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「男女の『こうあるべき』をなくしたい」 ジェンダーレスTikTokクリエイター・聖秋流と考える“生きやすい世界と社会”

2021年08月14日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

聖秋流(撮影=三橋優美子)

 次世代のクリエイターを輩出し続ける、ショートムービープラットフォーム・TikTok。ここから世に出ているクリエイターは、特に“いま”の若い世代が持つ新たな価値観を体現していると感じることが多い。


 今回インタビューしたクリエイター・聖秋流(せしる)は、そんな“新たな価値観”をわかりやすく提示してくれる一人だ。ジェンダーレスな考え方・生き方をオープンに表現し、ファッションやメイクを追求する姿や、関西弁を活かしたユニークなおしゃべりで、多くのファンを獲得している。今回は、聖秋流の過去やTikTokを始めたことで生まれた変化、アンチへの対応、生きやすい世界と社会、自身がプロデュースするファッションブランド「Ceci&Ü(せしゆー)」についてなど、多くのトピックについて話してもらった。(リアルサウンド編集部)


【写真多数】自身が手がけたブランドアイテムを纏う、ジェンダーレスTikTokクリエイター・聖秋流


・本当は内気でネガティブ……自信をつけて生きやすい世界にしたかった


ーーTikTokを始める前、聖秋流さんはどんな人だったんですか?


聖秋流:もともとは人前に出ることが嫌いで、ネガティブで、内気で、ほんまに暗い性格なんです。幼稚園の頃からずっとですね。自分の顔が嫌いだったので、中学のときもずっとマスク生活でした。


ーーどういうきっかけで、今のように自分を表に出すようになったのでしょうか。


聖秋流:「生きやすいようにしたい」と思ったんですよ。なんでこんなに自分が嫌いなんだろう、内気なんだろうと考えたときに、自分に自信がないことに気がついたんです。だからまずメイクをがんばったりして自信をつけて、人前に出ることにしました。


ーー自分に自信をつける方法が数ある中で、なぜメイクを選んだのでしょう。


聖秋流:私は小学校のころから女の子と仲良くしていたので、メイクが身近なものだったんです。だからその効果がどれほどすごいものかもわかっていました。ある日、コンプレックスを直すためにメイクしてる人がいるのを見て、「まさにそれや!」と思って。自分が嫌いな部分もメイクなら改善できる、と奮起したのがきっかけです。


ーーご自身のセクシャリティを自覚したのもそのあたりですか。


聖秋流:外で遊ぶってよりかは、教室でおしゃべりしてるタイプで、もともと男の子と話すより、女の子と話してる方が楽しかったし、スカートを履くことにも昔から抵抗がなかったんですよ。だから、自覚したというより、自然とそうなっていったというか。家族や友達が、自分がそういう人間やということをすんなり受け入れてくれたのも大きいのかもしれません。


ーーそれはすごく大きいですね! 自信をつけてSNSで発信するとなったときに、まず選び取ったSNSはTikTokではなかったんですよね。


聖秋流:ずっとやっていたのはTwitterです。ただ何かを積極的に発信するわけではなくて。そのあと友だちに「TikTokやってみれば?」と言われたのがはじまりです。


ーー始める前と後で、TikTokへの印象に変化はありましたか?


聖秋流:やる前は怖かったですね。誰もが匿名でコメントできる場所ですから。でも何もしないまま自分が生きにくい世界で生きるのも嫌やなと思って。ありのままの自分を世の中に公表すれば自分も生きやすくなるし、同じ境遇の人も生きやすくなるはずなので、やってみようということで始めました。


ーー自身の発信スタイルを見つけるのに試行錯誤されたと思いますが、最初のころとの変化はありますか?


聖秋流:自分的には最初とあまり変わってないですね。昔からずっと聖秋流そのまんまだと思います。


ーー聖秋流さんの過去の動画を改めて拝見したのですが、動きやしゃべりなど、回数を追うごとに研ぎ澄まされているように思います。


聖秋流:ほんとですか? 照れるんですけど。


ーーより自信がついてきたというのが、動画越しにも感じられます。


聖秋流:嬉しい(笑)! でもそれって自分でつけたんじゃなくて、ファンの方のおかげでついたものなんですよね。だから毎回コメントをチェックするようにしているんです。


ーーSNSの世界に出ていくと、必ずしも肯定的な人ばかりではないですよね。ネットに出たことで、精神的に揺らいだ時期はありましたか?


