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悔しさを越えて……ビッグチャンスを逃した3台。Red Bull、カルソニック、ARTAの苦悩【第3戦鈴鹿GT500決勝】

2021年08月25日 23:11  AUTOSPORT web

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64号車のクラッシュでトップに立った16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTだが、序々に順位を下げてしまう。
ニッサンGT-Rの表彰台独占というメモリアルな結果に終わったスーパーGT第3戦鈴鹿のGT500クラス。アクシデントやトラブル、オーバーテイクが多く、順位が大きく入れ替わるレース展開でさまざまな車両にチャンスがあったなかで、上位フィニッシュが見えながらも、ペースが上がらす順位を下げてしまったチームも多かった。チャンスがありながら、悔しい思いでチェッカーを受けることになった3チームのドライバーに聞いた。

●前半トップ走行のビッグチャンスも、急下降してしまった16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT

 ポールポジションを獲得した64号車のブレーキトラブルによる5周目のクラッシュによってトップに立ち、一躍優勝のチャンスが見えたのが16号車Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GT(サクセスウエイト/SW16kg)だった。しかし、ファーストスティントで首位をキープできたものの、21周目にピットインしてからは実質4番手となり、その後、序々に順位を下げていった。後半スティントを担当した16号車の笹原右京にレース直後、聞く。

「もう悔しいを通り越して、正直、どう言葉で表せばいいかわからない状態ですね。(大湯都史樹が担当した)ファーストスティントではスタートして、64号車が残念ながらトラブルでクラッシュして、セーフティカーが入ってトップになりましたが、レースをしていない周も多かったなかでもタイヤがきつくて。まだクリーンエアで走れてたトップを走っている状況でしたが、ほぼミニマムの周回数でピットインするしかありませんでした」

 前半スティントのタイヤ状況を見て、後半はいわゆる硬めのロングラン対応のコンパウンドのタイヤを装着した。

「後半スティントは選択肢として別のスペックに替えるしかなかったのですけど、そのタイヤは朝のフリー走行で赤旗が出たので皮むきができていなくて、さらにそのタイヤが前半スティントよりコンディションにマッチしていなかった。ですので、アウトラップでも全然温まらなくてグリップが出なくて、後続にどんどん抜かれて、為す術がなかった。ひとりだけ、氷の上を走っているような感じでした。僕の強みはアウトラップだったのですが、どこからでも抜かれてしまう状況でした」

 アウトラップからタイヤが温まってからも、厳しい状況は改善されなかった。

「どんどん状況が悪化してしまって、後ろからとんでもない速さのマシンが渋滞状態で来ていて、なんとか意地で耐えていたのですが、たぶん、あの時は後続とは1周3~4秒くらい違って、勝負にならない状況でした。GT300が来ても、GT300の方がコーナリングスピードが速いくらいで、どうにもならなくて、俺はどうしたらいいんだと……」

「自分なりにはすごく頑張って走っていたのですが、あんなに簡単に抜かれて……抜かれた瞬間にバキューンと離されて、あまりにも悔しすぎて……言葉がなかったです。もう順位とかも見れない状況でした」

 その状況にも関わらず、笹原はチェッカーまでマシンとタイヤを保たせ、なんとか9位フィニッシュでポイントを稼ぐことができた。

「なんとか最後まで走りきれましたが、ピックアップもあって、すべての良くない要素が集約したような感じになってしまった。その状況でも褒めるわけではないですけど、よく耐えたなと思います。幸いにも9位でポイントが獲得できたので奇跡ですね。でも、これが今のタイヤと16号車のパッケージの現状。64号車が最後まで走れていたらどうだったのか見てみたかったです」

「今回、予選は(64号車にQ1でコンマ8秒離され)課題がありましたし、決勝でも課題だらけでしたけど、ここから開発をやっていくしかない。ドライバーとしては常に結果を求めているので、こういうレースが一番辛いですけど、今日はチームもダンロップさんもみんなが悔しい思いをしたと思うので、みんな一丸となって開発を進めていきたいですね」

●久々のチャンス到来のカルソニック、アドバンテージがあったはずのARTA、それぞれのレース後

●一時はトップ4形成も、表彰台独占から外れてしまった12号車カルソニック IMPUL GT-R

 トップに立ちながら優勝を逃した16号車と同等以上に今回のレースで悔しい思いをしたのが、ニッサンGT-Rの表彰台独占の快挙から1台だけ外れてしまった12号車カルソニック IMPUL GT-R(SW6kg)だった。

 30周目から38周目まで、ニッサンGT-Rが1位から4位のトップ4を占めるという、歴史的偉業が期待されたなか、12号車は一時2番手を走行しながらも23号車MOTUL AUTECH GT-R(SW4kg)にかわされ、39周目に1号車STANLEY NSX-GT(SW64kg)に4番手を奪われると、36号車au TOM’S LC500(SW52kg)にも抜かれてしまい、6位でレースを終えた。

