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『魔入りました!入間くん』がノベライズ 西修×針とら特別対談「原作のテンポを保ちながら、小説ならではの表現を」

2021年08月12日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

針とら(左) 西修(右)

 『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載中の西修原作『魔入りました!入間くん』(以下、『入間くん』)の小説版第1巻が、ポプラ社が今年3月に創刊した新しい児童文庫レーベル・キミノベルから発売された。その「キミノベル」による、子どもたちにより読書を身近に感じてもらうため「人気コミックをノベライズする」という新企画として、現在漫画連載のほかTVアニメ第2シリーズ(NHK Eテレ)も放送中の人気作『入間くん』に白羽の矢が立った格好だ。


 『入間くん』は魔界を舞台に主人公の鈴木入間が学園生活を送るファンタジーコメディ。漫画というビジュアルを活かした軽快なアクションが原作の魅力のひとつであるが、小説ではどのようにその“軽快さ”が描かれているのだろうか。主に小学生にも人気の同作を児童文庫としてノベライズすることの意味もあわせて、原作の西修と小説版の執筆を担当した作家の針とらに話を聞いた。


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■原作のテンポを保ちながら、小説版ならではの表現を


――西さんは『入間くん』のノベライズという提案を受けたときは、どんなお気持ちでしたか?


西修:純粋に嬉しかったですよ。漫画、アニメとまた違った形で描かれることによって、これまで『入間くん』を知らなかった新しい層にまで作品が届くんじゃないかなという期待もありますし、何より魔力や召喚を文章でどう表現するのかを読ませていただくのも楽しみでした。


――ノベライズにあたり要望はありましたか?


西修:私自身、描いた漫画が小説になるのは初めての経験でしたし、最初は何が正解か分からなかったんですけど、針とらさんには「原作の空気感を残しつつ、もともとのファンの方も楽しめる内容にしていただけたら」とお伝えしていました。


 実際に原稿があがってきたとき、チェックをしつつも、気づけば普通に楽しく読んでいる自分がいて(笑)。1巻のストーリーを描いていたのが4年ほど前だったこともあり、懐かしくも感じました。それに、私自身が原作を描く際に意識している『入間くん』らしい空気感が文章にもしっかり出ていたので、原作のファンの方にも改めて楽しんでいただけるノベライズになっていると思います。


――人気漫画が原作ということで、小説版を執筆された針さんはプレッシャーもあったかもしれませんが、これまでオリジナルで執筆されてきた児童文学と違いはありましたか?


針とら:もちろん原作に対する意識はありましたが、僕自身これまでもわりとコミカルな小説を書いてきたので、執筆自体はいつものノリで楽しく書かせていただきました。


 特別に気を付けたのはテンポ感ですかね。『入間くん』といえば、個性の強いキャラクター同士のやり取りのテンポの良さが醍醐味なので。ノベライズのメリットとして、漫画では描ききれなかった登場人物の心情を深く掘り下げやすい点が挙げられますが、逆にそれを文章にすると『入間くん』らしいテンポ感が崩れてしまう。だからこそ、あまり堅苦しくなりすぎないようスピード感を持たせるようにしました。


西修:その意識は、私も読ませていただいて感じましたね。原作は週刊連載なので、毎週決められたページのなかにできる限りの情報を詰め込んでいるんですよ。そのため、1話1話の展開がスピーディな印象があると思います。そのテンポ感のまま小説ならではの肉付けまでしてくださっていたので、すごくありがたかったです。


針とら:既に魅力的なキャラクターがたくさんいて、面白いストーリーがあるうえでの執筆だったので、基本的には、小説にすることで原作の良さを失わないようにすることをマストに考えていました。あわよくば、小説らしい表現も加えられたらいいかなくらいの感覚でしたね。


