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【連載:本と芸人】ラバーガールが語る、小説から受ける“刺激”と“絶望” 「創作者のすごさがわかってイヤになっちゃう」

2021年08月25日 09:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ラバーガールが選ぶ3冊と本から受け取る"刺激"

 お笑い芸人にオススメの本や漫画を紹介してもらう連載企画『本と芸人』。第4回に登場するのは、8月26日~28日まで東京・本多劇場で約2年5カ月ぶりの単独ライブ『史上最高の夏!』を開催するラバーガール(飛永翼/大水洋介)。


 今回は、単独ライブのタイトルにちなんで、大水に“夏にぴったりな1冊”を紹介してもらいつつ、それぞれのオススメの本を1冊ずつ合わせて教えてもらった。(タカモトアキ)


■夏にピッタリな1冊、それぞれのオススメの1冊は?


・『恐怖箱 青森乃怪』(高田公太/竹書房文庫)


大水:今の季節にオススメの本として選びました。大体が青森を舞台としたもので、お化けが出てくる怖い話もあれば、数年前に死んだ自分の母親が出てくるようなホッコリとする不思議なお話も描かれていて。しかも、登場人物たちの会話はすべて津軽弁。青森出身の僕でさえ、あんまり使わないなって思うくらいディープな方言が使われてるんですけど、標準語の訳も付いてるので津軽弁の勉強にもなる1冊です。


飛永:作者の方は、シソンヌのじろうさんの学生時代の同級生なんだっけ?


大水:たしかそう。青森の新聞社で働きつつ、小説も書かれていて。


飛永:僕らが青森でライブをやるたびに取材してくださってるんです。実はこの本、僕もいただいたんですけど、読まなきゃなぁって思いながら何度目かの夏を過ごしています(笑)。


・『新装版 女の人差し指』(向田邦子/文春文庫)


大水:もう1冊のオススメは、向田邦子さんのエッセイ。向田さんは元々、ドラマ『あうん』とか『父の詫び状』が好きで、その後、小説やエッセイも読むようになりました。向田さんって難しい言葉を使っているわけではなく、言葉の組み合わせだったり、鋭い観察眼だったりがすごく面白くて。自分の心の小ささについて細かく書いていたり、いろんな人の嫌なところもただ嫌だと書くのではなく、“こんな人いるわよね”みたいな許容を感じる表現が心地いいんです。僕、1冊目の作家さんの元、青森の新聞でエッセイの連載をやってるんですけど、ちょっとでもこんな文章を書きたいなぁと思いながら、エッセイを書く前に向田さんのエッセイを読んで刺激をもらってるんです。難しい言葉を知らない中でも、なんとかうまい文章を書けるようになりたいなぁと思って。


飛永:執筆ってネタ作りに近いのかも知れないね。ネタもなるべくみんなが知ってる言葉で語順だったり、スピード感のある会話だったりを表現するから。自分たちのコントでも、難しい言葉や専門的な言葉は使わないようにしてるし。


大水:たしかにそうだね。


・『ネコの手も貸したい 及川眠子流作詞術』(及川眠子/リットーミュージック)


飛永:最後の1冊は、僕が選びました。あんまり本を読まないんですけど、何回も読み返した本で。僕、一時期、作詞をやってみたいなと思った時期があったんです。で、ハウツー本を探して行き当たったのが、『新世紀エヴァンゲリオン』主題歌の作詞を担当された及川さんの本だったんです。及川さんは職業作詞家といいますか、(書きたいものだけを書くのではなく)依頼に沿った作詞するプロだと自負されている方なんですけど、芸人にも通じるところがあるなと思いまして。例えば山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」は桜木町っていう身近な場所をワードとして使うことがそれまでにない新しいことだったらしいんです。あと、やしきたかじんさんの曲もそうで。関西弁としては正しくないけど、歌としてはこのワードのほうが合ってるとか解説されていて。芸人もみんな、オリジナルフレーズをネタに練り込んでますし、言葉のリズム感が大事なので、すごく勉強になるんですよ。


大水:だから、何回も読んでるんだ。


飛永:長く文章を読むことはできないけど、パッとめくったところを何度も読んだりはしてる。何回読んでも、たしかにそうだなぁと思えるから。


大水:一応確認するけど、何度も読むのは覚えてないからっていうわけじゃないよね?