聖秋流:あります(即答)。めちゃくちゃあります。私の場合、一つひとつの動画に対して賛否両論のコメントがあるので、そういう時期があったというより、今もその都度揺らぎますね。感情の起伏が激しいです。


 そういうことには、長く接しててもやっぱり慣れないですね。というより、慣れる人っているんですかね? そういう人って初めから気にしないタイプの人だと思うので、私みたいな人はずっと慣れない気がします。人間やから、気になりますし、落ち込みますよ。


ーーでもそんなコメントへの切り返しのうまさや鋭さは、聖秋流さんの強みでもあると思います。アンチ的な人にも、的確かつおもしろく返せる人って多くないので、自分自身も動画に励まされている部分もありますから。


聖秋流:それは嬉しいです。アンチコメントって、直接ズバッと言うものが多いじゃないですか。それって関西人の感覚からすると「しょうもない」んですよ。もうちょっとおもしろい言い方をしてくれたら、こっちもおもしろがれるのに。そんなしょうもないコメントやからこそ、おもしろく返したろうという精神が出るんですよね。


ーー同じ関西人なので、どうせイジるなら面白くイジってくれ、という感覚はよくわかります。過去の動画やコメントを見ても、“おもろくありたい”という気持ちは聖秋流さんの中で一貫してあるのかなと思いました。


聖秋流:ほんまはカワイイ系になりたかったんですが、うまくいかなかったので、しゃべるスタンスに変えたんです(笑)。


ーーでも、見た目の華やかさとしゃべりのおもしろさのギャップが、良い意味で作用していますよ。


聖秋流:個人的には自分のことをおもしろいと思ってないんですよ。これは謙遜とかじゃなくてほんとに。1人でスマホに向かってしゃべってるときにおもしろさを出すのって難しいんです。


ーーそれでは少し俯瞰した目線で撮影してるから?


聖秋流:そう。普段あった出来事を普通にしゃべってるだけなんで。見てるひとが面白いって感じてくれるのは、関西弁やから、というのも大きいと思うんです。あと、関西人ってオチを先に決めてしゃべり出すことが多いのかな、とは思います。この話を最後にもってこようって決めて、頭の中で順番を決めながら話すというか。


ーー頭の中でパパッと流れを組み立てる構成力があるんでしょうね。関西弁って声に抑揚がつくから、シンプルな話題でも多少面白く聞こえがちなマジックはかかると思いますが、とはいえ聖秋流さんのように、短い尺の中でおもしろいトークができる人はそんなに多くないですよ。


聖秋流:うれしい、ありがとうございます。


ーー聖秋流さんのおしゃべりのルーツはどんなものなのでしょうか。好きな人や、影響を受けている人はいますか?


聖秋流:とにかく家族でしゃべるのが好きなんですよ。身内でいるときだけおしゃべりで。内気な人ってそういう人が多い気がします。3人兄姉なので、ずっと友達感覚でしゃべってます。


ーー家の中でお互いをいじり合うみたいな雰囲気だったんですかね。


聖秋流:そうです、家族への“笑わしたろ精神”みたいなのはありますね。


ーーそのほかに、影響を受けたものはありますか?


聖秋流:ちっちゃいころからバラエティ番組や漫才を見るのが好きだったんですよね。それこそ土日の昼間にずっと長い時間やってる漫才番組とか。家の中では、自分はどちらかというとボケよりツッコミで、イジったり回したりすることが多いです(笑)。


・ジェンダーの枠にとらわれず、誰もが楽しめるファッションを


ーートークやメイクのほかに、ファッションも聖秋流さんの個性の1つですよね。系統やジャンルの移り変わりについて教えてください。


聖秋流:昔はめっちゃキレイめ系やったんですけど、最近はカジュアルも着てます。私の中で、お姉ちゃんがおしゃれのお手本なんですよ。小さい頃からお姉ちゃん子で、服を貸してもらったりとかもしていたんです。いま思えば、そのときからジェンダーレスだったんでしょうね。いまだともう一般的ですけど、昔は男の人がオーバーオールを着ることってあまりなかったじゃないですか。でも私は着てたので、ちょっと時代を先取ってたのかも(笑)。


ーー近年は、より男女のファッションの境界もなくなってきているようにも感じます。ご自身のファッションに影響を与えたブランドはありますか。


聖秋流:ブランドとかは特に意識してなくて、昔はしまむらやアベイルとかで、プチプライスなおしゃれを楽しんでました。そのときからレディースもメンズも見てましたね。


ーー参考にしていたモデルさんなどはいますか?


