作るのは面倒だが、あれば何かと重宝する「業務マニュアル」。作業に独自ノウハウがあったり、担当者が入れ替わったりする場面では、不可欠といってもいい存在だ。
ところが、派遣先で業務の引き継ぎ文書がなく困ったため、自分で聞いた話をまとめて、簡単なマニュアルを作っていたら、上司から「そんなのは作らなくていい」と言われて心外だった、という体験談がキャリコネニュース編集部に届いた。この女性に何があったのか。インタビューで聞いた。
何があったの?
派遣社員をしていて、水回り修理の会社で経理事務をすることになりました。前任者(やはり派遣社員でしたが2カ月で退職)から業務を引き継いだとき、引き継ぎ期間が4日しかないうえ、マニュアル的な文書が一切なく苦労しました。
そこで今後のためにも、前任者から聞いたこと・自分で体験したことを簡単なマニュアルにまとめていました。すると、「そんなのは作らなくていい」と言われてしまったのです。呆然としてしまいました。
――引き継ぎ用の文書は、必要な気がしますが……。どんな内容だったのですか?
マニュアルといっても大したものではなく、日々の業務を文書化しただけの内容です。
具体的には、朝出社したら必ず処理しなければいけない業務を図表にしたり、自分しか担当者がいない業務の手順メモ、また、イレギュラー案件への対処などをメモしていました。あとは1日、1週間、1カ月のタイムテーブルです。何時から何時までどんな作業をするかを書いていました。
――自分が仕事を引き継ぐ立場なら、そういった文書があると助かります。「マニュアルを作らなくていい理由」について、説明はあったのでしょうか?
説明はありませんでした。強いて言うなら引き継ぎとマニュアル作成で1週間かかったことぐらいでしょうか。しかし、自分自身も派遣社員で、いつどうなるかわかりません。次に来るのがどんな人でも、大丈夫にしておく必要があります。私としては、文書化は不可欠だと思って作業していました。
メールの返信、途中で丸投げ
この会社は、業務のやり方が非効率でした。CMでやっている某社の「情報共有クラウドサービス」も導入しているのに、なぜかそれを使わずにメールばかりでやりとりしていました。
たとえば、外部とやり取りしていたメールの途中で、社員が「忙しくなったので、●●さん代わりに返信お願いします」と丸投げしてくることが多々ありました。自分では答えられない質問がこちらに来てしまうので、結局社員に問い合わせてから回答しなければならなかったりと、かえって複雑になっていました。
正社員がメールや電話の対応を面倒がって押し付けてくるので、対応が多くて複雑になり、自分のメイン業務がなかなか予定通りに進まなくなってしまっていました。
孫会社の社名などが変わった際、「銀行へ行って口座名義変更手続きをしてこい」と言われたときも苦戦しました。派遣で社員証がないため、関係者だという証明に手こずったからです。「社員は来られないんです」と説得し、何度も窓口に通うはめになりました。
そんな、正社員が嫌がる仕事を押し付けられ、次第に体調不良になり、ドクターストップがかかって辞めると伝えました
しかし、そのタイミングで逆に業務が追加され、残業時間が聞いていた月10時間ではなく20時間以上になりました。特に月末月初は業務が集中してしまい、2週間以上毎日早出、休憩を短くして、残業することになりました。
――体調不良で辞めると伝えたら、業務量を増やされるのは不思議です。どうしてそんなことに?
説明はありませんでしたが、スタッフさんのお給料にも反映される業務のため誰かがやらなければいけなかったのと、人が少なかったのと、ドクターストップがかかる前に業務移行の話がついていたためだとは思います。それにしても、辞めると伝えて業務を増やされたのには唖然としましたね。
なかなか終わらない量なのに誰も手伝おうとしてくれないし、わからないことを質問しても「自分はわからないから」で通され、話にならない状況でした。
――「誰ひとり、やり方を知らない仕事」が社内のあちこちで発生していたのかもしれないですね。
追加された業務については、一応引き継ぎマニュアルもありましたが不十分で、前任者の退職ギリギリまでメールで質問することになりました。退職後は上司に確認しつつ何とかやっていましたが、上司も内容や流れをわかっていなかったので、苦労しました。
女性は「業務効率化やマニュアル作成が必要なのにしてこなかったツケが来たと、会社側が反省してくれていればいいなと思います」と振り返っていた。彼女が作ろうとして「要らない」と言われてしまったマニュアルが、さっそく必要になるとは……。なんとも皮肉な話である。