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「ブレーキには神経を使う。正直、来る前はもっと不安だった」中嶋一貴 決勝直前インタビュー/ル・マン24時間

2021年08月21日 18:21  AUTOSPORT web

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トヨタGAZOO Racingで8号車GR010ハイブリッドをドライブし、第89回ル・マン24時間レースに出場する中嶋一貴
2021年WEC世界耐久選手権第4戦/第89回ル・マン24時間レースの決勝スタートを翌日に控えた8月20日、ハイパーカークラスに参戦するトヨタGAZOO Racingはリモート形式の記者会見を開き、フランス・ル・マンから前日のハイパーポールでポールポジションを獲得した小林可夢偉、中嶋一貴、そして村田久武チーム代表が出席、予選を含めた前日までのセッションの総括、決勝に向けた展望などを語った。

 ここでは、8号車GR010ハイブリッドをドライブする一貴が語った内容をお届けする。

 8号車は18日の予選、そして19日のハイパーポールで、ともにブレンドン・ハートレーがアタッカーを務めている。これまで自身が担当することが多かったル・マンでの予選アタックについて、一貴は次のように経緯を述べた。

「僕自身は別に自分がやならきゃいけないわけではないと思っています。僕は今年(開幕戦)スパで予選を担当して、(第2戦)ポルティマオはブレンドン。(第3戦)モンツァも『好きだ』っていうのでブレンドンが行きました」

「傍目から見ていても、いい感じで予選ができているなぁと思っていたので、(ここル・マンでも)『どうする?』という話になり、相談して決めました」

 19日のFP3で一貴はインディアナポリスでクラッシュを喫している。直後に発表されたコメントでも一貴は自身のミスであることを認め、チームに謝罪しているが、その状況についても改めて本人から説明があった。

 今季投入されたGR010ハイブリッドは、初期段階からブレーキのセットアップに苦労してきたという経緯がある。ル・マン・ハイパーカー(LMH)規則ではフロントのみにMGU搭載が許され、昨年までのTS050ハイブリッドにおける四輪回生&力行での協調回生ブレーキとは成り立ちが異なることがその根本にはある。

「ブレーキの難しさというのはもともとこのクルマではあって、今回ル・マンではだいぶ良くなってはいるのですが、タイヤのグリップが低い時や、少し温度的に良くない状態だとフロントがロックしやすい」と一貴は説明する。

「僕がそれ(フロントロック)を起こしてしまった場所が、ちょっと悪かった。あそこでそういうことをすると、即、クラッシュにつながってしまうので、もう少し自分自身も気をつけるべきでした。僕のミスです」

「タイヤはちょうど、(決勝想定で)3スティント目を走り出すくらいのマイレージだったと思います。そこまでハイスピードでクラッシュしたわけではなく、ちょっとフロントがロックして、オフラインで止まれるかな、という感じではありましたが……。ハイパーポールではポルシェ(92号車のケビン・エストーレ)があそこでクラッシュしていましたが、動き的にはあれに近かったと思います」

 ブレーキについては、決勝でも注意する必要があるようだ。

「いろいろなブレーキ関連のセットアップも試していますが、カーボンブレーキは温度管理が難しい部分もあるし、タイヤの温度が下がればグリップのバランスも変わり、(回生・ブレーキの)マッピングの受け取り方も変わってきます」

「そのあたりの難しさはありますが、ドライバーもある程度走ってきているので、タイヤとブレーキの状況をいち早く察知して、対応していくしかないと思います。安定した走りにはブレーキングが大事なので、自分もミスをしていることですし、よりいっそう気をつけてレースに臨まなければならないと思います」

「前のクルマ(TS050)と比べると、より繊細な部分はあると思うので、そこは24時間を通して走る上では、少し神経を使う部分です。ただ、今までの(前半3)レースと比べると、ワンステップ、ツーステップくらい、ル・マンでは良くなっていると思います」

「正直、ル・マンに来る前はもっと不安でしたけど、ここに来てみたら思ったよりもいい状態で戦えている。その進歩についてはチームに感謝していますし、これからもどんどん良くしていけるんじゃないかと期待しています」

■トヨタの1スティントは13~14周か。連続3スティントが基本
 テストデー後、レースウイークのセッション前の取材では、ハイパーカークラスのライバル勢、グリッケンハウス・レーシングのグリッケンハウス007 LMH、アルピーヌ・エルフ・マットミュートのアルピーヌA480・ギブソンのポテンシャルについて「本戦で走ってみないと分からない」としていた一貴だったが、プラクティスと予選を経て、相対的な位置関係が少しずつ見えてきているようだ。

「プラクティス中に見ていると、アルピーヌとはあまり差がないのかなと思います。部分的には向こうの方が速く見えるところもあったりました。なので、予選のタイムでは思ったより大きな差がついたな、というのが正直な感想です」

「グリッケンハウスは、2台のうちどちらなのかで(印象が)異なる気がします。2台で差があるようにも感じます。ただ、スタート直後なんかはかなりチャレンジしてくる気はしているし、ストレート区間は速い。そのあたりは警戒しています」

 決勝での1スティントの周回数については「はっきりとは言えませんが、昨年までより多いですね。ドライバー、タイヤは基本的にはそれぞれ3スティント(連続で)いくと思います」と一貴。

 昨年は1スティント11周、ドライバーとタイヤが連続4スティント(計44周)をこなしていた。「去年までよりは若干、(1回の連続走行の)時間が短くなるんですけど、タイムとラップ数を考えると、そこまで変わらないですよね」というコメントから推測すると、今年の1スティントは13~14周あたりになるのだろう。

「(ライバル勢に比べて)ペースがいいといっても、その差がすごく大きいわけではないですし、ちょっとした問題やタイムロスでレースを失う状況には変わりありません」と、可夢偉と同じく気を引き締める一貴。

「他を見て戦うというよりは、自分たちがやるべきことをやらなくてはいけない。(ライバル勢と差がついて)自分たちに集中できる状況が理想ですが、そうでなかったとしても、走ることに集中しないといけない。それを忘れないように、最後までやりたいと思います」

 決勝は21日の現地時間16時(日本時間23時)にスタートする。19日発表の暫定グリッド表によれば、PPの7号車GR010ハイブリッドはマイク・コンウェイ、8号車はセバスチャン・ブエミがスタートドライバーを務める。