2021年07月29日 10:01 弁護士ドットコム
タレントの明石家さんまさんが、7月4日放送の「週刊さんまとマツコ」(TBS系)で、遺産はすべて国に寄付する考えを明かした。
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さんまさんは番組内で、「金残したところで、ろくなことにならへんからやな、娘とか息子とかに」「多額のお金を残して、人生甘くなってやな、(娘や息子が)変な人間になるのも嫌やしな」と発言。子の心配もあって、国への寄付を検討しているようだ。
この発言について、さんまさんの娘でタレントのIMALUさんが、「父が一生懸命に稼いだお金は、あくまで父のものですから。どう使おうと私には関係ありません。元から父の遺産はいらないですよ」と話したことを「女性自身」が報じた(同誌7月27日・8月3日合併号)。
同誌はさんまさんの発言を「相続拒否」、IMALUさんの発言を「相続放棄」と表現しているが、生前に相続人に遺産を残さないようにすることや、相続人があらかじめ遺産相続する権利を放棄することはできるのだろうか。五十嵐里絵弁護士に聞いた。
——遺産すべてを寄付するなどして、相続人が遺産を相続できないようにすることは可能なのでしょうか。
自分の財産を死後どうするかについては、遺言で自由に決めることができます。
2人の子のうち1人に多めに、またはすべての財産を残すという、民法上の法定相続分とは異なる分け方を指定することもできますし、民法上の相続人(法定相続人)ではない人にすべての財産を残すという遺言も有効です。
ただし、一定の法定相続人には最低限の遺産を確保するための制度が設けられており、遺言の内容にかかわらず、遺産の一定割合を取得することができます。これが「遺留分」という制度です。
たとえば、遺産のすべてを寄付するという遺言がある場合でも、子が法定相続人であるときには、被相続人の死亡後に、本来の相続分の2分の1を遺留分として求めることができます。
遺留分を求めるかどうかは各相続人の意思に任せられているので、遺産の取得を希望しない場合には遺留分を求めないという選択をすることもできます。
——遺留分を求めないことは、「相続放棄」と違うのでしょうか。
「相続放棄」は、遺言がない場合、または遺言で自身の取得分が指定されているなど、自らが相続する財産があるにもかかわらず、これを放棄するという手続です。
家庭裁判所で所定の手続をとる必要がありますが、遺留分についてはただこれを請求しないでいればよく、特に手続は必要ありません。
以上は被相続人の死亡後に問題になる内容です。
——被相続人の生前に、あらかじめ相続放棄をすることはできますか。
民法では、被相続人の生前に相続放棄の手続をとることは認められていません。そのため、IMALUさんもさんまさんが亡くなる前に相続を放棄することはできません。
他方で、遺留分については被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得ることにより、事前に放棄することができます。被相続人の死亡後と異なり、家庭裁判所で手続をとらなければ放棄できないので注意が必要です。
——被相続人の死後に遺留分を請求するかどうかを選択できるにもかかわらず、あえて事前に放棄することにはどのような意味があるのでしょうか。
遺留分の事前放棄は、親の財産を相続したくないという意思を示すというより、親が1人の子に多くの財産を相続させ、他の子の遺留分を侵害するような内容の遺言を残す場合に、あらかじめ相続トラブルを回避するためなどに用いられることが多いのではないかと思います。
【取材協力弁護士】
五十嵐 里絵(いがらし・りえ)弁護士
新聞社に記者として勤務した後、法科大学院に進学、弁護士に。離婚・男女問題、遺産相続、企業法務を取り扱う。
事務所名:辻山・五十嵐法律事務所
事務所URL:http://www.tyig-law.jp