 12号車カルソニックの後半スティントを担当した平峰一貴はレース後、悔しさのあまりトランポ内でずっと籠もったままだった。私服に着替えて駐車場に向かう帰り際、ようやくコメントを聞くことができた。

「もう、辛いレースでした。ニッサン陣営のなかでも、予選から僕たちが一番ペースがないのは見て分かっていた。決勝もアウトラップから計測1~2周目くらいまではよかったのですけど、そこからペースが上げられなくて、どんどん落ちていってしまいました。ピックアップもあったのですけど、それは今までもあったことなので……タイヤだけでなくクルマ、ドライバー、すべてが噛み合っていない状況なのかもしれないですね。自分のなかでは全力を尽くしたつもりですけど……ダメっすね」

 昨年、GT500にステップアップして、今回の鈴鹿が初めて上位フィニッシュが見えた大きなチャンスだった。これまで成績が良くないときでも忌憚なくメディアの取材に応える平峰も、さすがにレース直後はトランポ内で感情的になってしまったようだ。

「まあ……ね……一番、しょぼかったですからね。自分のなかでは計測3周目くらいで、『ああ、今日のレースは辛いな』と。ペースが落ちてくるなと分かっていましたけど、それを考えないようにとにかく最後まで全力を尽くしたつもりだったんですけど……。(2番手争いをした)23号車には(NISSINブレーキ)ヘアピンで抜かれてしまいました。23号車はもう、異次元の速さでしたね。1周2秒くらい速かった。1周1秒差くらいだったら抑えられたかもしれないですけど……無理でしたね。しゃあないです。次のSUGOではすごくいい結果を残せるように頑張ります」

●ホンダNSX陣営のなかでもっともチャンスだった8号車ARTA NSX-GTだが……

 前回優勝の1号車STANLEY NSX-GT(SW64kg)が4位に入ってランキングトップとなり、17号車Astemo NSX-GT(52kg)も7位に入るなど、サクセスウエイト(SW)が重い状態でもホンダNSXのブリヂストン勢は決勝で速さを見せたが、そのブリヂストン勢のなかで取り残されてしまったのがもっともSWが軽い8号車ARTA NSX-GT(SW26kg)だった。

 8号車ARTAは予選では5番手を獲得し、優勝候補にも挙げられており、少なくとも表彰台争いに絡むとみられていたが、まさかの11番手でレースを終えることになってしまった。後半スティントを担当した野尻智紀はレース後、エンジニアやチームスタッフと長いミーティングを実施。その合間に、取材に応えた。

「持ち込みの段階では『このフィーリングだったら予選はいけるな』という感触があったのですけど、でも、この感触では雨や決勝のロングランは厳しいと思っていました。そのあたり、決勝に向けてセットアップを直せなかったというのがあります。ファーストスティントの(福住)仁嶺も(6周目からの)セーフティカーが入る直前にオーバーステアがヤバいと言っていて、セーフティカーが入ったのでなんとか順位は保って帰って来れた状況でした」

 ファーストスティントで5番手を走行していた8号車ARTAは20周目にピットインして福住から野尻に乗り代わった。福住からの無線で状況は理解していたが、野尻の後半スティントは予想を越えて呆れてしまうほど、厳しい状況になってしまった。

「後半スティントはSCもFCYもなかったのでタイヤが冷えるタイミングもなかったですし、集団のなかに入るとさらにダウンフォースがなくなって、ちょっと、どうしようもなかったかなと。とにかくグリップがなくてオーバーステアがひどい。タイヤの選択の問題とかではなくて、セットアップも含めて……ホント、どうしてなんですかね。本当に僕も今回、レースできるスピードではなくて、何もできなかったので反省すべき点があると思っています」

 サクセスウエイトでは1号車STANLEYより38kg、17号車Astemoよりも26kg軽くて有利な状態なはずだが、そのアドバンテージが活きることなく、8号車ARTAは決勝でペースを上げることができなかった。

 FR化したNSXでは現在、同じブリヂストンユーザーのなかでもセットアップの方向が3台とも別々の方向に進んでいると言われ、タイヤの細かい仕様もドライバーの好みやエンジニアのセットアップに合わせて違ってきているという。さらに、近年のレースでは予選用のセットアップと決勝用のセットアップを分けて考える方向で、土曜日と日曜日のクルマが違ってきていると言われている。

 今回のニッサンGT-Rの表彰台独占のように、コースとマシンの相性、そして4位に入ったSW64kgの1号車STANLEY、予選12番手からSW52kgで5位まで順位を上げた36号車au TOM’S LC500など、セットアップとタイヤのマッチングがSWのディスアドバンテージを凌駕してくる展開がここ数戦、見受けられる。

 もはや、現代GT500クラスはこれまでのウエイトでパフォーマンスのほとんどが決まるようなシンプルな構図から、コースと車両の相性、タイヤメーカーの相性、セットアップの出来……etcがこれまで以上に複雑に絡み合った新時代に入りつつあるのかもしれない。