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BTS、『Memories of 2020』で振り返る“飛躍の年” 失敗や後悔にもとことん向き合い、SUGAの不在を乗り越えた1年に

2021年08月22日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

BTS「Butter」

 BTSが8月10日に発売した『BTS Memories of 2020』DVD&Blu-ray。ARMY(ファン)との歩みを毎年記録してきた『BTS Memories of』シリーズだが、コロナ禍によって対面する機会が激減してしまった2020年は、特別な重みを感じずにはいられない。ディスク7枚、約722分の大ボリュームに、会えなかった時間の分だけ思い出を共有したいというBTSからの愛が伝わってくる。


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 なかでも驚かされるのが、オンラインライブ『BANG BANG CON The Live』を収めた「ディスク1」、各ライブのStage CAM映像を集めた「ディスク7」以外、メイキングフィルムで構成されているという点だ。BTSの魅力はステージやMVのみならず、それらが作り出される様子そのものも、多くのARMYが待ち望む“作品“と呼べるものであることを再認識させられる。今回は、2020年のメモリアルな受賞式のメイキングフィルムを収録した「ディスク6」を主軸に、彼らの魅力を改めて振り返りたい。


■いつも“何か”が始まるBTSのメイキングフィルム


 「(BTSの生みの親である)パン(・シヒョク)PDから“控え室では必ず何かしてください“と言われた」と『2020 Billboard Music Awards』の控え室で語っていたのは我らがリーダーのRMだ。傍らにはギターの練習を続けるSUGA。気ままに練習していると見せかけて、さりげなくRMがカメラに語りかける言葉たちを彩るBGMを演奏するという、にくい一面を見せてくれる。


 このようにBTSのメイキングフィルムが面白いのは、彼らの中に“待ち時間も何かをする時間だ“という意識が定着しているからなのだろう。そして、誰かが何かをしていれば必ず他のメンバーがそれを見つけて声をかけに行く。そこから、新しい遊びが生まれていく様子が見ていて飽きないのだ。


 いまや、BTSのメイキングフィルムといえば「お約束」とも言える風景も見かける。まずは「破壊神」と呼ばれるRM。その名にふさわしく至るところで、その不器用な姿を見せてくれた。『34th Golden Disc Awards』のセットで用意されていた小道具のレモンを手に取り、「映画とか見たらおしゃれなおじさんたちがこういうのをしてますよね……」と言いながら、お手玉のように投げてキャッチしようとするも、レモンはどこかへ転がっていってしまう。また『2020 MMA(Melon Music Awards)』では衣装のズボンが破けてしまうというハプニング発生。「こうなると思った」というコメントにはさすがのひとことだ。


 むしろ何かをせずにいられないのが、「マンネ(末っ子)ライン」と呼ばれるJIMIN、V、JUNG KOOKのいたずら大好きメンバーだ。VがマイクでJUNG KOOKを突くイタズラがスタート。それを見たJIMINが今度はVを突くと、最終的になぜかマイクを交換して仲良く歌うという彼ららしいやりとりが繰り広げられた。また、JINとJUNG KOOKの最年長と最年少の仲睦まじい風景もメイキングフィルムでは「待ってました」というARMYも少なくないはず。『2020 MAMA(Mnet Asian Music Awards)』の舞台裏では、気づいたらJINとJUNG KOOKが両手をつかみ合い膠着状態に。「1、2、3で離さない……1、2、3!」と声をかけ合うも、それはどちらも離さないのが、お決まりのパターン。2人がケラケラと笑う様子が実に平和だ。


■自信を失ったら笑顔になるまでとことん向き合う


 栄誉ある音楽賞にノミネートされ、各賞に輝く裏側で、こんなにも和やかな空気が流れているのだ。もちろん、ときには彼らも失敗や後悔をする。『第62回グラミー賞』では、Vがコメントを求められたときスムーズに答えられるようにと熱心に練習をしていた。緊張した面持ちで会場まで向かい、いよいよインタビューとなるも、残念ながら準備したコメントを言うチャンスに恵まれなかった。すると、RMは「やりたかったら今しなきゃ!」と励まし、JIMINが「僕たちやります」と再度インタビューのチャンスを掴む。