聖秋流:特にいないですね。時代の流れ的に、これとこれを合わせて着てみようと、わりと我流で磨いていったところはあるかもしれないです。


ーーレディースとメンズ、両方の服を見つつ、時代のトレンドなども見ながら決めていたんですね。自身のブランド「Ceci&Ü」にも、その理念は影響しているんですか?


聖秋流:そうですね。お洋服屋さんで、男性と女性のどちらも楽しめるお店って少ないと思うんですよ。カップルでショッピングするにしてもどっちかが退屈しちゃったり。だからこそ、色んなジェンダーの人が楽しめるブランドが作りたいと思って。それが立ち上げにあたっての理念です。


ーー自分のやってきたことを、そのままブランドに反映させているんですね。さまざまなジェンダーの方への新たな選択肢となりますし、時代的にもジャストなタイミングですね。


聖秋流:やっと夢が叶ったって感じですね。


ーーやっと、ということは、昔からブランドを立ち上げたい気持ちはあったんですか?


聖秋流:ありました。毎日を「楽しくないな」と思いながら過ごしていたなかで、高校を卒業してすぐアパレル店員として働いて、生地だったり、コーディネートだったりを学んで、自分のブランドを出すことが目標になってから、人生を頑張ろうと思っていたので。


ーー感覚だけでなく、知識や理論を身につける強みはありますよね。


聖秋流:そうですね。存分にこだわりをもって作っていて、メーカーさんとの打ち合わせでもそれを発揮してます。


ーーatmos pink x FR2 x 目覚めの一瞬前のコラボ商品のルックモデルを務めるなど、やりたいことや、やれることの幅も広がってきているのではないでしょうか?


聖秋流:そうですね、刺激をもらえています。夢だったことが現実になってるんで、いろんな人に感謝ですね。


ーー今やっていること以外で、新たに挑戦したいことはありますか?


聖秋流:とにかくメディアに出たいです。より多くの人に私を知ってもらうために、いろんなところでマルチに活躍したいです。いま受けているインタビューもそうですし、テレビなどに出てみたい気持ちもあります。


ーー出てみたい番組はありますか?


聖秋流:「ウチのガヤがすみません!」や「しゃべくり007」、「今夜くらべてみました」とか「ヒルナンデス!」とか、たくさんあります。あとはお笑いが好きなので、芸人さんとお仕事がしたいですね。


ーー特徴が強い方だと、芸人さんと絡むことで個性が喧嘩するタイプもいると思いますが、聖秋流さんは芸人さんとの相性が良さそうですよね。


聖秋流:ほんとですか? それもっといろんなところで言ってください(笑)。


ーー活躍の場が広がっていくにつれて、クリエイターさん同士の横のつながりも増えてきたのではないでしょうか? いろんな方とつながって、精神的に楽になったりはしましたか?


聖秋流:クリエイター同士って悩んでることが似ていたりするので、話すことで解決することも多いんですよ。前に比べて気持ちが楽になりましたね。


・発信することで、“こうあるべき”の固定観念をなくしたい


ーーここ1、2年でジェンダーに対する価値観が、メディアや周囲の人たち、ステレオタイプな人たちの間でも、徐々にではあるのものの、いい方向に変わってきているように思います。聖秋流さんはどう感じていますか?


聖秋流:前に比べれば理解されてきているものの、まだ不服なところもいっぱいあります。もうちょっと理解してくれる人が増えるといいなと思います。


ーー不服というのは、具体的にどんなところですか?


聖秋流:まだ国としては同性婚が認められてないし、あたしの動画でよく「女子トイレと男子トイレどっち入ってるの?」っていうコメントをもらうんですが、これって男女の区別をつけないとあかん、っていう雰囲気が日本にあるのを象徴していますよね。


ーー価値観は変わってきていても、ルールやシステムが変わっていないと感じられているんですね。


聖秋流:書類を記入するときも、「男性・女性」って項目が未だにありますしね。


ーー聖秋流さんが、発信することで変えていきたいと思うことはありますか?


聖秋流:深い質問ですね。“男子はこうあるべき、女子はこうあるべき”っていう固定観念をなくしたいです。髪の毛を伸ばす、伸ばさないとか、スカートを履く、履かないとか、そういう部分は、自分が発信していけば変えられるんじゃないかなと思っています。メディアに出たいと言っているのも、まさにそういう固定観念について「そう思い込まなくてもいいんだ!」と気づいて欲しいからなので。


ーーメディアに出て自分らしさを堂々と出している聖秋流さんをみて、“自分をこんな風に表現していいんだ”と勇気づけられる人が増えてくるのは、そう遠くない未来だと思っています。


聖秋流:がんばります!
(取材=中村拓海、構成=堀口佐知)