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英王室の悲しき「争続」 チャールズ皇太子が亡き父の爵位を末弟エドワード王子に与えたくない本当の理由

2021年07月20日 19:01  Techinsight Japan

Techinsight Japan

チャールズ皇太子とエドワード王子、エディンバラ公爵の継承問題に兄弟間の軋轢か
エリザベス女王とエディンバラ公フィリップ王配の第4子、エドワード王子(57)とその妻ソフィー妃(56)はヘンリー王子夫妻の英王室離脱、いわゆる「メグジット騒動」の中で王室での存在感を増すようになってきている。2021年4月に父エディンバラ公爵フィリップ王配が99歳で薨去した際、エディンバラ公爵の爵位は伝統に則り、チャールズ皇太子に継承された。しかし自身の爵位が“いずれ”エドワード王子に引き継がれることをフィリップ王配は希望しており、自然とその流れになるものと思われていた。ところがチャールズ皇太子(72)はこの案に賛成ではないようだ。『Daily Mail Online』『The Sun』などが伝えている。

1999年、エリザベス女王の第4子であるエドワード王子がソフィー妃と結婚した。婚礼に先立ち、王族の子女としては珍しくエドワード王子には公爵ではなくウェセックス伯爵の爵位がエリザベス女王より授けられることがバッキンガム宮殿から発表された。その声明の中にはさらに「女王、エディンバラ公、そしてプリンス・オブ・ウェールズ(チャールズ皇太子)は、フィリップ王配が現在保持している爵位が全て国王に返還された暁には、エディンバラ公爵の爵位がエドワード王子に授けられることに合意した」とも記されていた。フィリップ王配亡き後、そしてヘンリー王子夫妻が王室を去った今、精力的に公務をこなし女王の信頼も厚いと言われるエドワード王子夫妻にエディンバラ公爵の爵位が引き継がれるのは既定路線とみられていた。

しかしエディンバラ公爵の爵位を継承したチャールズ皇太子は、この案に乗り気ではないようである。チャールズ皇太子に近い人物はこう語る。

「チャールズ皇太子が今現在のエディンバラ公爵であり、この爵位をどうするかはチャールズ皇太子次第である。エディンバラ公爵はエドワードには引き継がれない。」

エドワード王子自身は、エディンバラ公爵を引き継ぐことを疑ってもいなかったであろう。彼の父が残した英国エディンバラ公国際アワードの理事であるだけはなく、父亡き後はパトロンとして継承することが期待されてきたからだ。

当然、亡きフィリップ殿下が切に願っていたエドワード王子へのエディンバラ公爵の継承がなされないかもしれないことに困惑が広がっている。チャールズ皇太子の狭量で意地悪な策略ともとれるが、チャールズ皇太子にも理由があった。

歴史を振り返れば、エドワード王子とソフィー妃が結婚したのは1999年。その2年前のダイアナ妃の衝撃的な死を乗り越え、比較的穏やかに過ごしていた時期であった。ウィリアム王子とヘンリー王子は2人ともまだ学生で、チャールズ皇太子のパートナーとしてカミラ夫人が登場することにも世間が慣れて来た頃である。

その当時、後の20年間に2人もの王室メンバーが離婚歴のある相手と結婚したり、ウィンザー家にアフリカ系アメリカ人の血を引く妃を迎え入れたり、その2人が米国カリフォルニアで大型商業契約を結び大金を稼ぎながらも「His Royal Highness(殿下)」の称号を維持したまま生活するようになるなど誰も想像していなかっただろう。

しかしながら2021年のイギリスは、当時とは全く異なっている。慣習や伝統が鳴りを潜め、多様性と実力主義の時代を迎えている。保守的なチャールズ皇太子であっても、彼の治世下のイギリスでは大きな社会的、文化的変革が訪れるであろうことを理解しているのである。その中で生き延びるには適応するしかない。父エディンバラ公爵フィリップ王配が亡くなる前から、チャールズ皇太子は未来について思いを巡らせるようになっていた。