 だが、それでもうまくいかなかったVの肩を抱きながら「(インタビュー)もう1回頼んであげようか?」と寄り添うのはJINだ。その横から「僕が映像で撮ってあげる!」とJ-HOPEがスマホをセッティング。すかさずJINがレポーターになりきり「感想のコメントをお願いします」と語りかけると、ようやく準備していたコメントを言えて、いつもの笑顔が戻ってきたV。そのあとも、JINはJUNG KOOKが「僕が準備したのは“ARMYのみなさんに一言“だったのに。それが言えなくて(残念です)」とこぼしているのも聞き逃さない。「今、ひとことお願いします!」と、またもやリポーターへと変身してみせるのだ。


 その恩義を覚えていたからかどうかは定かではないが、『2020 Billboard Music Awards』の収録現場ではJINがカメラに向かってコメントしていると、JUNG KOOKが横入りをして見せ場を横取り。2人がもみくちゃになっている間に、すかさずVがやってきて、まさに“漁夫の利“といった様子でカメラを独り占めしてコメントをする……という場面が繰り広げられていた。失敗や残念なことは笑顔になるまで一緒に向き合う。そして次は自信を持ってできるようになればいい、そんな温かな思いやりがいつもBTSの中に流れている。だからこそ、この多忙かつハイプレッシャーな日々を、彼らは楽しむことができているのだろう。


■高い完成度とアイデアを取り入れる柔軟性


 さらにインタビューだけでなく、パフォーマンスに関しても彼らはいつだって試行錯誤を繰り返す。リハーサルから立ち位置やカウントの取り方にズレがないように入念に準備をし、撮影や収録後には、すぐにモニタリングでチェック。氷点下の野外ステージであっても納得がいくまで、撮り直すことをいとわない。またBTSは「振り付けチーム長」と呼ばれるJ-HOPEがその名の通り、ダンスの面でグループをリードする。『BANG BANG CON The Live』のメイキングフィルム(ディスク2)では、彼がライブの準備を進めていく頼もしい姿も見てとれる。


 一方で、各ステージに合わせてアレンジを加えていく際には、JIMINも積極的にアイデアを出していく。『2020 Billboard Music Awards』で「Dynamite」を披露する際、JUNG KOOKが登場するオープニングをジャズのアレンジに合わせて華やかな動きをプラスするようにアドバイス。モニタリングしたJ-HOPEはすぐさまその振り付けに反応し「最初カッコよかったよ! たくさん準備したね」とJUNG KOOKとJIMINの双方を褒める。その喜びを糧に、また彼らはより良いパフォーマンスを目指してアイデアを出し合っていくに違いない。


 そして、2020年の後半といえばSUGAが肩の治療のために活動を休止していたタイミングでもあった。SUGAのいない立ち位置をそのままに披露したり、カメラの前に並ぶときにはSUGAの写真パネルを携えたりと、常に彼の存在を機にかけながら活動を続け、寂しいながらも7人の絆を深めた時期。『2020 MAMA』で6冠を達成したときには、「SUGAさんがいないから(7冠じゃなかった)」なんて冗談を笑い合う。また、JIMINのアイデアでSUGAに電話をつなぎスピーチをするという展開もあった。同じ場所にいなくてもSUGAと心を一つにしたスピーチは、「どんなに離れていても私たちはつながっている」と訴え続けてきた2020年の彼らの活動に、これ以上ないほどの共鳴を見せ、大きな感動を呼んだ。


■コツコツと積み上げたものが2020年を飛躍の年に


 こうして振り返ってみると、一つひとつ着実に積み重ねられた結果が、今のBTSなのだということに気付かされる。はじまりは、控え室のちょっとした声かけかもしれない。でも、常にコミュニケーションを取るベースがあることで、パフォーマンスについて気になることがあればすぐに指摘できる関係性を築けた。仮に誰かが失敗して自信を失ったときには、みんなで笑えるところまで向き合える空気が生まれた。そしてうまくいったときには、盛大に褒めて伸ばすことでよりよいアイデアが発信しやすい風土になった。もし誰かが休まなければならないときにも、常につながっていると思える愛情が育まれていった。


 対面ライブができないこと、直接ARMYと触れ合うことができないこと。彼らにとって厳しい局面が続いた2020年は、むしろBTSがこれまで培ってきた確かなものがしっかりと目に見えた形になったタイミングと言えそうだ。舞台の表も裏も、どんな姿でも魅せられる彼らの強さは、まだまだ混乱の続く2021年にもしっかりと見てとれる。願わくば、1日も早くARMYの大歓声をダイレクトに浴びながらパフォーマンスし、その喜びを語らう彼らが見られるように。今この瞬間も撮りためられているであろう次回作『BTS Memories of 2021』を楽しみに、この危機をBTSと共に乗り越えていきたい。(佐藤結衣)