2021年07月27日 18:21 弁護士ドットコム
プラモデルなどの転売や買い占め行為を容認するような発言をツイッター上でおこなったとして、雑誌『月刊ホビージャパン』などを刊行するホビージャパン社がこのほど、編集者(社員)1人を「退職処分」にしたと発表した。
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報道によると、編集者は7月23日、自分のツイッターのアカウントで「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られているのが面白くないだけだよね」「頑張って買った人からマージン払って買うのって、普通なのでは」などと投稿した。
その後、炎上に発展していた。
ホビージャパン社は7月24日、「この度は軽率な発言で多くの方を不快な思いをさせてしまい大変申し訳ありませんでした」「皆様からのご意見を真摯に受け止めて、これまでの考えを改めていく所存でございます」と謝罪した。
さらに7月26日、編集者の「退職処分」とともに、常務取締役など3人を降格したことも発表した。
一方で、今回の「退職処分」について、ネット上では「重すぎる」という声もあがっている。法的にはどのように考えられるのだろうか。労働問題にくわしい市橋耕太弁護士に聞いた。
――「退職処分」とはどのようなものでしょうか?
ここで使われている「退職処分」というものが、いかなる処分を意味しているのかは明確ではありません。
考えられるのは、(1)普通解雇、(2)懲戒解雇、(3)諭旨(ゆし)解雇または諭旨退職(退職を勧告し、労働者に退職願を提出させた上で解雇する、または退職扱いとする懲戒処分)、(4)退職勧奨のうえで、合意退職ないし自主退職させた――というあたりでしょうか。
「処分」という言葉からすると、(1)~(3)のどれかで、あえて「解雇」としていないことからすると(3)の諭旨退職なのかもしれません。
――今回のケースのように、SNS上の発言で懲戒処分を受けることはあるのでしょうか?
SNS上での発言は、本来個人の自由ですが、それが会社の名誉や信用を毀損するような場合は、懲戒事由となる場合があります。
仮に、報道のようにホビー誌の編集者がホビー商品の転売行為・買い占め行為を容認するような発言をおこなったとすると、会社の名誉や信用を毀損すると評価されて、懲戒事由に該当する可能性があります。
ただし、懲戒事由に該当するとしても、どんなに重い処分でも自由にできるわけではありません。
特に、懲戒解雇や諭旨解雇・諭旨退職のような、雇用を失わせる処分については、当該社員をそれ以上雇用しておくことができないような重大な企業秩序違反が認められる必要があります。
あくまで一社員の個人的見解が述べられたに過ぎず、会社としてホビー商品の転売行為・買い占め行為を容認していると受け取られる可能性は高くはありませんし、たとえば当該社員のアカウントにおいて訂正・謝罪をさせるとともに、会社としての見解を発表することで、会社の名誉・信用は相当回復できるものと思われます。
そうすると、仮に今回、懲戒解雇や諭旨解雇・諭旨退職がおこなわれているとすると、処分が重すぎるとして無効になる可能性があります。
――今回の処分発表についてどう思うか?
今回は、会社としての迅速な対応をアピールするために早急な処分と発表を優先したのではないかと思われます。
もちろん、会社として、転売などを容認していないという姿勢を打ち出すのは重要でしょうが、本来、人事処分は慎重な手続きのうえでおこなわれるべきものであり、やや拙速な印象が否めません。
【取材協力弁護士】
市橋 耕太(いちはし・こうた)弁護士
日本労働弁護団事務局次長。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。労働事件・労働問題について労働者側の立場で取り組む。大学等で授業を行うなど、ワークルールの普及にも精力的に活動している。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:https://junpo.org/