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『Zガンダム』曲ヒットでも「お役御免」森口博子がデビュー35年アルバムと諦めなかった「歌うこと」語る

2021年08月07日 17:01  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●デビュー当時を振り返る
アーティストの森口博子がデビュー35周年イヤーに記念アルバム『蒼い生命』をリリース。本アルバムには、『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』などを手掛けた神前暁とのコラボ曲や、デビュー曲でもあるTVアニメ『機動戦士Zガンダム』OPテーマ「水の星へ愛をこめて」の「森口博子35人アカペラヴァージョン」などが新録されている。そんな本アルバムの聞きどころ、そして「歌」と「絆」と共に駆け抜けてきた35年の想いを彼女へ聞いた。

○●すべての方々に感謝を

──デビュー35周年記念アルバムの発売おめでとうございます。

ありがとうございます。4歳の頃から歌手になりたいと思い、17歳でデビュー、そして35年も歌手として生かしていただけたことが嬉しくて仕方ありません。それもこれも、私の歌声を必要としてくれるファンのみなさん、この厳しい業界を一緒に戦い、支えてくださっているスタッフのみなさんや家族・友人のおかげ。すべての方々への感謝の気持ちでいっぱいです。

──いろいろな人に支えてもらったから、35年続けてこられた。これまでの活動のなかで印象に残っていることは?

かつて堀越学園卒業間近に、一度リストラ宣告にあって歌手としての活動が危ぶまれたときもありました。でも、「どんな仕事でも頑張ります」と事務所にお願いをして、バラエティ番組の仕事に挑戦することになりました。そうしていくうちに、劇場版のアニメ『機動戦士ガンダムF91』の主題歌のお話をいただいたんです。おかげ様でオリコンウィークリー初のベスト10入り、NHK紅白歌合戦、全国ツアーと繋がって、私のやりたいことをスタッフのみなさんがつないでくださったんですよね。そして、ファンのみなさんが歌っている私の姿を見て「感動した」「鳥肌が立ちました」と言ってくださった。その声が何よりの原動力になりました。

──歌手を目指していたけど仕事はバラエティ方面に舵を切った。そのことに抵抗はありましたか?

どちらかというと、事務所の組織表から除籍されているのを見たショックのほうが大きかったですね。色々なことをやって結果が出なかったのなら「そうだよね」と納得できます。私は、『機動戦士Zガンダム』のOP「水の星へ愛をこめて」でデビューして、その楽曲はスマッシュヒットを飛ばしたんですけど、事務所には「もうお役御免」という空気が漂っていたんです。

──ヒットを飛ばしたのに、なぜ……。

その理由は同じ事務所に同期のアイドル、松本典子ちゃんがいたからです。当時は1プロダクションにつき1アイドル推しという時代だったので、同じ会社にアイドルの同期ふたりがいることがほぼあり得なかったんですよ。

──なるほど……そういう時代だったんですね。

そういった大人たちの都合には抵抗がありました。それでも、夢であった「歌うこと」は諦めたくなかったんです。だから、とにかくバラエティなどの仕事をして顔や名前を覚えてもらい、自分の夢につなげようって気持ちで、がむしゃらに頑張りました。

──どんなことをしてでも、夢を諦めなかった。その気持ちはどこからきていたのでしょうか。

はい。常に食らいついていくスピリッツは母親譲りかもしれないですね。私が小学2年生の頃かな。母はひとりで4姉妹を育ててくれたんです。大変なことばかりだったと思いますけど、弱音を吐くことはありませんでした。そんな母の背中を見て、自然と諦めない精神がDNAに刻まれたんだと思います。
○●母から学んだこと

──出会いや支えはもちろんですが、その諦めない精神も長く続けてこられた理由かもしれません。

続けていれば必ずチャンスがあると思っています。自分の本位じゃないジャンルだとしても続ける。「この仕事を絶対歌につなげる」と思って活動してきました。「つなげたい」じゃなくて「つなげる」。母はいつも「なりたい自分をイメージしてから寝なさい」と言っていましたそして、「そのために今やっていることは、ぜんぶがチャンスだから」と激励もしてくれました。それが根拠のない自信となり、プラスに働いたんだと思います。

