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電気の時代、スポーツカーはどうなる? 新型「GR 86/BRZ」で考える

2021年07月28日 11:31  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース

トヨタ自動車とスバルが共同開発するスポーツカーがフルモデルチェンジして新型となった。今度の「GR 86/BRZ」は排気量が現行型の2.0Lから2.4Lに拡大。もちろん、マニュアル車の用意もある。クルマの電動化が加速する中、この手のクルマは貴重な存在になりつつあるが、今後はどうなるのだろうか。開発陣に聞いてみた。

○電気の時代もクルマの味が大事?

「GR 86/BRZ」はトヨタが企画とデザインを主導し、スバルが開発、評価、製造を担当するスポーツカー。現行型は2012年に発売となった。

新型BRZのプロトタイプでスペックを確認すると、ボディサイズは全長4,265mm、全幅1,775mm、全幅1,310mm(ルーフアンテナを含む。ルーフ高は1,280mm)。エンジンは水平対向4気筒で排気量は現行型の2.0Lが新型では2.4Lにアップしている。最高出力は235PS(7,000rpm)、最大トルク250Nm(3,700rpm)。後輪駆動でシフトはオートマチックとマニュアルがある。価格はまだ分からないが、グレードは「R」と「S」の2種類から選べるようだ。まだプロトタイプの段階なので諸元は開発目標値となる。

新型はスバルの運転支援システム「アイサイト」を搭載するなど安全性能が向上している。衝突安全対応や商品性向上のため、何もしなければ車体重量は現行型より75キロ増えるところだったのだが、ルーフパネルやエンジンフードをアルミ化するなどさまざまな部分で軽量化を図ったことにより、重量の変化は±10キロ以内に収まったそうだ。

「4シーターの本格スポーツカーとしては世界一安くて、世界一軽い」。トヨタ GRプロジェクト推進部のチーフエンジニアである末沢泰謙さんは、GR 86/BRZをこう評する。スポーツカーを極めるため、操る楽しさを最大化するには「軽量化が何といっても重要」というのは、スバル 商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャーの井上正彦さんから聞いた言葉だ。

事程左様に軽さが重要なスポーツカーにとって、電動化は難しい課題であるに違いない。モーターとバッテリーを追加で載せるとしても、あるいはエンジンを外して電気自動車(EV)にするとしても、重量アップは不可避だからだ。それに、電動化すればクルマは高くなる。ただ、カーボンニュートラル達成に向け「電動車」の販売を増やすことは国の目標でもあるので、スポーツカーづくりにとってみても、電動化は無視できない要請であるはず。そのあたりを踏まえ、末沢さんと井上さんに話を聞いた。

マイナビニュース編集部:初代「86/BRZ」の発売から10年近くが経過しましたが、スポーツカーを取り巻く事業環境に変化はありましたか?

末沢さん:カーボンニュートラルを含め、変化が待ち構えているのはこれからでしょうね。

電動化については、今回はまだ話題に上がりませんでした。このクルマらしさを、どうやったらより進化させられるか、ファンに支えていただいているクルマでもありますので、走りやデザインはもちろん、価格も重視して開発しました。電動化は将来的に考えていかなければならないテーマですので、いろんな選択肢がある中で、どうしましょうかと話を始めたところです。

井上さん:ここ数年で急激にカーボンニュートラルが話題となり、電動化、SDGs、ESGなどの言葉が出てきました。環境が変わっているのは間違いありません。ただ、「FUJI 86 STYLE with BRZ」(86とBRZのオーナーが参加でいるイベント)に出てみますと、若い方が思いのほか増えていますし、カップルの方もお見掛けしますので、スポーツカーが好きな方はやはり、いるんだなと思います。そういう人からすると、環境はそこまで変わっていないのではないでしょうか。

とはいえ、スポーツカーと聞くと「燃費が悪いんでしょ?」とか、「事故を起こすのでは」といったように、悪いイメージで捉えられるところはあります。そのあたりに関しては、スポーツカーこそ、クルマとして自分で運転し、移動して、楽しめるものだということ、過程を含めて楽しめるものだということをお伝えしたいです。それを理解していただいたり、そういう文化を作っていくということも、今後の使命だと思います。

今回は高いレベルのクルマづくりができましたし、(トヨタとスバルで)味の違いを出すこともできました。「少し部品を変えただけで、これだけ味の違うクルマが作れるんだ」という面白さを若い方にも、スバルとしては特に女性にもお伝えしたいと思います。

マイナビニュース編集部:なるほど。せっかくカーボンニュートラルや電動化の話題が出ましたので、そのあたりについて、もう少しお聞かせください。

井上さん:カーボンニュートラルに向けた動きには対応していかなければいけないのですが、移動の道具としてクルマがコモディティ化していいのか、という見方もありますので、自動車メーカーとしてはやるべきことのひとつであり、大きな課題だと思います。

マイナビニュース編集部:共同開発でありながら、各社で乗り味の違いを出せたということは、EVを作るうえでも役に立つノウハウになるのではないでしょうか。

井上さん:そう思います。「EVになると、クルマはみんな同じになるのでは」というような見方もありますが、自分でクルマをコントロールすること、動かすこと、運転する楽しみは残していくべきですし、クルマの運転をスポーツとして捉えたり、ドライブで景色を見て気持ちいいと感じたりすることも、やはり残していくべきだと思っています。クルマの動かし方にはいろんな味がありますし、それが自分に合うかどうか、あるいは、そのクルマに乗るとワクワクするか、安心と感じるかなど、感じ方もさまざまだと思います。

バッテリーとモーターで走るEVは、エンジンとガソリンで走るクルマに比べ、メーカーごとの違いが出しにくいのでは、という話はよく聞くが、トヨタとスバルは全く同じエンジンを積むクルマに各社の味付けを施し、違いを出すことに成功したとしている。両社はEVの共同開発でもすでに合意しているが、そちらも各社の味を持つクルマになるのかどうか、今から楽しみだ。

●(藤田真吾)