入社してみたら「約束と違った」「募集広告と全然違う」……。残念ながら、こんな話は後を絶たない。どうすれば防げるのだろうか。キャリコネニュース編集部では、企業の不誠実な「ウソ求人」に悩まされたことのある千葉県の30代男性にインタビューし、経験を語ってもらった。
求人雑誌で見つけた「実演販売」の仕事
――どんな経緯で「ウソ求人」にたどり着いたのですか?
数年前、求人雑誌に載っていた電気治療器の実演販売に応募しました。求人では正社員で25万。休みも自由に取れると書いてありました。雑居ビルの一室で面接を受けました。「応募して来たのは君で80人目だよ」とか、分かりやすいウソを言われましたが、無事内定をもらえました。
仕事内容は、スーパーとかデパートの催事場を1カ月~2カ月単位で借りて、お年寄りを集めて電気治療器を販売することでした。現場にいる関係者は、自分ひとりだけです。期間中は休み無し。40連勤して8日休みのようなサイクルで回していました。
さらに、正社員採用のはずが、入ってみたら「研修扱い」。一定の販売ノルマをクリアしないと正社員にはなれないという説明を「後出し」でされました。初めての現場が終わると、募集に出ていた給与より低い手取り18万前後を手渡しされ、「じゃ4日後から別の現場で」と言われました。
――労働契約を結ぶ前、内定時などに、研修期間などの説明はなかったのですか?
内定時には、○月○日から来て下さいと電話があっただけです。電話口で説明はありませんでした。結局、最後まで雇用契約書的なものも無かったです。
初出社の日、おそらく同時期に採用された私含め数名が集められ、そこで初めて「正社員へのステップ」について聞かされました。当時は矛盾に気づかず、「まぁ試用期間なら一般的だし、とりあえずやってみよう」でスタートしました。
――「休みは自由に取れる」も、ウソだったのでしょうか?
表向きは「現場に出ている期間中、自由に休みを決めていいですよ」と言われます。しかし実際には休めません。期間中に仕事を休んで来場者が減ると「全責任おまえやろ」と詰められるからです。来場者数を毎晩会社に連絡する決まりで、催事場を借りている期間中に休む人は、周囲にはほぼ皆無でした。
――それで、40連勤になってしまうのですね。
同期の人たちは、やる気に満ち溢れていて異常やなって思っていました。職場の人間関係はそこまで悪くなかったものの、そもそも聞いていた募集内容と違うし、40連勤なんて頭がおかしくなりそうでした。
しかも、自分が担当する店で人が集まらなければ、もちろんすべて自分のせい。売上げ悪ければすべて自分のせい。期間が終わって会社に行けば、売上げが悪かった人は吊し上げられお説教をされます。
デパートは暇つぶしで来る人も多いのですが、スーパーやドラッグストアは買い物に集中したい人が多く、基本的に無視されるので苦戦しました。スーパーを割り当てられて初入店したときは、死んだ魚の目になっていたと思います。うまくいきそうもない中で、50日間近く休まず呼び込みをやるのかと。
それに遠隔地に派遣されることもありました。最後の現場は、自宅から遠すぎて通勤できなかったので、会社で借りたレオパレスで約50日間暮らしました。
――遠方勤務があることも、聞いていたのですか?
一切何も聞かされていませんでしたね。そもそもどこの現場に行かされるのかも、寸前までわかりません。出社すると上司から次行く店のGoogle Mapの印刷を渡され、機材一式を車に積んで出発する感じです。会社の基準ギリギリで宿をとってもらえず、片道二時間半の場所に40連勤したときには、頭がおかしくなりそうでした。
最後の現場になると、すっかりやる気も削がれていて、売上は低迷。2カ月弱ぶりに自宅に戻った時にふと冷静になり、俺は何をしたいんだろうかと思い退社しました。
初めての現場で、ノルマクリアあと一歩まで行ったのですが、そこから右肩下がり。ノルマクリアはならず、結局正社員にはなれませんでした。むしろ正社員にならなくて正解だったと思います。その会社は後々倒産していましたから。
――辞めて正解でしたか?
そうですね。辞めてから職を転々としましたが、結果的に今の仕事や収入に満足しています。実は、あの仕事で、よかったことが一つだけありました。
辞める前の最後の現場で、今の奥さんと出会えたことです。奥さんは、私が働いていた催事場の向かいにあるミスドでアルバイトをしていて、気になったので樣子を見に来たそうです。話をして、当時私が住んでいた自宅近くの大学に通っていることが判明。「ここの現場が終わったら、いちど遊ぼうよ」って話の流れになったのがきっかけでした。結婚して、出会ったデパートの近くに引っ越したので、この店には今でも行っています(笑)
本来なら「労働条件通知書」を渡されるはず。
男性が「最後まで、雇用契約書のようなものはなかった」と語るように、雇用契約をするときは「口約束だけ」で契約書が作成されないケースはよくある。
しかし本来、契約書を作らないケースでも「労働条件通知書」はもらえることになっている。厚労省のサイト(https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_4.html)にも説明があるが、そこには労働契約の期間や、就業の場所、従業すべき業務、始業・就業の時間や休憩・休日、賃金の決定方法や支払い方法、退職に関することなどが明示されていなくてはならないルールとなっている。
もし、働き始めるときに何も書類をもらえないなら、それは黄色信号。「話が違う」となる前に、納得いくまで条件を聞き、それを書面にしてもらったほうが良いだろう。