飛永:(笑)。覚えてないわけじゃない。けど、ちょっと忘れちゃってるから何度も読んでるのかもしれない。


■本を読むのをやめた大水、本を読まない飛永、その理由は……


――本は読むほうですか?


大水:以前は好きで、月に何冊も読んでました。けど、本を読むよりお酒を飲むほうが好きになっちゃったと言いますか。家で飲むのが習慣になってから、本を読んでも(酔ってるから)まったく覚えてなくて(笑)、これじゃ意味ないなと思ってやめちゃったんです。だから、今はあんまり読んでないですけど、桐野夏生さん、西加奈子さん、角田光代さんとか、人間くさい物語を描く作家さんがすごく好きですね。


飛永:僕は漫画を少し読むくらいです。小説はあんまり読まないのは、創作者のすごさがわかって(自分自身が)イヤになっちゃうからかもしれない。村田沙耶香さんの『コンビニ人間』が面白いと聞いたんで読み始めたんですけど、3ページめくったところで“たしかに面白い。けど、これ以上、自分に入れるのは刺激が強すぎるな”と思って読むのをやめちゃったんですよ。


大水:(笑)。


飛永:よくないよね? 興味はすごくありますし、自分も書いてみたいなと思うんですけど、新しい表現を生み出してる物語や逆から読んだら違う意味になったりとある意味、芸人的な発想で書かれているすごい物語を読むと、太刀打ちできないなぁと思ってしまうんです。だから、読むとしてもハウツー本ですね。小説は……ファンタジーものもすっと(自分の中に)入ってこないですし、ヒューマンものは自分とあまり重ねたくないっていう気持ちがあるのかもしれない。僕、落ち込みやすくて、暗い作品を観たり読んだりすると暗くなっちゃうし、明るい作品も自分と比べて落ち込んでしまったりするので、あえて物語ものを避けてるのかもしれないですね。


――大水さんは小説を読まれますが、ご自身のコントとの創作においての関係性はいかがですか? いつも2人でネタを作られるんですよね。


大水:そうですね。僕はそこまで本から影響を受けることはないです。けど、ドラマは最近、自分も出るようになってしまったので、(ほかの人の)演技を見ちゃうようになりまして。だから、自分とはあまり関係がないように感じるドラマばっかり観てます。例えば、『孤独のグルメ』とか。


飛永:あぁ。松重さんの演技ってすごいよね?


大水:すごい。けど、すごすぎるから、“この演技、すげぇなぁ”って観なくていいっていうか。


――主題もグルメですし。


大水:そうなんです。テレ東のあの枠、大体、なんか食ってるドラマが好きですね。


■今年の単独ライブの新ネタは変なものが多くなった


——8月26日から28日まで3日間、5公演で約2年5カ月ぶりの単独ライブ『史上最高の夏!』についてもお伺いしたいんですけど、今回はどんな単独になりそうですか?


飛永:今回も新ネタをやります。コロナの影響もあってちょっと難しい世の中ですけど、みなさんに明るい気持ちになってもらえるものにしたいなということで、こういうタイトルにしたんです。でも、ネタを作る自分たちもダメージをくらってしまっているというか。


大水:明るくしようと思ってネタを考えた結果、変なネタが多くなりました(笑)。


飛永:ネタ作りも難しかったんですよ。事務所で練習したりもしますけど、2人の間に透明なアクリルパネルを置いた状態でやらなきゃいけないですし、普段なら喫茶店で何時間もかけて作れていたものが1時間半くらいで退店しないといけなかったりして。


——たしかに1年以上の大勢で遊びに行けなかったり、みんなとお酒を飲めなかったり、旅に出たりできてない状況は、ネタに大きな影響を及ぼしそうですね。


大水:そうなんです。しかも、ネタを作ったあとで“これ、下ネタが多いぞ?”って気づきまして。


飛永:あそこに行ったよ、こういう楽しいことがあったよっていうネタ作りのきっかけとなる話題があまりない中、2人で会話してると下ネタが多くなるという現象が起きました(笑)。


