2021年08月09日 08:21 弁護士ドットコム
気軽に移動できる乗り物、電動キックボードの事故が相次いでいる。大阪ではひき逃げ事故が起こり、被害者が首の骨を折る重傷を負った。無免許や飲酒した状態でキックボードに乗り、警察に摘発されたケースも起きている。電動キックボードの事故が多発する背景や、もし事故を起こした場合はどんな罪に問われるのかなどを交通事故問題に詳しい和氣良浩弁護士に聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
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まずは、ここ数カ月で電動キックボードのどんな事故が起きているのか報道などからまとめたい。5月には大阪・ミナミの歩道でひき逃げ事故が起きた。電動キックボードに女性を乗せた男性が、歩行中の48歳の女性をはねて逃走、転倒した女性は首の骨を折る重傷を負った。6月には同じく大阪で電動キックボードを飲酒・無免許で運転したとして、男性が逮捕、書類送検された。
そもそも電動キックボードは、日本の法律でどんな乗り物に分類されるのだろう。電動キックボードは、「原付バイク」と同じ扱いで、原動機付き自転車に分類される。当然、原付や普通自動車の運転免許が必要だ。原付バイクと同じで、ヘルメットを装着して、車道を走らなければならないし、ナンバープレートをつけ、バックミラーや速度計を付けることも求められる。
しかし、歩道で事故が起きるなどそもそものルールを分かっていない人が多いように感じる。和氣弁護士に疑問をぶつけてみた。
――事故が増えている背景は何だと考えますか。
「電動キックボードは『原動機付き自転車』だというルールを理解していない人が多いからです。また電動キックボードに乗る人に対して、警察が講習を行ったり、ルール違反する人に対して、本気で取り締まったりしようという姿勢が感じられません。
警察が取り締まりを強化する時は、警察組織のトップである警察庁が大号令をかけることが一般的です。『飲酒運転撲滅キャンペーン』や『春の交通安全運動』のようなイメージですね。もちろんこれだけ事故が相次いでいるので、警察も問題視はしているはず。実際、大阪府警は取り締まりを強化しています。トップダウンで『電動キックボード取り締まり強化月間』など一大キャンペーンを展開するべきです」
――5月に大阪で起きたひき逃げ事故では、容疑者が自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)、道路交通法違反(ひき逃げ)で逮捕、略式起訴されました。朝日新聞の報道によると、大阪簡裁が罰金50万円の略式命令を出しています。
「歩道という歩行者が守られるべき場所で事故が発生したということ、悪質なひき逃げという事案から、本来なら起訴されてもおかしくないケースだと思います。ただ、罰金刑の中で50万円は重いほうなので、相当な議論がされたと推察できます。
また、事故が発生してから、警察、検察もあまり時間をおかずに略式起訴しています。これは当局としても世間の注目度が高いうちに、注意喚起したいという意味から早く起訴したのだと思います」
――電動キックボードで事故を起こした場合、どんな罪に問われるのでしょうか。
「交通事故を起こし、どんな罪に問われるかは、違反の程度と起きた結果の程度の掛け算になります。例えば電動キックボードに乗って、赤信号を無視して交差点に入り、子どもをはねて重症を負わせた場合、ほぼ間違いなく過失運転致傷罪で起訴されます。電動キックボードだから自動車よりも罪が軽くなるということはありません。
交通事故の刑事裁判では、2人以上が亡くなる事故を起こすと実刑になるケースが多い。しかし、私はもっと被害が少ない事故でも、半年でも懲役を科すべきだと思っています」
――「次世代モビリティ」の普及を目的に電動キックボードの規制緩和が進んでいます。警察庁の有識者検討会では時速15キロ以下で走行すれば、免許不要、ヘルメットなしという案も出ています。いくつかの自治体で実証実験も進んでいます。違法走行や事故が起きている中で規制緩和に突き進んでいいのでしょうか。
「移動手段が増えると、便利になります。でも当然ながら乗り物の数や種類が増えるほど、事故のリスクは大きくなりますよね。実証実験で定められている電動キックボードの最高速度は時速15キロで、自転車の速度とそう変わりませんが、電動キックボードの存在や交通ルールなどが全く周知されていませんし、自転車よりも小回りが効いて歩行者との接触可能性が高いことから、事故は確実に増加すると思います。
規制緩和で便利な世の中を作っていくことも大事ですが、安心安全な社会を形成していくことはそれよりももっと重要なはずです。バランスが悪そうなので、私は乗ろうとは思いませんが…。
保安基準を満たさない電動キックボードを販売する事業者もいると聞いています。強く取り締まらなければなりません。
さらに、私が大きな問題だと思うことが保険制度です。日本ではあまり論じられていませんが、加害者が任意保険に加入していなくて賠償能力がない場合、被害者が泣き寝入りするケースが非常に多いのです」
――公道を走る全ての自動車やバイクは自賠責保険の加入が義務付けられています。
「ですが任意保険への加入も強く推進していくべきです。例えば、むち打ちで後遺障害14級の認定を受けた場合、だいたい損害額は400万円程度にのぼりますが、自賠責保険で支払われるのは約200万円弱程度にしか過ぎません。残る200万円の損害は、加害者が任意保険に加入しておらず、かつに賠償能力がない場合は、被害者は泣き寝入りするしかありません。
損害保険料率算出機構の調査によると、二輪車の任意保険加入率は42%です。原動機付き自転車に限ると3割に下がります。電動キックボードの加入率はもっと低いのではないでしょうか。
大阪のひき逃げ事故を起こした加害者が保険に入っていたのかは報道では分かりませんが、乗る側の責任として保険加入を意識してほしいです。今は、保険会社が電動キックボードなど次世代モビリティ向けの保険も販売するなど、選択肢が増えています。
まとめると、利用者が電動キックボードに関する法律や走行ルールについて正しい知識を持ち、安全な運転をすることが大前提です。そのためには警察が電動キックボードを乗る人を対象にした講習を繰り返し行うことが求められます」
【取材協力弁護士】
和氣 良浩(わけ・よしひろ)弁護士
平成18年弁護士登録 大阪弁護士会所属 近畿地区を中心に、交通・労災事故などの損害賠償請求事案を被害者側代理人として数多く取り扱う。
事務所名:弁護士法人ブライト
事務所URL:https://law-bright.com/