2021年07月23日 08:41 弁護士ドットコム
コロナで結婚式・披露宴ができない――。日本ブライダル文化振興協会とゼクシィの調査によると、2020年度は全国で約27万組が延期を選択、ブライダル業界では1兆円近い損失が出ているという。
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本来であれば、大勢からの祝福を一身に浴びるはずだったのに、難しい選択を迫られることになったカップルたち。それぞれの葛藤を聞いた。
ある地方都市に住む佐藤さん夫妻(仮名)はもっとも運の悪いカップルに分類されるかもしれない。コロナの影響で結婚式を2回も延期することになったからだ。
元々は2020年3月下旬に挙式の予定だった。式場を予約したとき、「COVID-19」なんて病名はこの世に存在しなかった。
延期の決め手は同年2月27日、安倍晋三首相(当時)が全国の小中高に一斉休校を要請したというニュースだったそうだ。
「休校要請が出て、欠席の意向を示した人もいたので、悩み抜いて決めました。決めるまでの数日間は仕事が手につきませんでした。いざ延期を決めると、気持ちが楽になりました」
「式場からは当初、延期に130万円かかると言われていたんですが、(休校要請後の)2月28日に災害扱いで無料にすると言ってもらえたのも大きかったです」
しかし、延期後の予定日もコロナの影響で、さらに延ばすことになった。さすがに今回は「かなりの内金」を振り込むことになったという。
現在は今秋の挙式を予定している。すでに2人のワクチン接種は済んでいるが、昨今のワクチン不足報道を見ていると、出席者の接種が間に合うかには不安もある。
「もしかしたら来年に延ばすかもしれません。変更料がかかるので、この1カ月以内に判断しようと考えています。周りは親族だけでという人が多いんですが、みんなに祝ってもらう式を希望しているので。もう焦りもないですよ」
「3度目の正直」が叶い、多くの祝福があることを祈りたい。
記者の友人でもある高橋さん夫妻(仮名)も昨年3月下旬に福岡県で挙式予定だった。記者も出席予定にしていたが、同月半ばに次のようなメッセージが届いた。
「不安が大きくて結婚式を挙げても100%みんなに楽しんでもらえないんじゃないかと思い、かなり悩んだ上で苦渋の決断ですが、来年の3月へと延期することとしました」
記者はあわてて航空会社に連絡。キャンセル料はかからないと言われ、ありがたかったことを覚えている。
航空券のキャンセル料なら、仮に発生しても何とか割り切れる金額だ。しかし、結婚式のキャンセル料や延期料となれば、総費用が総費用だけにカップル、式場双方にとって重大な問題になる。
消費者白書によれば、2020年度のコロナに関する消費生活相談のうち、「結婚式」は3992件で、キャンセル料請求や延期に関するものが多かったという。東京地裁では、式場がカップルに損害賠償を請求する訴訟も起きている。
ただ、高橋さんも、1組目の佐藤さん同様、延期料金はかからず、日付変更料として費用の20%の先払いになったという。
こうして今年3月に延期し、結婚式を開いた高橋さん。しかし、かなり心臓に悪い展開だったようだ。
「(2回目の)緊急事態宣言の解除予定日の1週間後だったんですよ。毎日の感染者数を祈るような気持ちで見ていました。何とか開催できて良かったです。ただ、安全面から福岡の友人だけの招待になりました。やるからにはみんなでやりたかったので、ちょっとテンションが落ちましたね」
ということで、首都圏に住む記者は出席が叶わなかった。コロナが収束する日が来れば、仲間たちと改めてお祝いをしようと計画している。
林さん夫妻(仮名)は今年3月、都内の有名式場で結婚式を挙げたが、当時はまだ2回目の緊急事態宣言中だった。
「式場を決めたのは、1回目の緊急事態宣言が明けてからです。延長料金について事前確認したところ、3週間前までに言えば無料とのことでした。式場としては、緊急事態宣言下でも開催するというスタンスでした」
当初の日程では、林さんの式は緊急事態宣言が明けてからになるはずだった。しかし、宣言は延長された。
「延長が決まった段階で、いろいろな発注のキャンセルの期限がギリギリ、もしくは過ぎていて、仕事もある中、延期やプラン変更を検討する時間が本当に限られていました」
「緊急事態宣言下ではあったものの、解除間近で感染者数も減少傾向だったので、延期していつまた感染者数が増えるかわからない不安を抱えるよりも、ここでやってしまうほうが良いと思いました」
時期が時期だけに、招待者には無理して参加しなくて良い旨を伝えた。元々120人規模の披露宴会場に約60人を招待していたが、6人がキャンセルしたという。幸いなことに出席者から感染者は出なかった。
林さんたちのように緊急事態宣言下でも結婚式を開くカップルは珍しくなくなってきている。さきの日本ブライダル文化振興協会とゼクシィの調査によると、3回目の緊急事態宣言が発令された4月25日~5月31日では、カップルの68.5%がそのまま式を挙げているという。
とはいえ、当日に至るまでには強い葛藤もあったと林さんは語る。
「そこまでして式を挙げるべきなのか、クラスターが発生したらどうしようと悩み抜きました。最終的には両家の両親を交えて話して決めました」
「このタイミングを逃すともう出席できないかもしれない家族がいました。何とか身体の自由が利くうちにやりたかったですし、式を挙げてからでないと、子どもを作ることもできないので…」
コロナ禍に大勢で集まる結婚式・披露宴の開催には賛否があるだろう。地域やタイミングによって感染者数ほかの実情はさまざまだが、カップルは一様にギリギリまで思い悩み、当日を迎える。中には延期が難しい人たちもいるだろう。
やるからには、こんなご時世であっても良き思い出として残ってほしい。そのためには出席者も二人の葛藤に思いを致し、それに応える準備やふるまいをとる必要もありそうだ。