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『ハイ☆スピード!』から『DIVE!!』まで ”水泳”をめぐる名作小説&ライトノベル4選

2021年08月02日 10:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 夏のオリンピックと言えば、やはり目が向く水泳競技。最速を競う競泳の自由形短距離やチーム力が問われるリレー競技、そして一瞬の演技にすべてをかける飛び込み競技など多彩な競技がプールを舞台に繰り広げられる。勝利する選手たちはどこが違うのか。飛び込み競技の面白さはどこにあるのか。そんな水泳競技を見るツボを教えてくれるライトノベルや児童書が数多く出ている。読んで登場人物たちに憧れて、オリンピック選手になった人もいるかもしれない。今回はそんな水泳をめぐる名作を紹介したい。


(参考:【画像】紹介している書籍を手軽に画像で


■京アニ作品『Free!』の原作小説 おおじこうじ『ハイ☆スピード!』


 同じスイミングクラブに通っていた小学生たちが高校で再会し、水泳部を立て直すテレビアニメ『Free!』。その原作となった『ハイ☆スピード!』は、松岡凜が七瀬遙、橘真琴、葉月渚の通う小学校とスイミングクラブに転入してくるところから始まる。


 水に入っているのが自然で自由に泳ぎたい気持ちが強い遥と、練習熱心で記録に貪欲な凜という対極的な2人に真琴や渚が関わり、メドレーリレーに挑むまでが描かれる。水泳という競技に向かう意識が選手によって違っていること、泳ぐときは1人でも、仲間やライバルがいて力を発揮できる競技であることを教えられる。


 『ハイ☆スピード!2』では、中学生となった遥と真琴が、後に大学生となって再会することになる椎名旭、霧島郁弥と共にメドレーリレーに挑む。凜のフリーという種目へのこだわりが、この頃から始まっていたことなど、読んでおけばアニメを観た時に、キャラクターたちの内面をより深く感じられる小説だ。


■熱血水泳男子が女子小学生のコーチに 鼈甲飴雨『ピンク色のリトルマーメイド!』


 中学男子の水泳大会で好記録を連発していた鷺沢薫が進学した名門校のプールが、隕石の落下で使用できなくなった。泳げず困っていた薫に手を差し伸べたのは、水泳好きの理事長が運営する霊峰学園。薫はそこで練習の合間に小学生の女子たちに水泳を教えることになる。


 しかし薫は水泳にしか興味がなく、部員の1人が「コーチなんて必要ない」と拒絶すると、「じゃ、俺は泳ぐから」と突き放す。速くなりたい1人がフォームを見てもらい、的確なアドバイスを受け速くなっていく姿に周りも感化されていく。キツいが合理的な練習方法やフォームの矯正方法が書かれていて、水泳という競技を見る目を高めてくれる。


 女子から声をかけられ、「好きな水泳選手は」と聞き返すのはさすがに朴念仁過ぎるが、その一途さも魅力に見えてしまうから、やはり何かに打ち込んでいる人はカッコ良いということで。


■猛練習の間はプールサイドでおしゃべり 比嘉智康『泳ぎません。』


 比嘉智康の『泳ぎません。』は、タイトルどおりに泳ぐ描写が一切なし。キツい練習の間に、水泳部員の女子高生たちが何をしているのかだけが描かれる。


 コースロープを外したプールにビニールボートで浮かぶ。プールサイドにシートを広げて日本茶を嗜む。通販で買った1万円の水遁の術セットで水の上を歩き回る。3人の部員が好きなことをしてクールダウンに勤しみながら、放課後に3時間も番組を流す迷惑な放送部とか、美しさを追求する美容研究部グラマー&プリティといった、ユニークすぎる他の部活動の話に花を咲かせる。女子高生らしく恋バナも。


 これだけリラックスできればきっと成績もいいはずだろう。泳がないので分からないけれど。オリンピック選手たちもこんなクールダウンをしているのかな。


■1.4秒に全てをかける飛び込み競技 森絵都『DIVE!!』


 林遣都や池松壮亮の出演で映画になり、テレビドラマにもなりテレビアニメも放送された『DIVE!!』がテーマにするのは、競泳ではなく飛び込み競技。高さ10メートルから時速60キロで落下する、わずか1.4秒の間の演技にかける中学生や高校生のダイバーたちの熱い思いに触れられる。


 経営難で、次のオリンピックに代表を出さなくては潰れてしまうダイビングクラブが舞台。平凡な選手だったが、コーチに体の柔軟さと一瞬を見逃さない動体視力を見いだされ、急成長していく坂井知季や、海に向かって飛び込み鍛えた豪快さで見せながら、重大な欠陥を抱えた沖津飛沫の苦悩を通して、一瞬の演技にこめられたダイビング競技の神髄に近づきたい。


(文=タニグチリウイチ)