コロナ禍や水害といった災害の影響で、ブランド価値が問いなおされているタワーマンション。ネット上では「タワマンは在宅には向かない」「上層階は納期や構造上の問題で壁や床とかがすごく安普請だから買わないほうがいい」など、真偽不明の噂も多い。
専門家が住宅の劣化状況、欠陥の有無などを見きわめ、アドバイスするホームインスペクション(住宅診断)を展開するさくら事務所の土屋輝之氏に、タワマンにまつわる噂の真偽やトラブルの傾向について聞いた。(取材・文 伊藤 綾)
「上層階は安普請」の真偽は?
マンションの管理組合からの依頼で建物全体の点検や、不具合があったときの調査・鑑定などを担当しており、施工会社・分譲会社による第三者調査なども行っている土屋氏。
まずは「タワマンの上層階は納期や構造上の問題で壁や床とかがすごく安普請だから買わないほうがいい」という、噂の真偽を聞いた。
「これは全く根拠がなく、普請が安い現実はないです。中層階・下層階に比べて床や壁の構造が安普請ということはありません。安普請の定義は微妙なところですが、むしろタワマンの上層階は専有面積が中・下層階より広く、分譲価格もケタ外れに高いケースが多い。床を大理石などで石張りにするなど、中・下層階より上層階はより凝った高級な仕上げ材を使っています。物件にもよりますが、これは部屋の中に限らず共用部なども同じです」
この「上層階は安普請」という噂がなんとなく気になるのは、「上が重いと倒れてくる」という、感覚的なイメージと重なるからかもしれない。
「確かに建物の軽量化はタワマンの宿命ですが、上層階だからといって軽い建築材料を使っているといったことはないです。タワマンは下層?上層階まで基本の構造は同じです。タワマンに限らずマンションは下からつくっていくため、年度末などで納期が迫っている場合、慌てて内装を仕上げれば稀に雑なものもあり得ます。しかし、それは表面的な対応で解決できる問題で"欠陥"と言えるものではないし、タワマンの上層階だから特に多いということもありません」
仕上げ材などが高級な傾向にあるタワマンの上層階。むしろ仕上げ作業は念入りになる傾向もあるようだ。
コロナ禍で騒音トラブルが急増
しかし、そんな高級イメージのあるタワマンでも、近頃は「騒音トラブル」が増えてきているという。コロナ禍で長引く巣ごもり生活のストレスやリモートワークの普及も背景にあるようだ。
「上層階・下層階に関係なく、タワマンの居住者や管理組合からの騒音に関する相談は非常に多いです。これまでは生活音なんて全く気にしなかった人も、在宅時間が長くなったことで、『隣から洗濯機を回す音が聞こえる』『上の階で掃除機のヘッドで壁を叩く音が気になる』という声が表面化するようになりました」
「音の問題って一度気になるとナーバスになってしまい、音がしないか聞き耳を立てるようにして部屋で過ごすようになって、本当に精神的に病んでしまう。コロナ禍ではそういう方が激増しています」
生活音トラブルは集合住宅にはつきものだ。ただ、土屋氏によるとタワマンなど高級マンションで人気の「内廊下」に、意外な弱点があるという。
「騒音はいくつかのパターンに分けられますが、内廊下型のマンションの場合、室内の音が廊下に聞こえるという相談が多いです。ひと昔前はタワマンでも廊下が吹き抜けで外に面したものが少なくなかったんですが、この3?4年は内廊下型が完全に主流です。従来のマンションのように玄関扉が外に面していれば、部屋の中からの音もそこまで気にならないんですが、内廊下型のマンションだと気になってしまうんですね」
ホテルの内廊下を歩いていると、ドライヤーの音や話し声が意外なほど聞こえてくることがある。それと同じ理屈で、玄関扉の構造的に仕方のない部分もあるという。
「外と部屋の中を遮断するアルミサッシなどは、厳格な防音・遮音の静音に関して比較的しっかりした等級があります。しかし、玄関扉にはこうした考え方はあまり反映されていません。扉である以上、玄関扉と地面の間などに絶対に隙間ができるんです。音漏れを防ごうと、気密性の高すぎる扉にしてしまうと、今度は開け締めが大変です」
上や隣の部屋からの音も……!?
「私たちが実際に相談を受けたケースで、部屋の中にいる居住者の方に電話で話すふりをしてもらい、廊下にどれぐらい聞こえるか実験したことがありました。すると、驚いたことに、聞き耳を立てていたら会話の内容が聞き取れるぐらいの音が、廊下でも聞こえてしまっていました。部屋の中で使うドライヤーや掃除機の音も共用廊下にかなり漏れてしまっていて、居住者の方はこんなだと『怖くて夫婦喧嘩もできない』と言っていましたね」
内廊下は夏場や冬場、雨天時も快適で、外廊下では味わえないグレード感や安心感が人気だ。最近はタワマン以外でもマンションでも内廊下型が増えている。そこに、こんな落とし穴があったとは。
それ以外にも、全体の軽量化によって、防音性能が犠牲になっている部分もあるという。
「タワマンで使われる『ALC』と呼ばれる軽量発泡コンクリートは、鉄筋コンクリートよりも遮音性が低いです。また、床板の部材をスラブと呼びますが、上の部屋から響く足音や震動が気になるようなマンションは、ボイドスラブという部材が使われている確率が非常に高いです」
コンクリートの内部に発泡スチロールを埋め込んだボイドスラブは、従来のコンクリートスラブより軽くて強いため、従来型のマンションでも定番になりつつあるという。素人が一見してわかる部分ではないだけに、業者にきっちり確認しておきたいところだろう。
そして、忘れてはいけないのが、いくら高級なタワマンといっても共同住宅には違いないこと。壁を隔てたすぐ隣には、アカの他人が住んでいるのだ。
「コロナ禍で、共同住宅での生活はかなり神経質なものになっていますね。結局、上下左右で部屋はつながっていますから、どんな高級マンションでも『いつ何をやっても大丈夫』という感覚は捨ててもらわないと。コンクリートを伝播する音なんて防ぎようがないので、どんな高級マンションでもある程度の配慮は必要です」
人生でめったにない、高い買い物。どんな風に「音」が聞こえるのかについても、きっちり見極めたうえで慎重に物件を選びたいものだ。気になるポイントがあったら、販売会社や仲介会社、売主に十分なヒアリングを行ってほしい。