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『俺ガイル』『はめふら』『俺妹』のラブコメ山脈に『ろしでれ』は連なるか? 最新ランキングからライトノベルシーンを考察

2021年08月20日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ラブコメ山脈に『ろしでれ』は連なるか?

 世はまさにラブコメブームのまっただ中。新刊ライトノベルのタイトルには、『恋人ごっこ』『幼なじみ』『連れ子が元カノ』『箱入りお嬢様』『僕が彼女の妹(※地雷系)を攻略』といった感じに、スイートでキラキラとした恋愛ストーリーを想像させるワードが並ぶ。


 Rakutenブックスの週間ライトノベルランキング(8月9日~15日/https://books.rakuten.co.jp/ranking/weekly/001017/#! )でも、ラブコメは人気だ。2位に定番タイトルの渡航『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。結1』(ガガガ文庫)が入り、3位にテレビアニメの第2期が放送中の山口悟『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…11 特装版』(一迅社アイリス)、7位にこれも定番の伏見つかさ『俺の妹がこんなに可愛いわけがない17 加奈子if』(電撃文庫)が入って支持の厚さを見せている。


 「俺ガイル」と略され、「はめふら」と呼ばれ、「俺妹」と親しまれるこれら定番ラブコメの牙城に、冒頭に挙げた新しいシリーズが食い込むかは読者の関心次第だが、そうした中にあって、既に「ろしでれ」の愛称を得て注目を浴びている新シリーズがある。燦々SUNによる『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(角川スニーカー文庫)だ。


(参考:【画像】ボソッとデレてる? アーリャさん


 最新のランキングでは第2巻が44位で、第1巻が79位と順位を下げているが、1つ前の週では、7月30日の発売直後ということもあって第2巻が4位に食い込み、第1巻も11位と上位につけた。人気の理由を想像するなら、やはりタイトルにある”デレ”の要素に引きつけられるからだろう。


 「ろしでれ」のヒロイン、アーリャことアリサ・ミハイロヴナ・九条はロシア人の血をひいた銀髪の美少女で、中高一貫の進学校に中学3年時に編入して、即座に実力テストで学年トップをとって才女ぶりをみせつけた。進学した高等部でも生徒会の会計を務め、広報の周防美希と並んで1年生の二大美姫と奉られる。そんなアーリャにまったく臆すところを見せないのが、中等部時代からのクラスメートの久世政近だった。


 隣の席に座った政近は、参考書を忘れてアーリャに見せくれと頼んだり、居眠りして授業を聞いていなかったりして真面目なアーリャを憤慨させる。その時にアーリャがボソッと呟く言葉がロシア語で、政近が何を言ったか尋ねると「バーカ」といった悪態だと答えるが、実は幼少期にロシア語の映画をたくさん観てヒアリングができるようになった政近には、アーリャが正反対の内容を口にしていることが分かっていた。


 「バーカ」と説明した言葉は実は「かわいい」で、ほかにも「赤ちゃんみたい」とか「真面目にしてればかっこいいのに」とデレているにも関わらず、怒っているのだと理解したふりをしなくてはならない政近の、ムズムズとした感覚が読み手にも伝わって心をキュンとさせる。政近がロシア語が分かるとアーリャが知ったら、どんな波乱が起こるのか。そんな期待が先のエピソードへと読み手を向かわせるのだ。


 かっこ悪いはずの正近にどうしてアーリャがデレるのか? それには秘められた才能のかっこよさといった要素も「ろしでれ」にはある。ボンクラに見える政近だが、中等部では幼なじみの美希が生徒会長を務める下で副会長として支えていた。アーリャに対しても、中学最後の学園祭の出し物でお化け屋敷をやろうとなったものの、クラスメートの誰も協力してくれず、憤慨しながらひとりで作業をしていたところに現れ、衣装作りや設営の段取りをつけて最高の出し物を作り上げた。


 助けられたアーリャがそんな政近の才能に好意を抱いたことが、普段はだらしない姿に悪態と見せかけてデレるきっかけとなった。第2巻では政近が、衣笠彰梧の『ようこそ実力至上主義の教室へ』で暗躍する綾小路清隆なみにスーパー男子であることも明かされる。アーリャを次期生徒会長にするために動き出した政近が、同じように生徒会長を目指している美希を相手に本気を見せ始めるのかが、第3巻以降の興味の的になりそうだ。


 ランキングの1位は顎木あくみ『わたしの幸せな結婚五』(富士見L文庫)ががっちりと固めて強さを見せた。5位は7月からテレビアニメがスタートし、ラブコメに見えてミステリでありSFでもあるジャンルミックスな展開に興味を抱き、手に取る人が増えたからか二語十『探偵はもう死んでいる1』(MF文庫J)が入った。


 最年少記録を幾つも塗り替えた藤井颯太二冠の活躍もあって、注目度が高まっている将棋の世界が舞台となった白鳥士郎『りゅうおうのおしごと!15小冊子付き特装版』(GA文庫)が9位。主人公の九頭竜八一が保持している竜王位に、現実の世界でも藤井二冠は近づきつつあって、8月30日開催の挑戦者決定三番勝負第二局に勝てば、豊島将之竜王への挑戦が決まる。現実に幾つも超えられて来たライノベルが、またひとつ現実に負けることになるのか。動きから目が離せない。


(文=タニグチリウイチ)