を強く感じる。しかし、そうした生活感あふれる内容に比して、楽曲の構成はヒゲダンらしく一筋縄ではいかずドラマチック。アコギの弾き語りから始まってじわじわと展開を盛り上げミドルテンポのグルーヴィなサウンドに至ったかと思うと、まるでワンルームで宅録でもしたかのような空気感の弾き語りパートをはさみ、さらにはぐいっとヘヴィなサウンドに感情を爆発させたりもする。


 「アポトーシス」も「Shower」もなかなか長尺の部類の曲で、前者は6分29秒、後者は5分40秒。しかし長ったらしさを感じさせることはない。言葉数を尽くして一曲のなかにひとつの物語をつくりあげる藤原のソングライティングと、それを受け止めて、繊細な起伏をいかしつつも楽曲をドラマチックに仕上げるバンドとしての度量があってこそ映える長尺だ(ちなみに、「Laughter」も6分弱ある)。この調子でいくと、いずれ7分を超える曲を出してくるのではないか? という気さえしてくる。


 とはいえ、ファンキーなディスコブギー「ペンディング・マシーン」や、小笹大輔作詞・作曲でアレンジにmabanuaや有賀教平を招いたネオソウル調の「Bedroom Talk」、ファルセットが印象的なエレクトロニックなバラード「Lost In My Room」といった楽曲の確かなクオリティに惹かれたりもする。改めて、その引き出しの多彩さや、引き出しを新しく拡張しようという軽やかな貪欲さが面白い。あれもやろう、これもやろう、と広がるクリエイティビティを、有無を言わさず一曲として、あるいは一枚のアルバムとして成立させる力業。やはりヒゲダンの魅力はそこに尽きるのだと思う。(imdkm)