──35年続けてこられたもうひとつの理由は、歌が好きという気持ちがずっとあったからなんだろうなとも思いました。

本当にそうですね。中学生のころに発疹と高熱が出て病院に行ったら、風疹と診断されたんです。家で安静に寝ていなきゃいけなかったのですが、私は起き上がって、松田聖子さんの曲を熱唱していました。ふらふらになりながらも。とにかく歌いたかったんです(笑)。そのとき、私はどんな状況でも歌いたい、歌だったら歌える人間だと思ったんです。

──逆に、歌ったことで辛さなどを乗り越えられたのかもしれません。

確かに、歌っていたらぜんぶ忘れられたんですよね。家庭環境も少し複雑で大変でしたけど、私が歌うと家族は笑顔になってひとつになるし、学校のお楽しみ会などで歌ったら友達が喜んでくれました。どんなときも歌が私を助けてくれたんです。歌という夢が私を後押ししてくれました。夢の力ってすごいですね。

●「青」ではなく「蒼」の理由
○●平凡は奇跡

──夢の力と出会いの後押しで歌手活動を続けてきた森口さん。2021年8月にこれまでの軌跡や想いが詰まったアルバム『蒼い生命』がリリースされます。

『蒼い生命』というタイトルは、リリース決定前から決めていました。地球って、海の「青」もあれば、草木など緑の「蒼」もあるじゃないですか。だから、この「蒼」は地球の色のひとつだと思ったんです。いま地球規模全体で問題が起きていますが、地球というひとつの生命がつながれば、この問題を乗り越えていける。そんな想いや祈りをタイトルに込めました。

──「蒼い生命」はアルバムに収録される表題曲でもありますね。

表題曲は、人とのつながりや絆をテーマに制作しました。緊急事態宣言が発令されている昨今、人と人とがふれ合うことが出来ないことが、こんなに閉塞的で苦しかったんだと実感しました。だからこそ、心と心で繋がることが生命線だと。この曲の詞は、シンガーソングライターQoonieさんとの共作ですけど、「平凡は奇跡」という歌詞は、私が常日頃思っていた言葉でもあります。これは、厄年のときに体調を壊したり人間関係がうまくいかなくなったりして四面楚歌になったときに痛感した言葉。また、世界中の人たちが見えない何かと戦っている閉塞的な現状を振り返って出てきた言葉でもあります。

──平凡ではない日常が続いているからこそ、平凡な日が大切だと思った。

大切で、愛おしかったですね。曲を聴いてくれたファンの方からは「大切な人に会いたくなった」「背筋を正して生きようと思いました」「心が浄化されました」という感想をもらいましたが、その言葉の重みがいつもとはちょっと違いましたね。

──今の状況と相まって、より響いたのかもしれません。

歌でメッセージが伝わるってこういうことなんだと思いました。反響が届くと私もより気持ちが入ります。この歌詞のような世界になることを祈りながらレコーディングもしました。絆が輝く、命が輝く、美しい地球になることを今まで以上に望んでいます。

──本アルバムの初回限定盤には「蒼い生命」のMVが収録されたBlu-rayが同梱されます。こちらはどのような仕上がりですか?

MV収録前に、「曲やタイトル通りの壮大な世界を表現するために、絶対に青空は撮りたいよね」と、監督・ディレクター・スタッフの方々に相談していました。そんな想いに反して、天気予報はずっと雨。MV収録が梅雨時だったので、外での撮影は諦めムードが漂っていました。でも、MV収録の日だけ、光が差し込んできたんです。ずっと雨の日が続いていたので、奇跡だと思いました。私たちの「穏やかで平和な日々が来れば」という一筋の祈りのようでした。おかげさまで、神秘的で壮大な映像が誕生しました。

○●事実を元に書かれた「陽だまりのある場所」

──本アルバムには、神前暁さんが作曲を担当された「陽だまりのある場所」も収録されています。

神前さんとは、BS11で放送されている『Anison Days』で出会いました。番組内で私は神前さんの楽曲をカバーしたのですが、胸が締め付けられるような切なさに感動して、涙が出てきたんです。その時、「いつか曲を書いていただきたい」と思い、今回ラブコールさせていただきました。実は、神前さんもその番組の時に、私に曲を書きたいとおっしゃってくれて……感激です!!

