2021年08月18日 10:01 弁護士ドットコム
「エアコンのない暑い室内で仕事しているが、会社が環境改善をしてくれない」という相談が弁護士ドットコムに寄せられました。
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相談者は、店舗のバックヤード(倉庫や作業場など)に出入りする職場で、アルバイトとして働いています。バックヤードにはエアコンが設置されていませんが、商品の納品や売り上げ確認などをおこなうため、少なくとも毎日1時間はバックヤードで作業する必要があるそうです。
ある日、バックヤード内の室温は37度を超える状況だったため、会社に環境の改善を求めましたが、扇風機が設置されただけで、室温は一切下がらない状態が続いています。相談者は仕事中、頭痛やめまいがするそうです。
高温多湿な環境では熱中症などになりやすくなります。会社はバックヤードにエアコンを設置するなど職場環境を改善しなくてもよいのでしょうか。宍戸博幸弁護士に聞きました。
——職場環境について、法律ではどのようなルールが定められていますか。
会社は、労働者を労働に従事させるにあたって、快適な環境を整える義務を負っています。
労働契約法5条は、会社に対して、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をする義務を定めています。
また、労働安全衛生法3条は、「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」と定めています。
したがって、会社は、労働者にとって快適な職場環境を整え、労働者の安全・健康を確保しなければならないことが法律上定められています。
——快適な職場環境かどうかの具体的な基準はありますか。
前述の労働安全衛生法について詳細な内容を定めた「事務所衛生基準規則」という法令があります。
この規則では、以下の内容が定められています(4~5条)。
・部屋の気温が10度以下の場合、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない
・部屋を冷房する場合、その部屋の気温を外気温より著しく低くしてはならない
・空気調和設備(たとえばエアコン)を設けている場合、部屋の気温が17度以上28度以下(相対湿度が40パーセント以上70パーセント以下)になるように努めなければならない
さらに、旧労働省が1992年に作成した「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する方針について」という通達があります。
この通達は、快適な職場環境を整えるための目標を定めています。たとえば、「温度が作業に従事する労働者に適した状態に維持管理されるようにすること」、「適切な状態とは、作業場所について暑い、寒い、蒸し暑いといった不快を感じない状態をいう」などと定めています。
これら法令等に基づき、会社は、労働者が一般的に快適とされる温度のなかで働ける環境を整備しなければなりません。
ただし、先ほど紹介した規則や通達は、これに違反すれば直ちに違法というものではなく、あくまで環境づくりの基準にすぎないと考えてください。
——今回のケースについてはどうでしょうか。メインの職場(就業時間中もっとも長くいる場所)ではないバックヤードについては、メインの職場とは違うルールがあるのでしょうか。
バックヤード内の「37度」という室温は、一般常識に照らしてあまりに高温であり、その中で一定時間仕事をすれば、デスクワークか肉体労働かを問わず、熱中症や脱水症状等、身体に異変を来すことが容易に想像できます。
扇風機が設置されたとのことですが、扇風機は送風しかできず、室温を下げるような機能を基本的に備えていませんので、現在の状況は依然として労働者の生命・身体にかかわる危険な状態ということになります。実際、相談者に頭痛やめまいを発症しているようですので、このままでは相談者の命にかかわる事態になりかねません。
したがって、会社としては、室温をおおむね28度以下にできるような設備を導入し、稼働させる義務を負うと考えます。
万一、会社がそのような義務を怠り、従業員が病気になる、あるいは死亡するという事態が生じてしまった場合、会社はその責任を免れることはできないと思われます。
なお、今回のケースのように、バックヤードがメインの職場でなかったとしても、適用されるルールに違いはありませんし、正社員かアルバイトかという雇用形態での違いもありません。
——従業員が会社に対して環境改善を訴えるにはどのような方法が考えられますか。
訴訟を提起して環境の改善を求めることもできなくはありませんが、裁判所を通じた手続は相当に時間がかかるため、あまりお勧めできません。緊急的な手続もありますが、クリアすべきハードルが多いと予想されます。
そうはいっても、今回のケースのように、扇風機を設置しただけの会社に対し、従業員が引き続き申し入れをしても効果的な対策はとってもらえないでしょう。
そこで、弁護士に相談して、代理人として交渉を行ってもらうことが考えられます。また、労働基準監督署への相談や通報という手段も考えられます。
どのような方法を採るにしても、会社が十分な対応を行わないという証拠を揃えておくことが重要です。
室温計で室温を測って写真に撮っておく(1回だけではなく、1日数回、数日分)、バックヤードの室内風景を写真に撮っておく、病院に通ったのであれば診断書をもらっておく等、事前に証拠を用意したうえで弁護士に相談し、その後の具体的な動きを相談してみてください。
【取材協力弁護士】
宍戸 博幸(ししど・ひろゆき)弁護士
債権回収・企業法務に特化し、年間の事件処理数(事務所ベース)は2000~3000件にも上る。法科大学院の講師として教鞭をふるうほか、休日には趣味の茶道を嗜む。
事務所名:弁護士法人黒川法律事務所
事務所URL:https://kurokawa-lawoffice.com/