――小説で漫画のテンポ感を保つのは、難しそうですね。


針とら:そうですね。例えば、漫画には決めゴマがありますよね。見開きに大きく描くことで、作中の見所を読者に印象付けられる漫画ならではの表現技法です。これを文章で再現するのは、やはり難しくて。長々と説明するとスピード感が落ちてしまいますし、かと言ってさらっと書くだけだと印象に残らない。どこまで情報を入れるかの塩梅は、シーンごとに考えながら書きましたね。どうしても文章だけだと伝わりきらない部分は、挿絵に頼らせていただきました(笑)。


――読ませていただいて、“ここだ!”という、最高のタイミングで挿絵が入っていると感じました。


針とら:ノベライズなので、最初は文章だけで表現できるよう試行錯誤をしていたのですが、初稿をお渡ししたあと「この辺に補足で挿絵があるとよりいいだろうなぁ」と思っていた全部の箇所に挿絵があったので助かりました。魔界という舞台の特性上、絵の方が伝わりやすい情報もあるので、挿絵と一緒に読んでいただけるよう文章を整えていきました。


――挿絵があると小学生でも抵抗なく読み進められそうですよね。他に読者層に合わせた部分はありますか?


針とら:小学生の読者を意識して、漢字をなるべくひらがなにして書くことも心がけました。きっと『入間くん』が好きな小学生のなかには、あまり読書に慣れていない子もいると思いますし、本を開いたときに漢字が多くて文面が真っ黒だと、圧迫感があって読むのがしんどくなってしまうはず。読みやすい印象を持ってもらうためにひらがなを使うこと、それからページ内の空間を増やすことで、読書慣れしていない小学生の抵抗を薄められるようにも工夫しました。


――もしかすると、小説版から漫画やアニメに興味を持つ子もいるかもしれないですよね。


針とら:僕が想定している読者像は、友達からおすすめされてタイトルは知っているけど、漫画だと親が買ってくれないという小学生。むしろ漫画やアニメのノベライズは、そういう子たちが作品に触れる入り口になるためにあるものだと思っています。


――なるほど。小説だと学校の本棚にも置かれる可能性がありますしね。


針とら:そうですね。朝読の時間なんかにも読んでもらいたいですね(笑)。


――西さんは、どのような部分でノベライズの魅力を感じましたか?


西修:やはり小説でしかできない表現は新鮮で面白かったです。あとは、ノベライズだけの追加シーンもあるので、原作のファンの方にも小説版として楽しんでもらえると思っています。


■個性的なキャラクターたちはノベライズでどうなる?


――『入間くん』は、個性の強いキャラクターがたくさん登場します。それぞれのキャラ付けもまた難しそうですね。


針とら:まだ1巻なので、登場キャラクターも少ないですし何とか大丈夫でした。ただ2巻以降になるとどんどんクラスメイトが出てくるので、これからが大変なのかもしれないです(笑)。特に身構えているのは、昇級試験のドッジボールのシーン。登場キャラが多いので描き分けが難しそうですし、ドッジボールのスピード感も落としたくないので大変そうだなぁ……。1巻では、強いて言えば、入間くんが何を考えているのか掴みきれないところが難しかったですね。


西修:特に1巻の入間は自我がなく、ただただ周りに翻弄される主人公でしたからね。……申し訳ないです(笑)。


――西さんは初稿が上がってきたときに指摘した箇所はありましたか?


西修:入間のセリフの言い回しをいくつか赤入れさせてもらいましたよね。魔界という何でもありの世界が舞台だからこそ、あえて読者の方も分かりやすい言い回しで入間のツッコミを書いてくださっていたところを、純真無垢な入間はちょっとズレたツッコミをするキャラクターなので、「こっちの言い回しの方が入間っぽくなると思います……!よ」と提案させてもらいました。


――なるほど。難しいバランスですね。


針とら:そうなんです。入間くんのキャラクターは、正直まだ見え切っていない部分がありますね。というのも恐らく入間くんは、いろんなキャラクターに囲まれるなかで新しい一面が見えてくる主人公だと思うんですよね。だからきっと、今後原作の方でも、もっと多面的な魅力が出てくると予想しています。


西修:ふふふ。そうかもしれないですね。ひとりだと「お腹空いたな~」くらいのことしか考えない主人公ですからね(笑)。


――セリフ以外の部分はいかがですか?


