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なぜディーゼルのMT? 人気のルノー「カングー」が最終形態に!

2021年08月07日 12:11  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
ルノー「カングー」の現行型が、いよいよ生産終了となる。フランス生まれで愛嬌たっぷりの人気MPV(多目的乗用車)が、最終形態として送り出す限定車はなんと、ディーゼルエンジン搭載のマニュアルトランスミッション(MT)車だ。ファミリー層に人気のクルマなのに、なぜこんなに思い切った限定車を用意するのか。その秘密を試乗して探った。

○実は人気の組み合わせだった?

ルノー「カングー」はフランス生まれの5人乗りスライドドア付きワゴン車だ。日本で買えるのは乗用車のみだが、欧州などでは商用車も販売している。しかも、欧州では商用車が販売の主力であるため、極めて実用的な作りなのだ。現行型の導入開始は2009年9月。大型の草食動物を彷彿させる「ゆるキャラ」的な優しいスタイルと商用車譲りの高い積載性が支持され、たちまち人気車へと成長した。

カングーの特徴のひとつはMT比率の高さだ。MPVでありながら、なんと全体の15%ほどがMTで、多いときは20%近くに達したこともあった。この数字は、カングーに運転好きのオーナーが一定数いることを意味している。なんとも不思議なクルマだ。

最後の限定車となる「リミテッド」は、カングーで初めてクリーンディーゼルエンジンと6速MTを組み合わせたというなんともマニアックな仕様。しかし、世界的に商用車ニーズの高いカングーでは、当たり前の仕様でもある。実際、ディーゼル+MTの仕様は、カングーの中で最も多く生産されているモデルなのだという。

欧州を駆け回る「はたらくカングー」の乗り味を、日本のお客さんにも味わってほしい。今回の限定車には、輸入元であるルノー・ジャパンのそんな思いが込められているのだ。

限定車のデザインを見ると、前後黒のバンパーと黒の鉄チンホイールという仕様が「フレンチシック」を感じさせる。特別仕様を意味する「リミテッド」を名乗るにはなんとも質素だが、なんとこれが人気の仕様であり、これまでの限定車でもたびたび採用されているのだ。

全6色のボディカラーのうち、4色は過去の限定車に使った色を復活させた。例えば黄色の「ジョン ラ・ポスト」は、フランスで郵便車に使われている色そのもの。実際にカングーは、本国では郵便車としても多く活躍しており、まさにリアルなコスプレ仕様といえる。

この他の特別装備としては、LEDデイライトやバックソナー、専用エンブレムを装着している。どれも取り立てて特別なアイテムではないが、その飾り気のなさもカングーらしい。

最大の特徴となるディーゼルエンジンは、カングーとしては初めて導入するもの。環境性能に優れたシステムで、尿素SCRとDPFによる排ガス処理システムと最新式コモンレールシステムを備える。

エンジン本体は1.5Lの4気筒SOHC直噴ターボで、最高出力116ps/3,750rpm、最大トルク260Nm/2,000rpmを発揮する。燃費消費率は19.0km/L(WLTC)だ。ちなみに、カタログモデルであるガソリン仕様の1.2L直列4気筒DOHC直噴ターボは最高出力115ps/4,500rpm、最大トルク190Nm/1,750rpm、燃費消費率12.9km/L(JC08モード)となっている。

燃費の測定基準が異なるため直接の比較はできないが、より現実的なWLTCモードで、ガソリンよりも圧倒的に優れた燃費を叩き出すディーゼルの経済性の高さは一目瞭然といえるだろう。ただ、車重に関してはディーゼルの方が70キロ重い1,520キロなので、重量税はディーゼルの方が高くなる。さらに、尿素SCRに使うアドブルー(尿素水)の必要もあるが、補充頻度も少ないので、大きな負担にはならない。結果的には燃費で解消できる程度の差と考えてよいだろう。

1.5Lのクリーンディーゼルターボは、カタログモデルの1.2Lガソリンターボと比べると「もっさり」しているといえるが、エンジン回転数が上昇するとともにモリモリと力が沸き上がるような加速感は頼もしい。これならば、たくさんの荷物を積んでもへっちゃらと思わせてくれる。そのキャラクターは、普段は温厚でのんびりしているが、いざとなれば力を発揮するゾウやパンダのような感じ。そんなキャラも、愛らしい見た目とも重なるところだ。

ディーゼルのトルク感の恩恵を強く感じるのが発進時。ラフなクラッチ操作でもエンストしにくいから、誰もが運転しやすいMT車となっている。MTのギア比は専用品で、低い回転数をしっかり使う設定だ。細やかなシフトチェンジは必要となるが、そこもクルマを運転する楽しさにつながるところだし、力強さと燃費の良さの秘密でもある。それでいて、最新の欧州車のように、あっという間に速度が出てしまうような加速が売りのクルマではないから、免許にも優しい。

限られたパワーをいかして元気に走る姿は、かつての欧州コンパクトカーとも重なる。安全に運転を楽しめることが、MT派を引きつける秘訣なのだろう。もちろん欧州車らしく高速走行も得意なので、どこへでも連れて出かけられる。シートもしっかりしているし、乗り心地も悪くないから、同乗者から不満が出ることもないはずだ。

気になる価格は、MTのガソリン車の17.3万円高となる282万円。ちょっとお高いなと思うかもしれないが、燃費が良くて頑丈なディーゼルとの組み合わせなので、長くカングーに乗りたい人や仕事や趣味で長距離を走り回る人には悪くない選択となるはずだ。しかも最後の限定車で、現行型カングー唯一のディーゼル車という希少性も加わるのだから、リセールバリューも期待できるのではないだろうか。

限定車の販売台数は400台のみ。ここまで紹介しておいて誠に申し訳ない次第なのだが、HPを見ると「好評につき完売」(8月3日時点)とのメッセージが掲出されていた。カタログモデルの生産も終了して店頭在庫のみというから、手に入ればラッキーという状況が悔しいところだ。ただ、フランスでは新型カングーが発表済みで、商用車に続き乗用車仕様もデビューしている。ルノー・ジャポンも「1年くらい先になるかもしれないが、新型カングーを必ず導入する」というから、今回の機会を逃した人は、新型を期待して待つのもありだ。

大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら(大音安弘)