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「ちびまる子ちゃん」新旧ナレーター対談! 交代劇の舞台裏、ベテランふたりが語る“ナレーション”の極意とは?

2021年08月08日 13:01  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「ちびまる子ちゃん」新旧ナレーター対談! 交代劇の舞台裏、ベテランふたりが語る“ナレーション”の極意とは?(C)さくらプロダクション/日本アニメーション
国民的アニメ『ちびまる子ちゃん』 (フジテレビ系列にて毎週日曜18時から放送中)のナレーションを1990年の放送開始以来、31年間務めてきたキートン山田さんが、2021年3月28日の放送回で引退。その後任に、『めちゃ×2イケてるッ!(めちゃイケ)』や『電波少年』シリーズなど数々のバラエティ番組でナレーションを担当してきたきむらきょうやさんが選ばれました。

今回、そんなキートンさんときむらさんの“新旧ナレーター対談”が実現。『ちびまる子ちゃん』のナレーションスタイルから、演技論、さらには声の持つ力まで、大物ナレーター同志で熱く語り合っていただきました。
[取材・文=杉本穂高、撮影=Fujita Ayumi]

引退しても「ちびまる子ちゃん」がなかなか抜けない

キートン:(会うのは)これが二度目ですよね。たしか最初にお会いしたのは、羽佐間道夫さんと我々の3人がゲストで、夏休みのナレーター特集か何かの企画でした。

きむら:そうですね。もう15年くらい前のフジテレビの『ライオンのごきげんよう』という番組でご一緒させていただきました。あの時は大先輩おふたりを前に緊張しまくりでしたが、楽しくお話させていだきました。


あの時はお伝えできませんでしたが、私は子どもの頃から『一休さん』の将軍様や『ゲッターロボ』の神隼人などでキートンさんのお声はずっと聞いていたんです。
キートンさんはナレーターの先駆者としていろいろな型を示して頂きましたから、少しでもキートンさんに近づこうと勉強し続けてきました。それこそ『めちゃイケ』などでパクらせていただいたこともあります(笑)。

ですので、まさか、自分のところに『ちびまる子ちゃん』の仕事が来るとは思ってもいませんでした。


キートン:きむら君のことを子どもたちに話したら、「『めちゃイケ』のあの人だ」ってすぐわかりましたよ。きむら君の声は誰の耳にも、もうお馴染みなんですね。こういう格好いいしゃべり方は僕にはできないから羨ましいです。

きむら:恐縮です。ところで、キートンさんは今、自然の中に暮らされて、農作業をやっていらっしゃると聞きました。

キートン:伊豆半島です。東京に比べたら田舎ですね。自分の育ちが田舎なもので落ち着くんです。今年は引退して時間がたっぷりあるから例年以上に農作業に時間を費やしています。もう15年くらい続けているんですが、最初は岩だらけで畑になるような土地じゃなかったので、土を作るところからやりました。


きむら:すごい。開墾からですか。さすが北海道の方ですね(笑)

キートン:八百屋に並んでいるような野菜はだいたい作っていますよ。でも、作業を終えると、『ちびまる子ちゃん』のことが頭に入り込んできます。なかなか抜けないものですね。

まる子たちへのツッコミに遠慮はいらない


――きむらさんは『ちびまる子ちゃん』のナレーターを引き継いでおよそ3か月ですが、慣れてきた実感はありますか。

きむら:まだまだです。音響監督の本田保則さんに熱血指導されながら、毎週楽しくやらせていただいております。
例えば、「翌日」という一言もいろいろあるらしくて「うーん、違うんだな」と言われるんですが、その前の芝居があって、それを受けての「翌日」なので、こういう時は高めのテンションでとか、アニメはすごくいろいろなことを考えて作られているんだなあとびっくりしています。


キートン:僕は『ちびまる子ちゃん』が始まる前から本田さんを知っていますけど、まあ、細かいというか、厳しいというか、熱心というか(笑)。でもね、それで31年も保たれているんです。
あと、『ちびまる子ちゃん』のような、ああいうツッコミ型のナレーションは前例がなかったから、やったもん勝ちという面があったので自分のさじ加減でやっていました。

例えば、まる子と友蔵じいさんが馬鹿なことやった時は、「もう勝手にしろ」という気持ちでブン投げるように「翌日」と言ってみたり、その時の流れと自分の気持ちで変えていました。
あのスタイルはそうやってゼロから作り上げたもので、本田さんもそれがイメージにあるだろうから、きむらさんには大変だと思います。


――キートンさんは引退されてからも、毎週『ちびまる子ちゃん』をご覧になっているそうですね。

キートン:毎週観ていますよ。

きむら:いやー、観ないでください(笑)。ナレーションの箇所は飛ばしてください!