西修:他だとカルエゴの召喚シーンなんかは、描写を増やしていただくようお願いしましたね。もっとコミカルな感じに描いてほしかったというか、最初は怖めな文章でフリを入れてもらって、召喚されたと思ったら間抜けに登場するというオチをつけてもらいたくて。私も原作を書いていたときにフリオチを意識した場面だったので、小説版でも再現していただきたいなと。


――そのような赤入れを針さんはどのように捉えられましたか?


針とら:どの赤も「なるほど」という感じでしたよ。特にキャラクターの描写でいうと、よその家の子を預かっているような感覚でしたから。もちろん原作は読ませていただきましたが、赤をいただくことで、細かいキャラ付けやキャラクター同士の関係性など、西さんが普段、どこを意識して原作を描かれているのかを知っていった実感があります。


 それに、カルエゴの召喚シーンもそうですが、多くの小学生が『入間くん』に引き込まれるのはちょうどいいタイミングでコミカルな描写が出てくるところだと思うんです。それが『入間くん』らしさであり、西さんの絶妙なバランス感覚という印象を改めて受けたましたね。


――そのバランス感覚は、執筆前から感じていたということですか?


針とら:そうですね。主にコメディ調の作品ではありますが、例えば3話でクララの切ない人間関係を描いたエピソードがあるじゃないですか。その切なさに感情移入したところで、すぐまたコミカルな『入間くん』らしい空気感が戻ってくる。この展開の仕方は西さんなりのこだわりだと感じていましたし、小説版を執筆するとなった時にもしっかり描きたかった『入間くん』の魅力でしたね。


西修:嬉しいです。まさにおっしゃる通りで、3話は『入間くん』という作品に幅を持たせるために描いたエピソードだったんです。それをちゃんとキャッチしたうえで小説版を執筆してくださったと思うと、本当にありがたいですね。


針とら:僕としては、やはり西さんの赤入れがあったおかげで、より原作の空気感を忠実に再現できたと思っています。今後も遠慮なく、ジャンジャン赤入れお願いします(笑)。


――これから2巻、3巻と続いていくわけですが、今後の意気込みはありますか?


針とら:原作の1~2巻では、入間くんが徐々に学園生活に馴染んでいく様子が描かれています。そこから次第にやりたいことに向かっていく場面で、きっと読者の小学生の子たちは、自分のやりたいことが周りから認められる嬉しさ、何かを達成する気持ちよさを知っていくんだろうなぁと思ったので、この感触を小説版でもしっかり描けるよう意識したいですね。


西修:私からすると、漫画だと伝えられることに限界があるというか、今回小説版を読ませていただいて、やはり小説でしかできない表現があると実感したので、漫画で描ききれなかった部分を小説版で拾っていただけると嬉しいです。


――そういう意味では、小説版が進んでいくに連れて相互作用して、漫画原作の方にも影響が出るかもしれないですね。


針とら:逆に、もっと先で西さんが回収するはずだったところを先に拾ってしまう危険もありそう(笑)。


西修:その辺りはぜひチェックさせていただいて(笑)漫画と小説と、互いに刺激しあって、さらに面白い作品になっていくと良いですね。


――では最後に、読者の方にメッセージをお願いします。


針とら:小説版ではじめて『入間くん』に触れるという方でも楽しめるよう書いていますので、あまり『入間くん』に詳しくない方でも手にとっていただけたらと思います。漫画ではなく小説なので、学校にもぜひ持って行ってください(笑)。


西修:教育にいい場面もあると思いますし、漫画と同じようにドキドキワクワクできるシーンがたくさんあるので、多くの方に読んでもらえると嬉しいです。