2021年08月28日 08:21 弁護士ドットコム
就職試験で課されるWebテストを就活生本人ではない第三者が代わりに解く「替え玉受検」が度々、SNSで話題となっている。
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弁護士ドットコムには、実際に利用した人や検討中の人から「Webテストを友人に手伝ってもらったことがバレたら解雇されてしまうのか」「替え玉受検してもらったら、何か罪に問われるのか」といった相談が複数寄せられている。
8月19日放送のNHK「おはよう日本」でも、オンライン化が進む就職活動で替え玉受験が広がっていると報じられ、友人に替え玉受検してもらった企業から内定をもらったという学生も登場した。この学生は、替え玉受検を頼んだ動機として、数学や英語の能力だけでなく、実際に対面で人物判断をしてもらいたいというのが大きいと話していた。
Webテストは、就活生自身が特定のPCからネット上(Web)で受検するもので、通常は採用選考の初期段階で実施される。自宅などで受けられる場合には、厳格な本人確認はおこなわれないため、第三者が代わりに受検することも不可能ではないようだ。
替え玉受検については、東大生や京大生を名乗り、就職試験などのWebテストの代行でお金を稼いでいるとの情報が複数寄せられているとして、このほど東大と京大があいついで、学生たちに注意喚起をおこなった。
東大の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、替え玉受検について「不正⾏為に該当する」としたうえで、「仮に本学学⽣が加担しているとすれば、本学学⽣としてあるまじきことであり、 また仮に本学学⽣でない者が本学学⽣を騙って加担しているとすれば、本学ならびに本学学⽣の名誉を傷つけるもの」と回答。大学として看過しがたいと判断し、注意喚起を発出したという。
もし替え玉受検が発覚した場合には、代わってもらった就活生本人はどのような責任を問われる可能性があるのだろうか。加藤寛崇弁護士に聞いた。
——替え玉受検が発覚したら、どのような法的責任を負う可能性がありますか。
大学入試などの試験での替え玉については、なりすました受験者に私文書偽造罪(刑法159条)および私文書行使罪(刑法161条)が成立するという扱いが確立しています(最高裁平成6年11月29日決定)。
オンライン試験だと書面の答案は作成されないですが、電磁的記録に対応した処罰規定である電磁的記録不正作出・提供罪(刑法161条の2第1項)が成立することになります。
また、一般には、替え玉を依頼した就活生本人も、替え玉と同じ電磁的記録不正作出・提供罪が成立するのが通常と考えられます。就活生本人が自ら採用試験の申込手続をとるなど替え玉受検行為の実行に関与しているでしょうから、単に依頼した立場にとどまらないためです。
——民事責任はどうでしょうか。
民事上の責任が追及されたケースは見当たりませんが、替え玉受検は企業の適正な採用手続を妨害する行為であり不法行為が成立し、賠償責任を負うと考えられます。
もっとも、どのような損害が生じたのか算定しづらいでしょうし、あえて企業が賠償請求まではしないことも多いと思われます。
——替え玉受検が入社後に発覚した場合はどうなるでしょうか。
入社後の場合だと、第一に、「経歴詐称」に準じて懲戒解雇理由になることが考えられます。
経歴を偽ることが常に懲戒理由として成り立つわけではないものの、最終学歴詐称のような重大な経歴詐称であれば懲戒解雇理由として認められています。替え玉受検もこれに準じて考えることができるでしょう。
第二に、経歴詐称にせよ、替え玉受検にせよ、「このような経歴のある人」「試験で一定の成績を挙げたこの人」を採用するという企業の判断を誤らせて採用させる行為です。
そのため、そもそもの雇用契約に錯誤又は詐欺があり、雇用契約が取り消される理由になるという理屈も考えられます。
現実には、あえて当初の雇用契約の取消しとして扱うのではなく、懲戒解雇や退職させることで処理することが多いと思います。
取消しにすると、当初から雇用契約が成立していなかったことになるので当初から支払った給与の返還を請求できることになりますが、反面、労務の提供を受けた利益分の支払はすべきではないか、社会保険の加入も遡って取り消すべきではないか、といった事態が生じて、扱いが複雑になるという問題もあります。
——内定の段階で発覚した場合はどうでしょうか。
入社前の「内定」は、法律上は、企業の定める内定取消理由が生じた場合には取り消されるという留保付きで雇用契約が成立したことになります。
この内定取消理由として犯罪や非行行為などを挙げていることも多いと思われ、上記のとおり替え玉受検は犯罪ですので、取消理由に該当することになるでしょう。
また、取消理由に明示的に挙げられてなくても、上記のとおり懲戒解雇理由になる行為なので、端的に解雇されることもあり得ます。
どのような処置になるかは、会社の対応次第ではあります。ただ、替え玉受検は単に本来の能力を偽ったということではなく不正行為をしたということですので、そのような行為をする人は今後も不正をしかねないと思われて内定取消し・解雇されてもおかしくありません。
【取材協力弁護士】
加藤 寛崇(かとう・ひろたか)弁護士
東大法学部卒。労働事件、家事事件など、多様な事件を扱う。労働事件は、労働事件専門の判例雑誌に掲載された裁判例も複数扱っている。
事務所名:三重合同法律事務所
事務所URL:http://miegodo.com/