2021年08月16日 10:21 弁護士ドットコム
新型コロナの感染拡大による影響で、仕事を失うなどして、パパ活を始める女性たちがいます。
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パパ活とは、男性と食事やデートをし、対価として金銭をもらう活動のこと。しかし、取引には思わぬトラブルや危険も存在します。パパ活で深い傷を負った女性の悲痛な声を取材したルポライターの肥沼和之さんの記事(2021年1月31日)を再掲載します。
現在、大学4年生の香織さん(22歳・仮名)は、大学1年生の夏からパパ活を始めた。サークルの活動費や交際費などで出費が増えたためだった。一般的なアルバイトだと、給料が翌月に払われることが多い。すぐに現金が必要だった香織さんは、手っ取り早く稼げる方法をインターネットで調べるうちに、パパ活を知った。
失恋したばかりで、自暴自棄になっていたことも背中を押したという。
「出会い系サイトの掲示板で、パパ活の相手を探しました。最初から大人の関係のつもりで、希望や条件が合う人と連絡を取るようになりました」
そして40代の会社員と会うことに。最初は顔合わせとして、お茶をするだけの約束で、その分のお金ももらえる予定だった。だが、喫茶店を出た後にレンタルルームに誘われ、されるがままに性的な関係を持つことになった。
「誘われたとき、『あれ?』と思いましたが、気さくな人だったし、そういうことを求めてくるとは想像がつきませんでした。あと、もしかしたら『お手当』をもらえるかも、という期待もあって、断れませんでした」
だが終わった後、男性が「これ、交通費ね」と差し出したのは、500円だった。ちなみに、香織さんにとっては初めての性体験だった。そのときの気持ちをこう振り返る。
「悲しいというか、ただうつろな感じでした。喪失感がすごく大きかったです。同時に、自分が金銭的な価値を付けられる人間だと知って、体を仕事道具だと割り切って稼ぐしかない、と思うようにもなりました」
パパ活のために洋服やメイク、美容などに気を遣うようになった香織さんは、その費用を稼ぐためにパパ活をする、という悪循環に陥っていった。
2年弱で会ったパパは約70人、基本的には大人の関係だった。平均で2~4万円、多いときは15万円ももらえた。休日に時間をずらして3人に会い、その日だけで6万円を稼いだこともある。
「時給換算すると割がいいので、金銭感覚が狂ってくるんです。普通の時給でアルバイトをすることができなくなりました」
だが、危険とリスクはつきものだ。ある日、40代男性と会うことになった香織さん。
「可愛いから10万円あげる」と言った男性とともに、ホテルに行くことになった。しかし男性は、ホテル代を香織さんに支払わせた上、肝心の10万円は「近くのビジネスホテルに滞在していて、そこに置いてある」と言い出したのだ。
「部屋までお金を取りに来てほしい。プレゼントも用意している」と言った男性を信じ、着いて行くことに。一緒に部屋まで行こうとすると、男性は香織さんを振り切ってエレベーターに乗り、逃げてしまった。やり取りしていたサイトでもブロックされ、連絡は取れなくなった。
「パパ活って、最初にお金をもらっておかないと、ほとんどの場合払ってもらえません。でも切り出しにくいし、『信用していないのか!』と怒らせてしまったらどうしよう、みたいな気持ちもあって、なかなか言えないんです」
トラブルは金銭面だけでない。ホテルで性行為中、無断で顔を映され、動画を撮られてしまったこともある。「流出しないか、今でも怖い」という。
香織さんは、パパ活で出会った約70人の男性の内、約4割の男性と何らかのトラブルがあったと振り返る。
「お金を払わないとか、避妊をしないとか…。でも、そういう人も悪いけど、パパ活をしてる自分にも責任がある。よくないことをしておいて、人に助けてとか、話を聞いてとか言えないこともわかっています」
現在、香織さんはパパ活をやめ、新しい彼氏もいる。しかし、パパ活は気が付かないうちに、香織さん自身に大きなダメージを与えていたようだ。男性との付き合い方、性交渉に対する価値観は大きくブレたままだ。
「彼氏とホテルに行ったら、パパ活のことがフラッシュバックして、泣いてしまったんです。結局、最後までできませんでした。自分が楽しむためじゃなく、誰かに商品として求められてじゃないとできなくなってしまいました。自分にとって、性行為は自傷なのかもしれない」
また幸せで穏やかなときよりも、つらく苦しい状態があるべき自分だという感覚に陥り、その状態を自ら作ろうと、生活も乱れてしまっているという。そのように傷を抱えていることを自覚しながらも、パパ活を再開する可能性はあると、香織さんは話す。
「緊急事態宣言で、アルバイトがなくなってしまったんです。稼ぐための選択肢として知ってしまっているので、『困ったら最悪パパ活すればいいか』みたいな気持ちはあります。もう懲りたからやらない、とは言えないです」
最後に香織さんは、これからパパ活を始めようとしている女性に、こう忠告した。
「SNSには、パパ活をしている女性の『一緒に映画を観に行っただけで何十万円もらえた』とか、派手な話がバズってますよね。でも、そんなのは本当に一握りです。普通の女子大生が危険もなく、たくさん稼げることはあり得ない。変に夢を持たない方がいいです」
パパ活が道徳的に良くないことや、リスクを伴うことは、きっとすべての女性(男性)が分かっている。それでも、せざるを得ない女性はいる。
食費や家賃、子どもの養育費など、すぐに現金が必要なのに、このような状況に陥り、どうすればいいかわからない。福祉の場にたどりつくこともできず、女性がパパ活に走ってしまうケースも少なくないだろう。
そういった実情を無視し、パパ活をする女性を批判する声は少なくない。だがそもそも、パパ活が成立するのは、買う男性がいるからということを忘れてはいけない。また、女性をただ批判したり、代替案を出さずに「止めた方がいい」と言ったりするだけでなく、しかるべき相談先につなげるなど、パパ活以外の選択肢を社会として提供できているのだろうか。おそらく、否だろう。
だからこそ困窮した女性は、守ってくれる人も助けてくれる人もおらず、見ず知らずの何を考えているかわからない人と、自己責任でパパ活に挑まなければならないのだ。
では香織さんのような「手っ取り早く稼ぎたい」とパパ活を始めた、いわゆる普通の女性は、批判されてもいいのだろうか。YESという方は、家族や友人や恋人が、同じような目にあったと想像してほしい。それでも、「やる方が悪い」と突き放せるだろうか。受け止めて、傷が癒えるよう、ケアすることが必要なのではないか。
だが実際は、パパ活をした女性ばかりが非難される。SNSには「ざまあみろ」といった心無い声もある。女性側も「自分のせいだから」と思い込み、誰にも言えず苦しみを抱え込んでいる。これが、パパ活の現実だ。
ちなみに本記事では、女性側の危険にフォーカスしたが、もちろん男性側にもリスクは伴う。美人局の事例もあり、まるで、タヌキとキツネの化かし合いである。
パパ活の良し悪しを大所高所で論じるだけでなく、重要なのは、困窮している人に支援が行き届く社会づくりについて議論を交わすことや、傷ついた女性をいかにケアするかではないか。そうすることで、女性も男性も、すべての人が安心して生活できる社会につながるのでは、と思う。
【著者プロフィール】 肥沼和之。1980年東京都生まれ。ジャーナリスト、ライター。ルポルタージュを主に手掛ける。東京・新宿ゴールデン街のプチ文壇バー「月に吠える」のマスターという顔ももつ。