トップへ

河村市長の金メダルかじりは器物損壊罪? 「まじでキモい」と批判殺到

2021年08月06日 19:41  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

名古屋市の河村たかし市長が、東京五輪ソフトボール日本代表・後藤希友選手の金メダルを無断でかじった問題が、大きな波紋をよんでいる。


【関連記事:カーテンない家を「全裸」でうろつく女性、外から見えてしまっても「のぞき」になる?】



後藤選手が今月4日、表敬訪問した際、河村市長は突然マスクを外し、後藤選手に断りもなく金メダルを口に入れ、歯をあてて噛むポーズをとった。



これを受け、柔道の高藤直寿選手やフェシング元日本代表の太田雄貴さんらが河村市長の振る舞いを「選手に対するリスペクトが欠けている」などと批判。さらに後藤選手が所属するトヨタは「残念に思う」と、河村市長に反省を求めた。



強い批判を受け、河村市長は5日、「ご本人様の長年の努力の結晶である金メダルを汚す行為に及んだ」などと謝罪した。しかし批判はやまず、6日に予定されていた名古屋市と名古屋グランパスエイトとの包括協定の締結式が中止となってしまった。



SNSには「まじでキモい」などと河村市長を強く非難するものから、「器物損壊では?」と法的問題を問う声も上がっている。果たして、河村市長の行為は、法的問題にも発展する可能性はあるのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。



●「器物損壊罪」は成立する?

――河村市長の行為には他のメダリストからも疑問の声があがるなど、強い批判を受けています。



まず、刑事責任の面から検討します。実際に立件されるかどうかは別にして、理論的には確かに器物損壊罪(刑法261条)の成否が問題となります。



河村市長が金メダルをかじったことにより金メダルに歯形などの傷がついてしまった場合には、物質的に金メダルの形体を変更・滅失させたといえ、器物損壊罪(刑法261条)が成立します。



――金メダルに何ら傷がつかなかった場合はどうでしょうか。



器物損壊罪の「損壊」は、器物を物質的に変更、滅失させる場合だけではなく、事実上もしくは感情上、物の本来の効用を害すること、いわゆる物の効用を喪失させる行為も含むとされています。



裁判例では荷札をとりはずす行為(最高裁昭和32年4月4日判決)、他人の飲食器に放尿する行為(大審院明治42年4月16日判決)、自動車のフェンダーなどに人糞を塗りつける行為(東京高裁平成12年8月30日判決)などがこれに該当するとされています。



――今回のケースはどう考えられますか。



今回のケースで、河村市長は金メダルを口でかじり唾液等を付着させていますが、過去の裁判例の放尿や人糞などと比べれば、感情上物の本来の効用を害する程度は明らかに低いと思われます。



しかしながら、新型コロナウィルスが蔓延している状態下で他人の唾液等を付着させる行為はウィルスの飛沫感染などの恐れもあるため慎重に判断されなければなりません。



参考判例として先ほどあげた東京高裁平成12年8月30日判決は、人糞を塗りつけた行為について、その量が極めてわずかで、容易に除去できる態様であるなど特段の事情があれば器物損壊罪は成立しないと判示しています。



今回のケースは人糞や尿ではなく唾液であること、市長は新型コロナウィルスに感染していないと思われること、その量も極めてわずかで消毒して拭けば容易に除去できる態様であること等を考慮すれば、器物損壊罪は成立しないと判断される可能性はあると思います。



ただし、刑法上、器物損壊罪は成立しないとしても他人の金メダルを断りもなくかじるような真似は、常識人として、また新型コロナウィルス感染対策上も控えたほうがよいでしょう。



●民事では「不法行為」が成立するかどうかが問題

――民事責任はどうでしょうか。



市長が金メダルをかじった行為について不法行為責任(民法709条)が成立するかが問題となります。



金メダルに歯形などの傷をつけた場合には不法行為責任に基づく損害賠償責任が発生します。



これに対し、金メダルに何ら傷がつかなかった場合であっても、選手の承諾なく勝手に金メダルをかじるという行為自体が選手に対するリスペクトを欠く行為であり、選手に精神的苦痛を与えたものと評価される余地はあると思います。



そのような場合には不法行為責任に基づく損害賠償責任(慰謝料)が認められる可能性も否定できません。



――現時点で法的な問題をとる動きは見えていませんが、河村市長の行動には法的な問題になる可能性はあるのですね。



はい。金メダルに傷がついた場合、刑事面では器物損壊罪が成立し、民事面で不法行為に基づく損害賠償責任が発生します。



また、金メダルに何ら傷がついていない場合でも、刑事面では器物損壊罪が成立しない可能性が高いものの、民事面では金メダルをかじるという行為により選手に精神的苦痛を与えたものとして不法行為責任に基づく損害賠償責任(慰謝料)を負う可能性は残されていると思います。




【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官の資格も有する。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/