王室の内情に詳しい人物はこのように語っている。

「エドワード王子が通過儀礼としてエディンバラ公爵になるかどうかだけではなく、王室上層部全体についての議論も行われてきました。」

チャールズ皇太子が戴冠した際には、彼の公務は合理縮小化され、他の王族たちもそれに倣うことになる。それに伴い、主要王族メンバーもより少ない人数で公務をこなしていくことになるという。つまりエディンバラ公爵の爵位をエドワード王子に授けるという行為は、チャールズ皇太子の目指す「王室のスリム化」に反する行動になってしまうのである。

もしエドワード王子がエディンバラ公爵を継承した場合には、現在王室の外で生きていくことを前提として育てられている息子のセヴァーン子爵ジェームズ(James, Viscount Severn)がゆくゆくはこの爵位を引き継ぐことになる。エディンバラ公爵はかつてジョージ1世が孫フレデリックのために作った爵位で、その後ヴィクトリア女王が次男アルフレートに、ジョージ6世がフィリップ王子にと二度継承されてきたが、もしかしたらチャールズ皇太子は自身の孫であるルイ王子に継承したいと考えている可能性もある。

チャールズ皇太子の友人達は、常々チャールズ皇太子に批判的であった父の何かをチャールズ皇太子が「我が物としたい」と考えたのではないかと語る。その一方で亡きエディンバラ公爵フィリップ王配の友人達は、数多の爵位を手にすることになるチャールズ皇太子ではなく、エドワード王子にエディンバラ公爵の爵位を引き継いでもらいたいと考えていたようであると語った。伝記作家のヒューゴ・ヴィッカーズ(Hugo Vickers)はこのように明かしている。

「チャールズ皇太子の持つ爵位の中に埋もれてしまって、二度とエディンバラ公爵の名を聞くことはないだろうからね。」

末っ子のエドワード王子と父・エディンバラ公爵フィリップ王配は常に非常に近い関係であったと王子の乳母だったメーベル・アンダーソン(Mabel Anderson)は語っている。夜寝る前に本を読み、バッキンガム宮殿の育児室に飾られた船の模型を作ってあげるなど素晴らしい父親だったという。

エドワード王子が生まれて以降、フィリップ王配の人生は変わったそうだ。

「彼の身になって考えてみてください。自分は王配として生きてきて、そこにチャールズが生まれて突如王位継承者となるのです。この王室という枠組みの中で恐らくは何も引き継ぐことのできない末っ子に愛情を注ぐのは人として自然なことで、だからこそ自分の爵位をエドワード王子に引き継ぎたかったのです。」

エディンバラ公爵継承問題にはまた、兄弟間の軋轢もあるという。2001年にソフィー妃が経営していたPR企業に身分を隠して潜入してきた記者に対し、主要閣僚メンバーを蔑んだ発言をしたことを暴露され、チャールズ皇太子はエドワード王子夫妻に商業活動から身を引くよう迫った。それ以来、チャールズ皇太子&カミラ夫人とエドワード王子夫妻は良好とは言い難い関係を続けている。

エディンバラ公爵継承についてエドワード王子が早とちりしているだけで既定事項ではない、と明確にしているとチャールズ皇太子の知人は語り、チャールズ皇太子夫妻の住むクラレンスハウスのスポークスマンは、「継承に関してのコメントは致しません」と『Sunday Times』の取材に答えたという。

時代の変遷の中で、チャールズ皇太子の難しい決断は亡き父、そして女王である母の願いにそぐわないものになるのかもしれない。女王の次男アンドルー王子がスキャンダルで公務引退を発表したり、ヘンリー王子が主要王族引退を突如発表しカリフォルニアに移住したりとする中で、女王からの覚えがめでたく近しい関係にあるとして注目を浴び始めていたエドワード王子夫妻。チャールズ皇太子のエディンバラ公爵継承の戦略やエリザベス女王の差配からも引き続き目が離せない。

(TechinsightJapan編集部 Aya Nezu)