トップへ

沖田修一×千葉雄大が語る、5年ぶりの映画作り 「千葉くんが現場にいるのが心強かった」

2021年08月25日 08:11  リアルサウンド

リアルサウンド

沖田修一監督×千葉雄大(撮影:鷲尾太郎)

 田島列島の長編デビュー作を、『南極料理人』『横道世之介』『モリのいる場所』などで知られる沖田修一監督が映画化した『子供はわかってあげない』が現在公開中だ。


 もうすぐ夏休みのある日、高校2年生の美波は水泳部の練習中に、ちょっと変わった書道部員のもじくんと学校の屋上で運命的に出会い、思いもよらない父親探しの旅が始まる、ある夏の物語。


 主演の上白石萌歌が主人公の美波を演じ、細田佳央太がもじくん役を務める。そして、2人の夏に欠かせない存在となる、もじくんの兄・明大役で千葉雄大が出演。今回、2016年の『モヒカン故郷に帰る』以来のタッグとなった千葉と沖田監督に、本作での役作りや現場の様子について話を聞いた。【インタビューの最後には、千葉雄大のコメント動画あり】


【写真】千葉雄大の撮り下ろし写真8点


■「千葉くんが現場にいるのが心強かった」


ーー『モヒカン故郷に帰る』以来の沖田組参加となった本作について、千葉さんは「沖田さんの前では嘘がつけなかった。自然体になってしまった」とコメントされていました。沖田監督の現場はどんな感じなんですか?


千葉雄大(以下、千葉):監督の目の前で言うのは恥ずかしいですね(笑)。もちろんどの現場も楽しくやらせてもらっていますけど、沖田さんの現場はすごく居心地が良いなと感じます。それとスタッフさんの作品への熱量が高くて、“役をちゃんと生きなきゃな”と自然と意識させられる。個人的にはそのようなピリっとした空気も刺激的でした。その居心地の良さとピリッとする感じのバランスがちょうどいい気がします。


ーー沖田監督は現場の雰囲気作りで、千葉さんが感じられていることを意識されていたりはするのでしょうか?


沖田:どうでしょう(笑)? そんなにピリピリしながら作るような映画ではないにしても、手は抜けないなというか。ちゃんと面白いものを作るためにみんなが緊張感を持ってやってくれることがいいのかなと思います。千葉くんが言ってくれたように、そういう感じになっていたらいいですね。


ーー『モヒカン故郷に帰る』から5年経って千葉さんの魅力に変化はありましたか?


沖田:堂々としていて、成長していました。っていうと、何様だって感じなんですけど(笑)。『モヒカン故郷に帰る』で最初に千葉くんに出てもらったとき、長くてカットになっちゃった部分もあったんですけど、すごく楽しかったのを覚えていました。電話や泣く芝居の相手役を僕がやったことがあって、今考えると、ふざけるなっていう話でもあるんですけど(笑)、またいつか一緒に作りたいなという思いがあった中で、今回の役は千葉くんがやったら面白そうだなというのが一番にひらめきました。千葉くんが現場にいるのがとっても心強かったです。


ーー千葉さんが演じる明大はもじくんの兄で、現在は女性として生きるという変わったキャラクターです。役を作っていく上で、お2人の間でどんなやりとりがあったんでしょう?


沖田:役が難しかったですよね。


千葉:衣装合わせで、いろいろ相談し合いましたね。


沖田:あまり女装しないで女の人に見せるという、なかなか矛盾したことをやろうとしていたんです。千葉くんが持っている柔らかさや仕草で、女性らしさを出したいなと思っていたので。そしたら衣装や化粧をどこまでやるのかというところで、いろいろな試行錯誤がありました。


ーー明大は美波(上白石萌歌)の水泳大会の応援で叫んだり、父親のことを知って涙したりします。女性として生きる明大を演じる上で、そのような感情の部分で意識したことはありますか?


千葉:情に脆いところはすごく塩梅が難しいなと思いました。みなさんにどう映るか分かりませんが、美波ちゃんに対して共感したり応援するときの明ちゃんの感動が大袈裟になりすぎてしまったら嫌だなと思っていて。僕自身、“本当に頑張れ”という気持ちで応援のシーンに臨めたので、そこが伝わったらいいなと思います。仕草については、狙いすぎて女形のようになってしまうのは避けたかったので、あまり考えなかったです。


沖田:そうそう。それで現場で、喋り方も女形みたいにしなくていいっていう話をしましたね。


千葉:そうですね。物腰は少し柔らかだけど、思っていることはハキハキ言うところは意識しました。あとは兄弟の関係性のところですね。僕が本当に大好きなこの2人の空気感は、細田くんに引っ張ってもらったなと思います。


沖田:門司兄弟は不思議と似ているというか、不思議な似方をしたなと思いました。水泳大会の場面で細田くんと千葉くんの2人が並んでいるシーンを撮ったときに、全然違う洋服を着ているんだけど、2人の姿からいい兄弟の雰囲気が見えて、撮っていて楽しかったです。


■明大役に託した映画の“笑い”の要素


ーー田島列島さんの原作漫画は人気作ですが、実写化にあたり意識されたことはありますか?


沖田:マンガを映画にするのは今作が初めてでした。俳優さんが一生懸命、マンガ的な世界を演じるのは嫌だと思っていましたが、元々の原作が、実際に人が演じてもそこまで無理がないというか、シンプルな話だったので、映画ならではの雰囲気の中で作っていきました。


千葉:原作が少女マンガだったら、ビジュアル面などですごく熱量を注ぐ部分があると思うんですけど、今回はちゃんと普通に生きている人として見れる内容の物語だったので、僕も特に意識したことはありませんでした。原作で明ちゃんはタバコを吸っていたんですけど、それが脚本には書いていなかったので、タバコを吸うことになったぐらいです。


ーー千葉さんがこの作品で沖田さんらしいと感じた魅力は?


千葉:たくさんあります。最初、アニメから始まって、そのアニメを観ている家族が映っていく様子が本当に微笑ましい。他人が、その家族の中身というか、見てはいけないものを見てしまっていると感じるくらい、その日常感がすごく好きです。僕はこの現場で萌歌さんと佳央太くんの2人が本当に好きだなと思ったので、ラストの2人のシーンはすごく素敵だなと思いました。


ーー千葉さんのシーンで沖田監督がベストだと思うところはどこですか?


沖田:階段を降りてくる登場シーンから素晴らしかったと思います。情に脆いところも面白かったですし、どこまでやるかの塩梅の中で、ちゃんと映画の中では笑える感じになっていてよかったです。そういう要素を明大の役に託したところもあったので、編集しながらひとりでニヤニヤ笑っていました。


千葉:僕の“胸騒ぎ”のところが、予告編であんなに使われるとは思っていませんでした。


沖田:「来るよ来るよ~、胸騒ぎってやつが」のところ?(笑)


千葉:そうです。もうちょっと言い方があったのかなって思います。


沖田:いまさら?(笑)


千葉:いまさらです(笑)。


(取材・文=大和田茉椰)