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Max Racingが悲願の優勝。「ホッとした」田中哲也監督と、複雑な表情のひとり【GT300決勝あと読み】

2021年08月23日 07:40  AUTOSPORT web

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2021スーパーGT第3戦鈴鹿 GT300クラスを制した三宅淳詞と堤優威(たかのこの湯 GR Supra GT)
「予選でミスしてしまったことを自分で取り返し、トップで帰って来ることができたので、今までスーパーGTを戦ってきたなかでいちばん満足するスティントでした。優勝できて本当に最高です」という三宅、「優勝はメチャクチャ嬉しいですが、最後までヒヤヒヤするレースを作ってしまいました。でも結果は大満足です」という堤と、若きふたりがその才能を余すこと無く披露し、ついにたかのこの湯 GR Supra GTがスーパーGT初優勝を飾った。

 鈴鹿サーキットレーシングスクール出身で、一度スカラシップを外れながらも、その速さでシートをつかんだ三宅、そして一度フォーミュラをあきらめながらも、ワンメイクレースからチャンスを掴み続けた堤。田中哲也監督、そしてつちやエンジニアリングの土屋武士代表が見出したふたりのGT300初優勝は、実に爽やかな光景を鈴鹿にみせてくれた。

 この優勝は、2020年からスーパーGTに参戦を開始したMax Racingにとっても初優勝だ。2020年は第6戦鈴鹿で激しくクラッシュ。シャシー交換という憂き目にもあった。そんな鈴鹿での優勝は、チームにとっても嬉しいところだろう。

「GRスープラはポテンシャルがありますし、実際に他のGRスープラも勝っていましたから、タイヤとのマッチングなどがうまくいけば、勝てるとは思っていました。気温などいろんな要素があるなかで、雨が降らなかったことも含め、勝てるときに勝つことができました。レースについては、そういうポテンシャルが十分ありましたね」と田中哲也監督は振り返った。

 田中監督とMax Racingとの関係は深い。チームオーナーのGo Maxと知り合ったのは2007年。オーナーがワンメイクレースに出場し、そのコーチングを務めたことから関係がスタートした。アジアン・ル・マンやスーパー耐久など、Max Racingの挑戦にずっと携わってきた。

「感慨はもちろんあります。勝ったレースにオーナーが来られていないというのはありますが(苦笑)。でも感慨というより、これだけの道具をずっと揃えてもらっていたので、ホッとした方が大きいかもしれません」と田中監督。

「資金面も含めれば、スーパーGTの大会冠スポンサーも務めていますし、どちらかといえば余裕があるチームだと思います。でも、今まで僕らだけ勝てなかった。他のGRスープラも勝っていたので、どちらかというと『良かった』という気持ちの方が大きいですね」

 2020年からのスーパーGT挑戦では、これまで速さをみせるときは多かった。予選でも上位に進出したりと見せ場はあったが、それでも初年度は無得点。「結果に結びつけられず、クルマも替えてもらったにも関わらず、やっぱり結果が出ていなかった。とりあえずオーナーに対して良い報告ができますし、やっとスタート地点に立てました」

■優勝の喜びのかたわらで、喜びとともに浮かぬ表情がひとり
 レース後、夕暮れどきの鈴鹿サーキット。喜びに沸くドライバーたち、ホッとした表情の田中監督、そして満足げな表情を浮かべていたメカニックたちの横で、実は喜びを感じながらも、悲痛にも近い、浮かない表情の人物がひとりいた。それは、つちやエンジニアリングの土屋武士代表だ。

 土屋代表自身は、スーパー耐久参戦時からMax Racingのメンテナンスをつちやエンジニアリングで務め、エンジニアとしてたかのこの湯 GR Supra GTを自らドライブし、セットアップを担ってきた。自らが手塩にかけるHOPPY Porscheで、2020年の苦しい時期からヨコハマとともに開発してきたタイヤをたかのこの湯 GR Supra GTに投入し、それで勝てたのだ。

 もちろん、担当したエンジニアとしては最高の結果だ。また、今春亡くなった父、土屋春雄さんは、たかのこの湯 GR Supra GTには関わっていない。「親父ぬきでこれだけのクルマを作ったということは褒めてくれると思う」と土屋代表は言う。そして、たかのこの湯 GR Supra GTは「まだまだ速くなる」とも。

 しかし、自らが選び、自らが全幅の信頼を寄せる松井孝允と佐藤公哉が駆るHOPPY Porscheは、1周遅れの23位だった。繰り返して言うが、23位だ。前戦ツインリンクもてぎの際にも触れたが、どちらのクルマも土屋代表自らドライブし、同じタイヤを履いている。鈴鹿はGTA-GT300、GTA-GT300 MC規定で作られたクルマが得意であるということは、自らが良く知っている。しかしそれでも、この結果にはまったく納得がいかない様子だった。

「性能調整とは、いったいなんなのか?」と。

 自分で乗っているだけに、この結果も土屋代表にとっては分かっていたことだ。今回、たかのこの湯 GR Supra GTを先頭にヨコハマ装着車がGT300クラスのトップ5を占めたが、土屋代表は松井と佐藤に「オレたちが作ってきたタイヤがトップ5になった。そこは誇ろう」と声をかけたという。だからこそ、この結果は悔しいものだし、何よりHOPPY Porscheのドライバーたちの気持ちを考えれば、浮かない表情になるのは当然だろう。

 ワンメイクタイヤでない以上、GT300の性能調整は永遠の課題だ。どういう結果になっても、性能調整についてクレームを聞くのは、毎戦の筆者のルーティンだ。しかし、2台ともにすべての事情を知る土屋代表の言葉は重い。

 たかのこの湯 GR Supra GTの気持ち良い勝利で、今季投入されたGRスープラの2台は、どちらも優勝を飾った。強いクルマが登場することは喜ぶべきことだが、参戦するすべての車両にチャンスが欲しい。せめて1シーズンに1戦でも。それはファンの願いでもあるだろう。