──どのような楽曲に仕上がっていますか?

温かくて美しくて切なさの極みです。神前さんには最初の打ち合わせで「切ない陽だまりがイメージです」とお伝えしました。20代の頃は熱く燃えるような夢への想いがあると思います。でも、年齢を重ねたとしても陽だまりのような、途絶えない夢への気持ちがありますよね。私は2019年にカバーアルバム『GUNDAM SONG COVERS』をリリースしてオリコンウィークリーで3位にランクインし、日本レコード大賞で企画賞を受賞できました。そして昨年、続編『「GUNDAM SONG COVERS 2』もオリコン/Billboard JAPANともに週間アルバムランキング2位にランクインして幸せでした。歌手として再評価してもらって、夢には締め切りがないなって思ったんです。

──作詞はご自身で担当されていますね。

神前さんの曲が細胞レベルで好きすぎるゆえか、身構えてしまって、なかなか詞が書けませんでした。想いがあるものの、どうまとめればいいのか迷ってしまいました。結局、歌詞が完成しないままオケ録り(伴奏録音)の日を迎えてしまい……。ただ、ストリングスの音を聞いたときに、メロディに導かれるように詞が思い浮かんだんです。

──具体的にはどのようなイメージが浮かびましたか?

先ほどお伝えした夢、そして、故郷について浮かびました。先日、子供の頃から慣れ親しんでいた福岡の遊園地「かしいかえん」が閉園となることが発表されました。「かしいかえん」は福岡の人に何世代にも渡って愛されている遊園地で閉園するなんて信じられなかったです。恐らく、こういう状況下でなかったらずっと続いていた遊園地です。そのニュースが悲しくて仕方ありませんでした。ただ、こういう体験や想いをしている方って、きっと私だけじゃないと思うんです。日常の光景が減っていく、大切な場所の景色が変わってしまった人も少なくないと思います。そんな状況でどうやって夢と向き合って生きていくのか、ということを詞に込めました。

──そのお話を聞いてから歌詞を見ると、かなり写実的な印象を受けました。

事実を元にドラマチックにしているという訳ではなく、Aメロから最後の一言までぜんぶが事実です。プリプロ(仮のレコーディング)では神前さんの曲の素晴らしさと、ふるさとの思いとで、号泣して歌えませんでした。本番は冷静に頑張りました!

●喜び・悲しみをみなさんと共鳴したい
○●「ポジション」は大人への応援歌

──アルバム新録曲の「ポジション」は、1993年にリリースされた「ホイッスル」のアンサーソングとのことですが。

元々はライブでファンの方と声を出せる曲を作って、10月のアニバーサリーコンサートで歌いたいと思っていたんです。それをアルバムにも収録予定だったんですけど、まだまだ声を出してのイベント開催が難しそう。それなら、アルバムには違う曲を収録したほうがいい、という話になってたんです。そこでディレクターさんから「みんなが聞いていて元気が出る『ホイッスル』のようなサマーソング」というアイデアが出て、いっそアンサーソングにしてみようと思い、制作がスタートしました。

──本曲でも作詞を担当されています。こちらはどのように想いを詞に込めたのでしょう。

大人って日々揺れるじゃないですか。若い頃は勢いで突き進めたけど、経験が邪魔をしてやる気がそがれてしまうことがあると思うんです。そんな揺れる心に丁寧に向き合っていき、核はブレないようにしようという応援歌にしたくて、歌詞を書きあげました。それにプラスして、音楽プロデューサーの時乗浩一郎さんから、私の決意表明が聞きたいと言われたので、その想いも含まれています!