キートン:まだ他の役者さんと一緒にアフレコできてないですよね。最初からその状態では誰がやっても大変ですよ。僕も長いこと一緒に演じることで馴染んでいったんです。
他の人の声は聞きながらやっているんですか。

きむら:はい、録ってある部分は聞かせていただいています。

キートン:なるほど。でも、あの雰囲気はね、録音された声ではなかなか伝わってこないと思います。これから一緒にアフレコできるようになれば、もっと雰囲気が出てくるはずです。

きむら:そうですね。何しろ31年続いている一座に新人として入らせていただいておりますので……。

キートン:それは誰であっても穏やかじゃいられないですよね。
これはひとりでは作り上げられないものです。僕の場合は、周りの芝居にあえて左右されながら、ナレーターという役になったつもりでやっていました。
最初、ナレーターは「天の声」と言われていたんですけど、天は遠すぎると思ったので天井裏くらいの高さから家族をいつも見守っているつもりでツッコむようにしました。


あの人たちには遠慮せずにツッコんだ方がいいです。まる子は打たれ強いし、くじけませんから。最初は嫌でしたけどね、そんな嫌なおじさんにならないといけないのって(笑)。
さくらももこさんが実際に脚本を書いている時はもっと鋭いツッコミだから、「こんなこと言って平気なの?」って何度も相談しましたけど、さくらさんはキートンさんが言うなら大丈夫と言われるので、思い切りやるようにしました。


きむら:他の出演者の方も遠慮せずにもっとガンガン言っていいとおっしゃってくださるんですが、今のお話をキートンさんからも聞けて嬉しいです。

キートン:みんな揃ってアフレコできるようになったら、こっそり遊びに行きます。その時だけ僕が「後半へつづく」って言いますから(笑)。

きむら:それはぜひ! 少しずつですが、今日はブー太郎とだけ一緒にやってみようとか、少しずつ練習させてもらっています。

キートン:その積み重ねが全てです。そうやって徐々に熟していけばいいんです。だから、楽しんでやった方がいいですよ、しょせん娯楽なんですから。



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『ちびまる子ちゃん』と他のナレーション収録の違い

――きむらさんにとって『ちびまる子ちゃん』の収録現場は他の現場とどう違いますか。

きむら:全く違いますね。いつものナレーションの現場は、原稿の下読みもせず、「はい回してください」で録ります。なぜかと言うと、二度目になると新鮮な感情がなくなってしまうから。例えば、「このマッチ箱はなんと5000万円!」みたいなのは最初に出会った驚きがそのまま入っていたほうがいいんです。

一方、アニメのアフレコでは、画面の中のキャラクターに向けて言わないとOKが出ません。声の方向性にも物理的な力があるんですよね。私はそこをあまり意識せず、ずっとスタジオで原稿を読んできた人間なので、非常に新鮮な体験でした。


――キートンさんは劇団出身で、あくまで役者という立ち位置からナレーションもされてきたと思います。出自の異なるきむらさんとしては、そういった方のスタイルを引き継ぐのはやはり大変でしょうか。

きむら:『まる子』の収録の前に、『ましろのおと』という別のアニメと、昨年実写映画にも出させていただいたんですけど、基本的な演技経験はありません。できる限りの資料を集めてキートンさんをトレースしていますが、本田さんには「君は君でやりなさい」と言われます。キートンさんのあの飄々とした感じはどうやってお作りになっているのですか。

キートン:むしろ作らずにありのままでやっています。厳しいことを言っていても、心では笑って許しているんです。これは本気じゃない、愛情込めてるんだよという瀬戸際をいつも意識しながらやっていました。嫌味に聞こえたらアウトですから。


