2021年08月04日 09:51 弁護士ドットコム
長年連れ添った夫婦が熟年離婚を選ぶことも珍しくありません。弁護士ドットコムに相談を寄せた女性は「夫の退職金」の行方が気になり、相談を寄せています。
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先日、55歳で会社を早期退職した夫から、離婚の申し出がありました。退職金の明細や通帳などを一切見せないまま家を出た夫ですが、女性は3千万円の退職金があるとみて、財産分与で請求しようとしています。
とはいえ、退職からすでに9カ月が過ぎており、女性は「残金が無いと言われてしまえば退職金については請求できないのでしょうか」と質問を寄せています。
はたして財産分与において退職金を請求することはできるのでしょうか。鳥生尚美弁護士に聞きました。
——今回のケースでは、早期退職後に離婚を切り出されたようですが、退職金は財産分与の対象になりますか。
原則として、離婚をする時点(すでに別居をしている場合は別居時点。以下「基準時」といいます)において夫婦それぞれが保有している財産で、婚姻期間中にできた財産が財産分与の対象になります。
すでに支給された退職金は、預貯金として管理されていることが多く、基本的には、離婚をする時点の残高が財産分与の対象になります。
夫から「すべて使ってしまって、ない」という主張をされた場合、基準時より後に使い果たしたのであれば、基本的に関係ありません。
基準時より前に使い果たした場合は、その使途を確認しましょう。たとえば、退職金で住宅ローンの残債を返済した、というような場合には、退職金が原資の「預貯金」だけ見ると減少しているかもしれませんが、不動産の評価の中で考慮することができます。
——買い物や旅行など夫個人の判断で浪費してしまったような場合はどうなりますか?
内容によってその支出がなかったものとして分与額を決め、結果的に浪費分を夫の取り分から支出したように扱うことを交渉することがあります。
ただ、夫の財産状況から「ない袖は振れない」状態になる可能性も否定できません。退職後に不足した、夫婦の生活費に充てられたような場合は、残っている金額をもとに話し合う必要がある場合もあります。
——退職金を使われそうな場合はどうすれば良いのでしょうか。
支給された退職金が勝手に使い果たされてしまう、隠されてしまう可能性が高い場合で、それによって財産分与が受けられなくなる可能性が高い場合には、退職金が預けられている口座を仮に差押えることを検討した方がいい場合もあります。支給前であれば、退職金請求権を仮差押えすることも考えられます。
仮差押えが必要な場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。夫の説明に納得がいかない場合、あるいはそもそも退職金の支給額や財産状況について説明を求めても応じてもらえないという場合には、調停の申し立て、あるいは弁護士への相談を検討するといいでしょう。
【取材協力弁護士】
鳥生 尚美(とりゅう・なおみ)弁護士
早稲田大学法学部卒業。2006年弁護士登録(第二東京弁護士会所属) 日本司法支援センターの常勤弁護士を経て、あけぼの綜合法律事務所を開設。 中心業務は離婚・相続などの家事事件、とりわけ子の親権、監護者指定、面会交流、養育費等離婚問題の中での子どもに関する事案を多数取り扱っている。
事務所名:あけぼの綜合法律事務所
事務所URL:http://www.akebono-sogo.jp