──「ため息をブレスに変え 歌を歌おう」という歌詞がとても刺さりました。

このパート、みんなから人気なんですよ! 時乗さんも「ここ最高だね」と言ってくださいました。「はー……」というため息は、大概がマイナスな気を吐いているときだと思います。ただ、それをブレスに変えて、大きく息を吸えばポジティブな気持ちになれる気がしたんです。思わずため息をつきたくなるときだってあるけれど、それをブレスに変えて人生を謳歌しよう、楽しく歌おうというメッセージをこの歌詞に込めました。最初は違う言葉を入れていたんですが、しっくりこなくて。書き換えてよかったです。

──そして作曲も担当されていますね。

私が「ラララ」と口ずさんでいるメロディに時乗さんがキーボードでコードを付けてくださるという感じでしたが(笑)。「こういう感じ?」「いや、私の頭のなかではちょっと違う音が鳴っていて……」というやり取りをしながら作っていったんです。謎解きクイズみたいで大変でしたね(笑)。でも、その大変さも楽しみました。
○●35年の積み重ねを歌声に乗せた「水の星へ愛をこめて」

──アルバムを締めくくるのは「水の星へ愛をこめて ~35人の森口博子によるアカペラヴァージョン~」。チャレンジしてみていかがでしたか?

『GUNDAM SONG COVERS』では、『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』の「めぐりあい」を、「30人の森口博子がアカペラでカバー」というチャレンジをさせていただきました。声のみを重ねていく作業って神聖だと思い、もう一度あの体験をしたいと思ったんです。今度はさらに人数を増やして、「水の星へ愛をこめて」35周年に因んで、 35人の森口博子で歌う多重録音に挑戦しました。

──を聞くだけでもレコーディングが大変そうです。

難しかったですね。メインボーカル、コーラス、楽器パートまですべて私の口で奏でるんですよ。楽器なら出せる音でも、人間だと音録りが困難な音階もあって大変で、途中から脳トレのようになっていました(笑)。ただ、その声を積み重ねていく作業が、色々なことを乗り越えてきた35年間の1年、1年を重ねていくようにも思えたんです。35人の私=みんなとの歴史です。

──それが森口さんのデビュー曲である点もグッときます。

そうですね! ファンの方々との出会いの曲でもあるので、これからも大切に歌っていきたいです。17歳で一生歌い続けられる普遍的な楽曲に出会えたのは本当に恵まれていました。気絶しそうなほど美しい世界ですよね。売野雅勇さんの詞が哲学的で、ニール・セダカさんの曲が壮大で……! 『ガンダム』ファンでない方にもぜひ聞いて欲しい一曲です。

──そして10月3日には、東京国際フォーラム・ホールCにて35周年アニバーサリーコンサートの開催も予定されています。

今回のアルバムは、『ガンダム』ファンの方、私のファンの方どちらにも聴いて欲しい自信作の1枚となりました。それを引っ提げてのコンサートとなります。私はアニソンとポップスの架け橋のような存在になりたいと思いながら活動を続けています。コンサートも、アニソン・ポップスが融合した、色々な人が楽しめるステージにしたいですね! コンサートは私のエネルギー源です。また、喜び・悲しみをみなさんと一緒に共鳴できる場所でもあるので、ぜひ想いをぶつけに来てください。

──最後に、40、50周年に向けての目標を教えてください。

とにかくライブの回数を増やしたい! アニバーサリーの度にみなさんから聞かれますが、この気持ちはずっと変わりません。直接ファンのみんなと会える機会をもっともっと増やしていきたいです。場所は問いません! ライブ会場・ホール・ショッピングモールなど、どんな場所でも歌って、触れ合いたいですね。そう! みなさんとの触れ合いと拍手と笑顔が、大好物なんです!
○●『蒼い生命』

・CD収録内容
M1.蒼い生命
M2.鳥籠の少年
M3.I wish ~君がいるこの街で~
M4.陽だまりのある場所
M5.ポジション
M6.星より先に見つけてあげる
M7.生命の声
M8.水の星へ愛をこめて ~35人の森口博子によるアカペラヴァージョン~
●初回限定盤
価格:3,850円(税込)
※MV4曲が収録されたBlu-ray同梱
●通常盤
価格:2,750円(税込)(M.TOKU )