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残業代請求の証拠は何がいい? GPS記録や家族との「今から帰るよ」LINEも使える

2021年08月24日 16:01  弁護士ドットコム

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職場でトラブルに遭遇しても、対処法がわからない人も多いでしょう。そこで、いざという時に備えて、ぜひ知って欲しい法律知識を笠置裕亮弁護士がお届けします。


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連載の第2回は「労働時間をどう立証するのか」についてです。ハラスメントや残業代請求の事件では、労働者側が証拠をあつめなければなりません。では、一体どのようなものが証拠になるのでしょうか。



●立証するために入念な準備をしなければならない

私は毎日、たくさんの労働者の方から、労働事件のご相談をお受けしています。相談の中で最も多いのが「ハラスメント被害に遭って困っている」というものです。次いで、残業代請求、解雇・リストラといったところです。



解雇・リストラの場合には、それが有効であることを立証する責任を使用者側が負うのですが、ハラスメントや残業代請求の事件の場合には、立証責任を労働者側が負うことになっています。



立証責任とは、簡単に言えば、責任を負う側が十分な立証ができない場合には、敗訴してしまうという訴訟上のルールのことを指します。



そのため、立証責任を負う側は、請求を行うにあたって、きちんと証拠の収集に努め、入念な準備をしなければなりません。請求を行う前の段階で、どれだけ充実した証拠を集めることができたかが、事件の帰趨の大半を決めると言っても過言ではありません。



弁護士は、与えられた材料をもとにただ裁判をやるだけ、と考えておられる方が多いかもしれませんが、少なくとも私はそうは考えていません。



依頼者の希望を聞き、法律上どのような請求ができるかを考え、その請求が認められるためにはどのような証拠を、どのように収集するかということまでの的確なアドバイスを行えるのが、優れた弁護士であると考えています。



そのためには、弁護士自身がその時々の「流行」をきちんとフォローし、様々な観点からのアドバイスを行えるように準備をしておく必要があります。今であれば、SNSやスマートフォンのアプリに関する最低限の知識は必須でしょう。



●労働時間の立証の仕方は、実は「何でもあり」

今回は、残業代請求をしたいという相談を受けた場合、どのような証拠を収集するべきかについて考えてみようと思います。



多くの職場では、タイムカードが導入されています。しかし、残業代が未払いとなっているような職場では、タイムカード上、正確な労働時間が反映されていないことが大半です。そのため、タイムカードがあるだけでは、必ずしも十分な請求ができません。



労働時間に関する立証を考える際に、私が注目しているのは、依頼者の方の生活行動パターンです。



残業代を請求したいと考える方は、ほぼ間違いなく、プライベートの時間を満足に確保できないような過酷な働き方をされています。外出時間がほぼ通勤時間+労働時間と一致するという方も少なくありません。つまり、その方の日々の生活の行動パターンを何らかの形で炙り出すことができれば、それが極めて有力な労働時間の裏付けになるわけです。



そのように考えると、労働時間の立証の仕方は、実は「何でもあり」ということになります。



●スマホのGPS記録や家族とのLINEも証拠に

最近はほとんどの方が、通勤時にスマートフォンを携帯しています。私自身の経験では、スマートフォンのGPS記録やデジタル万歩計のアプリの記録から依頼者の方の行動の様子を分析し、労働時間の立証に成功したことがあります。



ほかにも、通勤中にご家族やご友人と「これから出勤」「今から帰るよ」などのLINEメッセージを送り合う習慣のある方の場合には、LINEのデータを分析することで労働時間立証につなげたこともあります。



出勤時と退勤時に会社の入り口を必ず毎日写真撮影していただき、写真データのプロパティに出てくる撮影日時から始業・終業時刻を割り出したこともあります。最近は、残業代計算に特化したアプリというものも出ており、簡単に労働時間を計測するということもできるようです。



●業務PCの記録やオフィスビルの入退館記録も活用

スマートフォン以外にも、有名なところでは、業務で使用しているPCのログ記録やメール送信日時の記録は、大変有力な証拠です。



業務管理のためのアプリ(サイボウズ等)のログ記録も、最近はよく活用します。Zoom等のオンライン会議システムと連動しているケースも多く、入手できればその方の働き方が手に取るように分かる場合があります。これらは、テレワークを行っていることが多い方の労働時間立証には大変有効です。



入手するのに労力はかかりますが、会社のオフィスビルが警備会社と契約している場合には、警備会社のサーバーに保存されている入退館記録を入手することもあります。



アナログなものでいうと、手書きの書類作りに追われていたという方のケースで、その方の苦労を立証するため、作成していた膨大な手書きの書類を証拠提出し、その作成にかかるであろう時間を私自身がシミュレーションすることで推計し、立証につなげたということもあります。



このように、労働時間の立証が重要となる事件では、様々な工夫を凝らしてその方の行動の記録をどのように再現できるかを検討し、アドバイスをしています。裏を返せば、いざというときに身を守るためには、自分の行動記録を何らかの形で後から再現できるようにしておくことが重要でしょう。



(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」がスタートしました。この連載では笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)




【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/