きむら:私からさらに質問なのですが、舞台に立たれていた時はどんな役柄を演じることが多かったのですか。

キートン:僕はコメディが大好きだったから、劇団でもコミカルな役ばかりやっていました。でも演劇論みたいなものは昔から苦手で、いくら考えても、やってダメならダメ、器用じゃないからそうやって開き直っていました。
僕はナレーションより舞台の方が好きなんです。むしろ、ナレーションは苦手です。芝居の場合、台本はあるけど原稿がないぶん自由です。ナレーションの原稿は、人の書いたものを、さも自分が考えたかのようにしゃべらないといけないんだから大変ですよね。


きむら:私はそれがけっこう好きなんですが。私の場合、ラジオでアナウンスの基礎を教えてもらって、いつの間にかテレビのナレーターになっていました。
たしかに、『ポツンと一軒家』でもすごく自由にやられている印象を受けます。

キートン:尺が決まっているから、完全に自由ではないですけどね。あれは僕が主役の番組じゃない、番組に出てくる人々と景色が主役ですからね。ナレーションはBGMです。あの番組で出てくる人たちは急いで生きてないのがいいですね。毎回見とれながら喋ってましたよ。見とれすぎて原稿読むのを忘れちゃう時も度々あったけど(笑)。

きむら:見とれNGですか(笑)

キートン:そう。楽しかったですね。原稿さえなければもっと楽しいんだけど(笑)。

声はウソをつけない

――キートンさんは、ナレーションが苦手とおっしゃいましたが、これだけ長いキャリアを積んでこられた秘訣はあるのでしょうか。

キートン:40代や50代でできないから辞めるというのも悔しかったですし、「これだ」という到達点になかなか辿り着けずに、ずっと試行錯誤しているうちにここまで来ただけです。
僕も60代になって、もし70代になっても仕事をもらえていたらどうすればいいかと、それ以降の生き方を考えました。ナレーターは普通、声の若さを保とうとするものですけど、僕はそれをやらずに、70代になったら70代のしゃべり方をしようと決めたんです。そう決めたら無理しなくていいから楽になりました。実は65歳のころから密かに全ての仕事の中で70代を意識してしゃべってました(笑)


きむら:40代の頃が声としては一番バリトンのある時期ですから、みなさん維持されようと努力するのですが、それは随分思い切りましたね。キートンさんが落語の名人のような「枯れる魅力」を作っていただけたのも大きいと思っています。

キートン:はい。それで仕事がなくなったらしょうがないと思っていました。これは自分の生き方を決めたというだけの話で、能力でもなんでもありません。
若い時は先輩の真似をしたこともありますが、真似では所詮勝てないことがわかって、あきらめて自分流で思ったままにしゃべるよう頑張ってきました。それがだんだんとキートン節と言われるようになったので、それを大事にしてきただけですね。

きむら:声は一番正直さが伝わります。人は表情や身振り手振りでかなりウソをついているらしいです。例えば料理番組でも「これ美味しいですね!」と言っても、本当に好きじゃないとバレるものなんです。ですから、私もウソのない放送に参加する以上は、ウソを言わないように気を付けています。

キートン:それは音の専門家も言っている事で、そういう人となりは本当に声に出るんですよね。ウソがばれたら恥ずかしいですから、最初からこういう人ですと思われていたほうが楽です。だから、自分にも嘘をつかずにそのままでやるのが一番いいんです。

きむら:キートンさんがおっしゃるように、声には大変なリアルがあるんです。「声は人なり」、ですね。


『ちびまる子ちゃん』作品概要


『ちびまる子ちゃん』は、静岡県清水市(現・静岡県静岡市清水区)を舞台に、そこに暮らす一家・さくら家の次女である小学3年生のまる子(さくら ももこ)と、家族や友だちとの日常を、楽しく面白く、時に切なく描いた心温まる作品です。
 1986年に『りぼん』(集英社)で連載を開始し、原作コミックスは全17巻が発売中。発行部数は累計3,250万部を突破(デジタル版を含む)、海外版は台湾・中国・タイ・マレーシア・韓国でも出版されました。1990年からはテレビアニメ放送もスタートし、フジテレビ系列で毎週日曜日夕方6時より放送中。中国、台湾、香港、インドネシアなど海外でも放送され、世界中の老若男女を魅了し、長きに亘り愛され続けています。


(C)さくらプロダクション/日本アニメーション