大水:で、ヤバイぞ、ヤバイぞって慌てて下ネタの部分をカットしましたね。


飛永:あと、知らないうちにご時世を斬ってたりしてね? いつもはあまり時代性を出さないように、流行りものはあまり入れないように意識しながら(ネタを)作っていた気がするんですけど、今回は勝手に入ってきちゃってるんでしょうね。けどまぁ、今の状況を楽しむしかないですし、今しか観られないコントを楽しんでいただけたらなと。二度とやらないかもしれないので。


大水:逆に、今だからこそできる設定のネタもありますからね。その辺、あまり細かくは説明できないですけど、ぜひ劇場やオンラインで観ていただけると嬉しいですね。


——本多劇場という演劇の聖地で単独ができる楽しみもありますよね。


大水:いつか本多劇場で単独ができたらいいなとは、うっすら思ってたんです。今回は劇場の方からやりませんかと声をかけてもらって。こういう状況なので迷ったんですけど、そろそろ踏み出さなきゃいけないなと。いつも割と腰は重いほうなんですけど、いつも以上に重い腰をがんばって上げて開催しようと決めました。


飛永:昨年、コロナが蔓延した時期に新しくYouTubeチャンネルを始めたんです。定期的に更新していくと、“あれ、これで食っていけるぞ”みたいな気持ちも持ったんですけど、そもそもこれがやりたいことだったのか、これだけをやっていくのが面白いのかなって考えた時、舞台に出続けないと自分を見失うなと思ったんです。昨年はファンの方々とも会わないから、僕らのファンなんていないんじゃないかと思ったりもして。単独をやるって決まった時もチケットを買ってもらえるのかなっていう不安も大きかったんですけど、たくさんの方が買ってくれて嬉しかったですね。


——無観客などを経験すると、お客さんの大切さに改めて気づきますよね。


大水:2カ月くらい前、20組くらいの芸人が出る大きなライブに出たんです。そこで久しぶりに何百人ものお客さんが入っている中、ネタをやったんですけど、“あぁ、やっぱりこれって楽しいな。いいもんだな”と再確認して。その時、やっぱりライブを続けていきたいなと思いましたね。


飛永:お笑いって安心して観るものなんじゃないかっていう気持ちもあって、昨年は単独をやらなかったんです。今もそういう気持ちはありますけど、ライブでウケると舞台に立ったあとの数日間は明るくなるし、頭の回転もよくなるし、体調がよくなるんですよね。ライブに立ち続けると自分自身も明るくなって、新しく発信できるものも生まれてくるのかもしれない。そうやってライブに立ち続けるためにはちゃんとしたものをやらないといけないなと思ったことが、今回の単独にもつながっているような気がします。


——最終日のチケットは完売してますが、オンラインや劇場で多くの方に観ていただけるといいですね。


飛永:お客さんにどう受け取ってもらえるのか。反応がすごく楽しみです。


大水:今はネタを揃えて稽古をするのみの状態なんですけど、今すぐにでも舞台に立ちたいくらいです。多くの人に観ていただけたら嬉しいですね。


■ライブ情報
『ラバーガールLIVE「史上最高の夏!」』
開催日時:8月26日(木)17時30分開場/18時開演
       27日(金)13時30分開場/14時開演
            17時30分開場/18時開演
       28日(土)11時30分開場/12時開演
            15時分開場/16時開演
※28日の16時からの公演はオンライン生配信あり
会場:本多劇場
劇場チケット:5000円(全席指定・税込)
配信チケット:2500円)同時生配信&アーカイブ1週間・税込)
劇場チケット取扱:イープラス(https://eplus.jp/rubbergirl/)
       FANYチケット https://yoshimoto.funity.jp/r/rubbergirl/
配信チケット取扱:FANYチケット https://online-ticket.yoshimoto.co.jp/products/rubbergirl-0828-1600
そのほか、単独ライブについての詳細は、公式サイト(http://www.p-jinriki.com/news/2021/08/005502.php)をご覧ください。